日商 Assist Biz

更新

テーマ別企業事例 成功のカギは人材育成にあり

事例2 布団屋から〝眠り屋〟へと業態変更

沢田商店(滋賀県長浜市)

「社員はまだ“目利き”レベルまでは到達していません。レベルアップするには、私が手本であり続けることが大切」と語る沢田昌宏社長

長年にわたり寝具品一般の小売を続けてきた沢田商店。現代の住宅事情や顧客の睡眠環境に合った寝具を提供したいと、平成17年に「布団屋」から「眠り屋」へと業態を転換。「眠りのプロショップSawada」へと店名を変更した。それにともない社員全員に睡眠健康指導士などの専門資格の取得を促し、「快眠カウンセリング」と「快眠フィッティング」のスキルを身につけさせ、上質な眠りのサポートに日々努めている。

ライフスタイルショップに転換するも業績回復ならず

年間約300万人の観光客が訪れるという滋賀県長浜市。その観光スポットの一つである伝統的建造物群「黒壁スクエア」の一角に、沢田商店が営む「眠りのプロショップSawada」はある。店内には、寝心地を試せるベッドが並び、至るところに寝具選びのポイントや快眠を得るコツをまとめたポップ・チラシなどが備えられている。また、店の奥には、オーダー羽毛布団の製作や仕立て直しを行うための、リフレッシュマシンやサイクロン充填機が設置されている。沢田商店の様相は一般的な寝具店のそれとは少し異なっている。

そんな同店は明治23年に綿打ちで創業した、126年の歴史を持つ老舗だ。昭和37年に寝具小売店に転換。高品質・低価格の布団を提供し、高度成長期の波に乗って業績を伸ばした。ところが、昭和末期にその環境は大きく変わる。長浜市郊外に大型店が進出し、そちらに消費者が流れていってしまったのだ。平成を迎えたころから売上は減少が続き、ピーク時の半分以下になってしまった。4代目社長の沢田昌宏さんは当時をこう振り返る。

「この辺りはみな地元客を相手に商売してきたので、大型店に客を取られた店は次々と業態替えをしていきました。当店でも客層をもっと広げようと、13年に店舗の前半分を生活雑貨コーナーにし、ライフスタイルショップへとリニューアルしました。当初は父親(前社長)や社員からかなり反対されましたが、劇的に客層が広がり、にぎわいが戻ってきたんです」

しかし、にぎわいは戻ったものの、思うように売上は回復しなかった。雑貨目的の客は布団は買わない。3~4年が経過して、「このままではまずい」と危機感を抱いた。

睡眠のメカニズムと快眠できる布団には溝がある

そんなとき知り合いの紹介で、滋賀医科大学に睡眠学講座ができたことを知る。考えてみれば、布団屋として睡眠のメカニズムを知らないのは変な話だ。そして沢田さんは17年、睡眠学講座の受講を始める。「勉強すればするほど、日本で一般に流通している布団は眠りの本質から離れていると感じるようになりました。例えば、羽毛布団は羽毛がたくさん入っていて、『かさ』のある方が温かくていいとされていますが、そうとは限りません。現代の高気密・高断熱な住宅なら、そこまで『かさ』は必要ない。住宅事情や寝室の環境、性別などでも合う布団は異なります。ですから、お客さまにそれをきちんと説明して最適な布団を提案できるスキルを身に付けることが必要だということが分かりました。また、それを生かし、オリジナル布団づくりにも積極的に取り組むことにしたわけです」

こうして沢田商店は〝布団ではなく眠りを売る〟という新しいコンセプトを掲げ、快眠カウンセリングと快眠フィッティングを提案できる店へと変貌を遂げた。沢田さんも、同大睡眠学講座をベースにした日本睡眠教育機構が認定する「睡眠健康指導士・上級」の資格を取得。社員にも勉強を促し、全員が睡眠健康指導士(初級・中級)や睡眠環境診断士(日本睡眠環境学会認定)の資格を取得した。

