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テーマ別企業事例 にぎわいを取り戻せ! 商店街の挑戦

かつて人が集まりにぎわいを見せていた全国の商店街。しかし、今では人口減少、ヒトやモノの流れの変化、商店主の高齢化などの要因が重なり活気が失われている。今号はそんななか、工夫を凝らし、まちなかににぎわいを取り戻そうと奮闘している人々をレポートする。

事例1 地元の人たちが育つ商店街、自走できるまちづくりを目指す

油津商店街(宮崎県日南市)

油津商店街振興会の吉川弘範会長(左)と“サポマネ”の木藤亮太さん(右)。「商店街内で新陳代謝ができる仕組みを考えていく必要があると思っています」(吉川会長)。「人口が少ないまちの商店街なので、あらゆる年代の人たちに来てもらえる商店街にしていきたい」と話す木藤さん

油津は宮崎県日南市の日南海岸沿いにある。天然の良港に恵まれ、40年ほど前まではマグロ漁なども盛んで、漁港にほど近い場所にある油津商店街も活気にあふれていた。しかし、マグロ景気が去ると、商店街は徐々に衰退。商店街にある店は一つ、また一つと閉店していった。日南市の人口は約5万5000人、油津地区だけでは5000人強。典型的な地方の小都市である。今、どこにでもある地方の小都市で、地域の特色を生かした魅力ある商店街を復活させるために奮闘している人々から話を聞いた。

商店街再生の人材を公募

油津商店街は長さ約400m(そのうちの半分がアーケード街)。昭和40年代には、80店舗以上が並んでいたが、今ではその3分の1程度にまで減少している。空き店舗率も約6割に達するほどだ。

そんな状況を打破するため、日南市は平成25年4月、「月額90万円!あなたの情熱で宮崎県日南市の商店街を活性化!」という人目を引くキャッチコピーで、油津商店街を再生する人材を全国から公募した。これは24年11月に認定を受けた「日南市中心市街地活性化基本計画」に沿って行われた施策だ。公募の役職名はテナントミックスサポートマネージャー(通称サポマネ)。応募条件は「採用後は日南市に居住」「4年で20店舗誘致」、その委託料として月90万円が支払われるというものだった。この公募について、油津商店街振興会の会長を務める吉川弘範さんはこのように振り返る。

「日南市の中心市街地活性化基本計画が認定されたのを受け、行政とともに商店街で何ができるか勉強会をしていました。そして、自身の商売に忙しい商店街の人間が片手間にやるのではなく、商店街再生のための組織が必要で、そのためには常駐して専門でやってくれる人が必要だと。行政側も商店街側も意見が一致したのです」

この募集に対して、まちづくりの専門家など国内外から333人が応募。公開プレゼンテーションで「自走できる商店街づくり」をテーマに熱意を持って語った木藤亮太さんがサポマネに選ばれた。応募した理由について木藤さんはこう説明する。

「私はそれまで福岡市の会社で、いろいろな地域のまちづくりのお手伝いをしてきました。しかし、出張で行くには行くのですが、そのまちにいる時間は少ない。それで本当に役に立つ提案ができているのかという疑問を常に感じていました。そんなときに日南市の公募があったのです。現地に4年間住み、地元に密着してまちづくりに直接関われる。これに魅力を感じ、会社を辞めて応募しました」

サポマネの任期は平成25年7月から29年3月までの3年9カ月。その間に20店舗を商店街に誘致・出店させなければならないが、最初の1年ほどは地域内での人脈づくりや、地域の人たちと一緒にまちづくりをしていく雰囲気をつくることに時間をつかっていった。

地域の人たちを巻き込む

木藤さんは商店街の店主だけでなく地域周辺の若者や女性たちともコミュニケーションを図る場を持ち、商店街再生のさまざまなアイデアを出し合っていった。そして、アイデアを形に変えていく。皆で考えたことを実行に移すことでまちが動き出した。商店街を「長い広場」として捉え、フリーマーケット、子ども向け運動会、ファッションショー、街角ディスコ、クリスマスライブなど、次々とイベントを仕掛けていった。

