「耳が痛い指摘をする人材が近くにいないと経営を間違いやすい」。ある金融サービス会社を、事実上の創業者として、日本を代表する企業に育て上げた経営者に聞いたことがある。起業したトップに共通した悩みだろう。取締役がイエスマンばかりでは、会社が誤った方向に進みかけたとき、ストップをかけられなくなってしまう。自社とは直接利害関係のない有力者を社外取締役や社外監査役に迎え入れるのは、こうした一方的な経営にチェックを入れる効果が期待されてのことのはずだ。
▼「なんちゃって社外取締役、みたいな人も多いんです」と企業のIR活動を支援する会社の代表は実情を打ち明けた。名誉欲から社外取締役を引き受けたものの、役員会では細かすぎる質問をしたり、本筋とは関係のない自説を展開したりして、円滑な議論を妨げる大学教授や元官僚が少なくないという。財務諸表に関する基本的な知識もない人が社外役員になっても、経営に貢献する度合は極めて低いだろう。
▼金融庁と東京証券取引所が先にまとめた企業統治原則「コーポレートガバナンス・コード」は、経営者にとって分かりやすい項目がそろっている。コードは上場企業を対象にしているが、非上場でも十分参考になる。特に重要なのが取締役会の責務だ。この中で取締役会は「会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力の改善に向けて責務を果たすべきだ」と明記されている。
▼先代社長の実績を上回りたいから、といった理由で短期的な業績アップ策を無理に押し進めれば必ず反動が出る。「耳に心地よくない」意見を言う幹部の声も取り入れ、会社の将来図を描くのがトップの責務ではないだろうか。
(時事通信社監査役・中村恒夫)
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