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コラム石垣 2016年7月11日号 宇津井輝史

女性革命家ローザ・ルクセンブルクは、民衆が失敗の積み重ねから学習する結果が実り多いものをもたらすとの言葉を残した。英国民がEUからの離脱を選んだのをどう評価すべきか。

▼予想が覆り世界経済は混乱。英国自身も不利な選択をしたかのようである。だが世界は損得だけでは動かない。もっと大きな歴史のうねりの中での英国民の選択だったのではあるまいか。離脱派は単に移民に嫌気が差したわけではなく、遠のくばかりの主権を取り戻し、海洋国家が大陸欧州に飲み込まれるのを防いだ気分だろう。地政学の視点で見れば、いつか必ずこの日が来ただろう。

▼ 15世紀にフランスとの百年戦争に敗れて以後、一つの強国による欧州大陸支配を阻止するのが英国の戦略である。歴史を恐ろしく単純化すれば、第1次世界大戦はロシアに代わる新興国ドイツの台頭を許さない英国の意思で始まった。第2次大戦は再びそれを許すかどうかの戦争だった。そして冷戦は、ソ連による東欧支配を許すべきかをめぐる静かな戦争だった。英国はいつも勝者の側にいた。

▼EUの理想は崇高だ。戦争に明け暮れた欧州ならではの不戦の仕組みを構築した。英国も遅まきながら参加した。関税撤廃などで確かに経済は拡大した。だが、独仏伊が母体となったEUもいまや経済強国ドイツの一人勝ち。加盟国間の経済格差、国民の間の所得格差は増すばかり。EU官僚の上から目線も嫌われた。

▼世界はグローバル経済に疲れた。国民の生活を自国で決められないのは変だ。主権は身近にあった方がいい。そんな空気がナショナリズムと呼応し、国家という単位を突き崩す動きが広がっている。プレモダンへ回帰する世界史の転換がもう始まっている。

(文章ラボ主宰・宇津井輝史)

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