「実をいうと、睡眠のメカニズムとそれに合う布団の間には大きな溝があります。睡眠や睡眠環境の知識があっても、『じゃあ、このお客さまに最適な布団はどれか』という答えは出ません。だからこそ、その溝を埋めることがビジネスになるわけです。それに同じようなことをしている同業者はほとんどいなかった。これなら当店でも1番が取れると確信したんです」

一時的に客を逃しても店のコンセプトを貫く

沢田さんが唱える「眠りを売る」ビジネスを軌道に乗せるには、社員のスキルアップが不可欠だ。たとえ資格があっても、客の眠りにまつわる悩みやニーズを聞き、問題点を見極めた上で、一人ひとりに合った寝具の提案をするのは容易なことではない。場数を踏んで経験値を上げるのが一番だが、ベテラン社員でも古い常識で布団を勧めたり、若手社員がベストではない提案をするケースも少なくない。そんなときは沢田さんがさりげなく同席して、別の選択肢を出すなどベストの提案ができるようにサポートしてきた。

また、羽毛布団や枕を買いに来た客でも、カウンセリングの結果、睡眠の質が悪いと判断した場合には、まず敷布団から勧めるようにと社員に伝えている。睡眠の質は敷布団に大きく左右されるためだ。それを十分に説明して客が納得すれば、敷布団と羽毛布団、敷布団と枕というように組み合わせて購入してくれることもある。だが、「敷布団まではいらない」と帰ってしまう人もいる。だが、沢田さんは一時的に客を逃がすことになっても、店のコンセプトを知ってもらうためにはこれも必要なことと割り切っている。

「『眠りのプロショップ』になってから、質のいい寝具が欲しいというお客さまが増えました。来客数は前より減りましたが、その分1人当たりの購入額は増え、平均して20~50万円。売上はピーク時に及ばないものの、借金もありませんし、安定した経営ができています。今後、市場のニーズは絶えず変化していくでしょうし、この業態でいつまでやれるか分かりません。でも〝よい眠り〟という本質を見つめながら、私も社員も日々勉強を怠らず、環境の変化に合わせしなやかに変化していきたいと思っています」

会社データ

社名:株式会社沢田商店

住所:滋賀県長浜市元浜町13-27

電話:0749-62-0057

代表者:沢田昌宏 代表取締役

従業員:7人

※月刊石垣2016年3月号に掲載された記事です。

  • 1
  • 2

次の記事

油津商店街/児島ジーンズストリート/宇都宮オリオン通り商店街/柏二番街

かつて人が集まりにぎわいを見せていた全国の商店街。しかし、今では人口減少、ヒトやモノの流れの変化、商店主の高齢化などの要因が重なり活気が失われている。今号はそんなな…

前の記事

福島商工会議所/大七酒造株式会社/仙台商工会議所/ファクトリーシリウス

2011年3月11日から早くも5年が経過した。多くの被災地では徐々に復旧が進んでいる一方で福島県は、原発事故の影響もあり、未だに厳しい状況に置かれている。今号は、本格復興に…

関連記事

株式会社マエダ/小川タクシー有限会社/べっぷの宿ホテル白菊

今年4月7日に発令された「非常事態宣言」で、社会生活や人の移動が大きく制限されたことにより、より大きな影響を受けた業界がある。「小売店・運輸業・宿泊業編」では、コロナ…

藤恵工業株式会社/若鶴酒造株式会社/信菱電機株式会社/丸安ニット株式会社

いまだ収束が見えないコロナ禍の影響は、日本の社会や経済に予想以上のダメージを与えている。この新たな感染症による厄災は、日本全国全ての地域や業種を問わずに企業活動や人…

札幌商工会議所/大阪商工会議所/岐阜商工会議所/近江八幡商工会議所

未だ収束が見えないコロナ禍は、日本社会や経済に甚大なダメージを与えている。この窮状を打破するため、全国515の商工会議所は一斉に動き出した。地域の企業や地域の特色・状…