「商店街はご高齢の店主が多いので、若い人や子どもを持つ奥さまたちに声を掛けました。これは商店街の経済的効果を狙ったのではなく、地域の人たちを巻き込んでまちづくりのチームになるような関わりをつくりたかったから。そして、商店街はこれから面白いことをやっていくぞという空気感を伝えたかったのです」(木藤さん)

一方、商店街には新たに地域の人たちが応援したくなる店が必要と考えた。木藤さんは、かつて商店街がにぎわっていたころに地域の人たちの溜まり場だった喫茶店の再建に着手。空き店舗だった店を改装し「ABURATSU COFFEE」として再オープン。新規店舗1号店となった。木藤さんがサポマネに着任してから9カ月後の26年4月の出来事だった。

「その店の運営体制づくりが、商店街自走のための民間組織『株式会社油津応援団』へとつながりました。従来型のまちづくり組織だけでは、活動の領域が限定されたり、意思決定にスピード感が出ない。短い期間で結果を出す、この事業では完全民間の会社をつくる必要があります。それに私の任期が終わった後も商店街の企画やイベントを行う組織が残せる。スタッフは全員、地元の若者。まちづくりだけではなく、彼らの成長をサポートしていきたいと思っています」(木藤さん)

この『油津応援団』は完全民間出資の会社。油津というまちを応援しようという気持ちから、1口30万円を出資する。現在は出資者数33人で、出資額は合計1400万円にまでなったという。

26年12月には新規2号店「二代目湯浅豆腐店」がオープン。3号店は「手羽先番長」という宮崎市に本店がある手羽先料理の店で、名古屋で毎年開催されている手羽先料理コンテストで2年連続グランプリをとった名店だ。

「この店は、先方から出店したいと打診が来ました。こんな名店が店を出したいと言ってきてくれるまでこの商店街がなってきたのだと実感しました」(木藤さん)

平日型から週末型商店街へ

そして昨年11月、これまで準備を進めてきたものが一気に花開いていく。多世代交流の場として、かつてスーパーだった建物を改築した「あぶらつ食堂」と「油津Yotten」がオープンしたのだ。

「あぶらつ食堂」には現在5店舗の飲食店が入り、どの店の店主も宮崎出身の人たちばかり。その向かいにある「油津Yotten」は時間貸しで場所を提供する商店街の公民館のような役割を果たす。

翌12月には、その隣の空地スペースにコンテナを並べ、それを店舗にした「ABURATSU GARDEN」もオープン。パンやスイーツ、子ども服など6店舗が並んでいる。また今年4月には東京のIT企業が進出し、ここにサテライトオフィス(支社)を構えることも決まっている。徐々に増えてきた新規店舗。商店街振興会の吉川会長も、商店街の変化を実感しているという。

「通る人の年齢層も変わり、人数も増えている。これまでは平日型の商店街だったのが、今では土日型に人の流れが変わってきて、いい方向に流れていると思います。今後は商店街側も、この変化に対していかに自らを改革していくかが重要になってくると思います」

木藤さんには「20店舗」というノルマがある。それにもかかわらず出店してくれるなら誰でもOK、というスタンスではないと力を込める。

「人通りの少ない商店街に出店するにはよほどの強い意志や度胸がないとだめです。まちを変えていきたいという気持ちの部分がすごく大きい。一番いけないのは行政からの家賃補助などで出店のハードルを下げること。家賃が半分という前提で事業を始めて、将来、補助がなくなると出ていってしまうというのが、今までの商店街再生の悪いやり方でしたから」

昨年末で一気に新規店舗が増え、新規出店20店舗の達成も見えてきたが、決してそれが商店街再生のゴールではないと木藤さんは言う。

「シャッター街を解消することだけが商店街再生の仕事ではない。そこに若い人たちがチャレンジする場をつくり、彼らが、既存店の商店主と一体となって、元気な声で『いらっしゃいませ!』と言っている商店街にしていかないと、本当に変わったことにはなりません。そうでなければ、マイナスをゼロに戻しただけなんです。そこからさらにプラスに持っていかなければいけないと思うのです。私は油津商店街を再生させ、それがほかの地方都市に勇気を与えるものにしていきたいと思っています」

木藤さんの任期終了まであと約1年。しかしその目は、さらに先を見据えている。

※月刊石垣2016年4月号に掲載された記事です。

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