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テーマ別企業事例 “凄腕”女性プロデューサーの着眼力 新発想で停滞期を乗り越えよう

最近、「停滞期に入っている」と感じている経営者や担当者もいるのではないだろうか。女性ならではのユニークな発想と行動力で依頼主の期待以上の成果を次々と上げている“凄腕”プロデューサーの手法に学ぼう。

事例1 人が自ら動く仕掛けをつくってブームを巻き起こす

殿村 美樹(とのむら・みき)/TMオフィス

「佐世保バーガー」「今年の漢字」「ひこにゃん」「うどん県」……。人々の記憶に残る数々の地域ブームを仕掛けてきた、PRプロデューサーの殿村美樹さん。長きにわたり地域活性化や文化振興に特化し、成果を上げてきた。その裏には、客観的な視点で地域の魅力を発掘し、メディアと連携して盛り上げ、人が自ら求め動くように促す独自の手法があった。

とのむら・みき 株式会社TMオフィス代表取締役 PRプロデューサー、公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会理事。京都府宇治市生まれ。大学卒業後、大手広告代理店勤務を経て、平成元年に同社を設立。平成7年の阪神・淡路大震災を機に、地方と文化のPRに特化し、独自のPRノウハウを確立。佐世保バーガー、今年の漢字、ひこにゃん、うどん県などをはじめ、約2800件の実績を積む。『ブームをつくる人がみずから動く仕組み』(集英社新書)、『テレビが飛びつくPR』(ダイヤモンド社)、『売れないものを売るズラしの手法』(青春出版社)など著書多数。

アイデアさえあればお金がなくてもPRできる

殿村美樹さんは、「地方」と「文化」の分野で活躍するPRプロデューサーである。

「名刺を出すと、『どんな仕事をしているんですか?』とよく聞かれます。通常、PRは特定の商品やサービスを広く世間に知ってもらうために、メディアに取り上げてもらう企画を立てたり、イベントを行ったりすることをいいます。しかし私の考えるPRは、広く知ってもらった結果、それを買ったり、足を運んでもらうのが目的。人が自ら行動を起こしてブームとなる仕掛けをつくるのが私の仕事です」

実際、殿村さんはこれまで数々のブームを巻き起こしてきた。「佐世保バーガー」「今年の漢字」「ひこにゃん」「うどん県」など、全国区の知名度を誇るものも多い。しかも、低価格で仕事を引き受ける。現に、「うどん県」のPRでは予算30万円、「ひこにゃん」は予算300万円で受け、広告費に換算すると、前者は約100億円、後者は約200億円という大きな経済効果をたたき出している。

そんな殿村さんは、かつては大手広告代理店に勤務し、大企業相手に仕事をこなしていた。平成元年にTMオフィスを設立し、引き続き企業PRを行っていたが、転機が訪れる。7年に起こった阪神・淡路大震災で、殿村さんが当時住んでいた西宮市が甚大な被害を受けたのだ。

「それまでの自分の価値観が一変しました。辺りの家が倒壊し、多くの人が亡くなっている状況の中で、私の仕事は何の役にも立ちません。それなのに事務所に出社すれば、『被災地に寄付をするから、わが社の名前が大きく取り上げられるようメディアにリリースしてほしい』という電話が次々と掛かってくる。やる気も起きず、依頼を断っているうちにクライアントは離れていきました」

そんなとき舞い込んできたのが、「漢検受検者を増やしたい」という日本漢字能力検定協会からの依頼だった。予算は10万円。ふと受けてみる気になった瞬間、漢字にも旬があったらおもしろいと思った。そこで一年を総括する漢字一文字を広く募集し、一番多かったものを京都・清水寺の舞台で貫主に書いてもらうイベントを企画した。今や年末の風物詩として定着した「今年の漢字」だ。それを機に、「アイデア1つあれば、お金をかけなくてもPRはできる。そしてお金がない地方こそ、PRが必要」という強い信念のもと、地方と文化に特化した仕事にかじを切った。

