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コラム石垣 2015年7月21日号 宇津井輝史

イランに「知は力なり」という詩句がある。民族叙事詩人フェルドウスィーの言葉である。ペルシャ人は古来、詩を愛好する。選び抜かれた言葉に人生の真実があると考える。効率至上のこの時代、詩人が尊敬を集める社会はまだ結構ある。

▼「知に働けば角が立つ、情に棹させば流される」とは『草枕』冒頭の名句。理屈だけでは人とぶつかり、感情ばかりに従っていては意見を通すことができない。とかく社会はままならないと漱石は教えた。

▼先ごろ文科省が全国86の国立大学に対し、教員養成系、人文社会科学系の学部や大学院について、廃止や縮小、あるいは社会的要請の高い分野への転換に取り組むよう通知した。法人化されたとはいえ、社会の求めに応じた改革を国立大学に期待するのは当然だろう。少子化で教員を減らすのも分かる。

▼だが文学部や社会学部などがすぐ役立つ人を育てていないという認識には疑問が残る。国際競争力を高めるには一層の技術革新が必要だし、理工系が重視される事情は分かる。「効率」よく「有用」な人材を育てるのが成長戦略の要諦であるのも否定はしない。

▼大学は学問の府である。英国のオックスブリッジをはじめ欧州の伝統ある大学では実学が軽視された。文学、法学、理数学が中心で、実用性の高い工学部や経済学部ができたのは近年である。文学部の目的は人間の研究であり、社会学部の目的は人と社会のよき関係の研究だ。社会に出てすぐ役立つわけではないが、このままならない社会の中で生きてゆくことの意味を大学で学ぶ意義は薄れていまい。詩で生計を立てるのは難しかろうが、役に立たない議論ができるのも学生時代だけの特権。役に立つ人材は学部と関係なく育つ。

(文章ラボ主宰・宇津井輝史)

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