事例3 客のニーズをくみとりにぎわい復活に挑戦
宇都宮オリオン通り商店街(栃木県宇都宮市)
栃木県宇都宮市にある宇都宮オリオン通り商店街は、昭和6年に東武宇都宮駅が開業して以来、新馬場(ばんば)と呼ばれる商店街の原形を形成。戦後も順調に拡大してきた。しかし、集客の原動力となっていた地元百貨店の郊外移転、大手百貨店の撤退が相次ぎ、集客力が半減してしまう。そこで、オリオン通り商店街振興組合では商店街単独ではなくエリアとしての集客力を高め、新たな魅力を持った商店街の復活に動き出した。
わずか10年で人通りが半減
オリオン通り商店街は、全長500m(振興組合と曲師町商業協同組合の2団体で構成)を誇る商都宇都宮の中核をなす商店街だ。食料品や日用雑貨品を扱う店よりも、品質やデザインなどを比較して購入できるおしゃれなファッションを扱う店が多く並んでいた。だからこそ、「東京に行かなくても地元で買える」と人が押し寄せたのだ。そのシンボルとなっていたのは、二つの商店街をつなぐ役割を担っていた西側の東武百貨店と東側にあった上野百貨店、西武百貨店などの大型店だった。
しかし平成6年以降、地元百貨店の郊外移転や大手百貨店の撤退が相次ぎ、オリオン通り商店街を訪れる客も大きく減少してしまう。11年は7万7907人もの人が休日のオリオン通りを訪れていたが、10年後の21年には3万8516人と半減してしまった。
そこで、集客力を上げるために、アーケードのリニューアル計画が浮上する。寒暖の差が激しい宇都宮だけに、平成2年に全国初のポリカーボネートによる自然光を採り入れたアーケードとして一度建て替えが行われていた。しかし、既に20年が経過し、改修が必要なほど老朽化が進んでいた。そこで、買い物客の安全・安心を守るとともにイメージを一新しようとしたのだ。
同時に、来街者が商店街をどう評価しているか、何を求めているかをアンケート調査などを用いて分析することにした。すると、「オリオン通りに来ても『欲しいものがない』『店に入ってみようという気持ちにならない』という声に加え、『文化施設や休憩所をつくってほしい』『イベントをやってほしい』といった要望があることが分かりました」と振興組合理事長の長島俊夫さんは振り返る。
宇都宮一の繁華街として黙っていても県内外から客が来る時代は終わっていた。客を呼ぶためには「広域型商店街意識からの転換が必要だった」(長島さん)。そこで22年、地域密着型商店街としての意識を高めるため、商店街振興組合内部に未来創生事業委員会を設置。「未来創生事業計画」を策定した。そして、スキルアップ(商店街担当)、イベント(顧客の創出担当)、ギャラリー・カフェ&ホームページ(大学などと連携し空き店舗の再利用や情報発信)の3つのプロジェクトチーム(PT)を置き、課題の克服に努めた。
改修工事は補助金などを活用し、23年2月に完了。また、商店街でのイベント成功を後押しするため、市ではオリオン通りにある「オリオンスクエア」にパブリックビューイングなどにも使える大型映像装置を導入した。
「未来創生事業計画」に基づいた各事業は少しずつ実を結んでいく。24年夏、空き店舗の2階(現オリオンACプラザ)を借りて「夏休み思い出作り企画―『お化け屋敷』で宇都宮の逸話を」を開催したところ、女子中高生を中心とした10代や家族連れが目立って増えたという。今では、『お化け屋敷』が毎年夏休み時期の人気イベントとなっている。
一定の成果を収めている「お化け屋敷」。その一方で、23年から始めた「デジタルまんが祭りinうつのみや」は新しいコンテンツを活用した取り組みだ。地元芸術大学などとともに「デジタルまんが甲子園」の優秀作品審査会として開催したものであったが、現在では地元TV局が主催している「アニメまつり」と共同開催し、昨年度は地元で創出された「モーションコミック」の発表会を行うなど、地元資源として定着させようと取り組んでいる。
しかし、オリオン通り商店街だけで人を集めることはできない。地域全体で集客力を高めることが必要だ。宇都宮全体の発展に向けたさまざまな仕掛けとリンクした活動が欠かせない。例えば、「餃子(ぎょうざ)」。宇都宮は、餃子の消費量が全国でもトップクラス。この餃子を地域資源として磨きあげることに成功し、今では、餃子目当てで宇都宮にやって来る人も多い。
また、渡辺貞夫さんや、高内春彦さんなど著名なジャズプレーヤーを輩出した「ジャズのまち」でもある。宇都宮商工会議所内にはミヤ・ジャズ推進協議会が置かれており、毎年秋には、音楽イベント「ミヤ・ジャズイン」を開催。今では北関東最大の音楽イベントといわれるまでに成長している。このほかにも、「カクテル」「ジャパンカップサイクルロードレース」「宮コン」などの豊富なコンテンツが市外からの来街者増に貢献し、まちに活気をもたらしている。商店街自体の取り組みとの相乗効果もあり、わずか10年間で半減してしまった人通りの減少が現在は止まっているのだ。
売上回復への挑戦は続く
もちろんオリオン通り商店街は現状に満足しているわけではない。歩行者通行量と売上を増加させるためのチャレンジを続けている。長島さんは現在、商店街の本来あるべきさまざまな機能が現在の商業環境の中で発揮できておらず、集客力が回復したとは言い難い状況にあると分析する。そこで商店街に求められる事柄をあらためて明らかにするため「宇都宮市オリオン通り活性化調査事業」を開始。帝京大学宇都宮キャンパス地域活性化研究センターと提携して「学生の視点で調査して、商店街の活性化につながる提案をいただく」ことが目的だ。28年度中には学生の提案がまとまる。それを商店街にどのように生かすのか、今後の活動にさらに期待は膨らむ。
※月刊石垣2016年4月号に掲載された記事です。
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