独自の仕掛けと手法で大きな成果を上げる

限られた予算と時間の中で確実に効果を上げる、殿村さん独自の手法とは何か。まず一つは、ボトムアップ型PRだ。客観的な視点で地域の光る魅力を発掘し、それをメディアと協働して盛り上げる。そうして人が自ら動くよう促してブームを起こし、地域経済に定着させていく。企業PRのように、最初に理念ありきで戦略を練り、発信していくトップダウン型とは逆のアプローチをとるのだ。

「うどん県」を例にとると、「香川県はうどん県に改名します」というPR動画へのアクセスを増やしたいというのが依頼内容だった。架空の内容だけにメディアは相手にしてくれないが、〝うどん県〟という言葉にインパクトを感じた殿村さんは、20人のカリスマブロガーを招いた記者会見を企画する。彼らのツイッターやブログは瞬く間に伝播(でんば)し、県庁のHPにアクセスが殺到。一時サーバーがダウンしたことがニュースに取り上げられ、大反響を呼んだ。これは一般の人と協働してムーブメントをつくり、ブームを仕掛けた例といえる。

もう一つが、ズラしの手法である。「ひこにゃん」のケースでは、「国宝・彦根城築城400年祭」への集客が目的だが、単に城の歴史や成り立ちをPRしても、観光客は増えないと考え、視点を城から「ひこにゃん」にズラした。

「人に何かを伝えようとするとき、つい知識や理屈を並べがちですが、むしろ五感や本能に訴えた方が記憶に残りやすい。そこで『ひこにゃんと楽しむ2007年彦根の旅』を企画し、各メディアの女性記者を集めて記事を書いてもらいました。メディアが盛んに『かわいい、かわいい』と褒めると、本当にそう見えてくるんです。これは心理学的にも明らかにされていて、『皆がそんなに言うなら、見に行ってみようか』となるわけです」

その結果、彦根城には243万人もの観光客が訪れた。「ひこにゃん」も大ブレークし、全国の「ゆるキャラブーム」の先駆けとなったのは記憶に新しい。この手法を使うと、それまで興味を持っていなかった人の心に響き、自発的に「欲しい」「行きたい」「食べたい」と行動を起こさせるのだ。「うどん県もひこにゃんも、元からあったものに火を付けたにすぎません。ただ、私が火を付けたものは一時的なブームで終わらず、長く続いているのが唯一の自慢です」

人の心と体を支える 寺社と地域病院にも着目

こうして殿村さんが積み上げてきたPR事例は、実に2800件にも上る。かつては業界の誰も見向きもしなかった分野に特化してきたことで、しばしばアウトサイダーと言われてきたが、地方創生が叫ばれている今、その手法は方々から注目を集めている。

「前例やデータがないと、1歩が踏み出せないところも少なくありません。例えば静岡市では、当初『桜エビをPRしましょう』と提案した際、あまり良い顔はされませんでした。静岡には富士山やお茶があるのに、『なぜ桜エビ?』というわけです。でも、桜エビを生で味わえるのは、世界でも静岡市だけです。しかもカロリーが低くて、ハッピーカラーのピンク色なので、絶対女性に受けると説明したところ、任せてくださいました。このように他とは違う視点で魅力を発掘し、地方を元気にしたい」

現在、力を入れているのは、寺社と地域病院だという。寺社は「地域の心の支え」で、地域病院は「地域の体の支え」というのがその理由だ。すでに2年後に草創1300年を迎える「西国三十三所」を巡る記念事業のPRや、地域病院の新しいビジネスモデルづくりに取り組んでいるという。次はどんなアイデアで新たなブームを仕掛けるのか、その着眼点から目が離せない。

会社データ

社名:株式会社TMオフィス

所在地:大阪市中央区平野町4-7-7

電話:06-6231-4426

HP:https://www.tm-office.co.jp/

※月刊石垣2016年8月号に掲載された記事です。

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