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コラム石垣 2015年8月1日号 丁野朗

2020年東京五輪のメイン会場となる新国立競技場建設計画が揺らいでいる。ザハ・ハディド氏によるキールアーチの斬新なデザインは評判となったが、その整備費は2520億円いう膨大な金額に膨れ上がった。見積額は不透明な中で二転三転し、結果として多くの国民の不信を買ったことから、安倍首相は、ついに計画のゼロベース見直しを指示する結果となった。

▼五輪では、「レガシー(Legacy)」という言葉が数多く語られる。レガシーとは「(オリンピックを契機とした)長期にわたる、特にポジティブな影響」のことを指す。しかし、レガシーの単語自体は、例えば「レガシーコスト(Legacy Cost)のように過去のしがらみから生じる負担といった「負の遺産」の文脈で語られることもある。

▼レガシーと似た言葉に「ヘリテージ=Heritage」もある。これは地域の歴史文化遺産や世界遺産などで用いられる。地域の歴史遺産は活用してはじめて継承できる。元通商産業事務次官の故佐橋滋氏は、1960年代末の北海道小樽運河埋め立て論争の真っただ中で講演し、「歴史的投資」(Historical Investment)という概念を用いて、安易な埋め立てをけん制した。それは、先人たちが未来に残した投資(宝物)であり、その活用こそが地域の知恵として試されているといった論旨であった。

▼今回の東京五輪が、今日の日本が抱える都市問題や経済・環境の再生、さらには高齢化や人口減少に伴う自信の喪失といった問題に対する現実的で具体的な解決の方向性を示し、その転機となることこそが、本来の意味のオリンピックレガシーなのであろう。

(公益社団法人日本観光振興協会総合研究所長・丁野朗)

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