政府は3日、第8回全世代型社会保障検討会議を首相官邸で開催した。オンラインで出席した日本商工会議所の三村明夫会頭は安倍晋三首相らに対し、最低賃金について意見陳述を行った。雇用維持と事業継続を最優先すべきとの考えを示し、全ての企業に強制力をもって適用される最低賃金の引き上げ凍結を訴えた。
最低賃金は政府方針により、中小企業の経営実態を大幅に上回る、4年連続3%台の引き上げが続いている。
会議で三村会頭は、最低賃金引き上げの直接的な影響を受けた企業の割合が41・8%と、年々増加の一途をたどっていることや、中小企業三団体で4月16日に策定した「最低賃金に関する要望」について説明した。要望では、第一に現下の危機的な経済情勢を反映した新たな政府方針の設定、第二に引き上げの凍結も視野に入れた、明確な根拠に基づく、納得感のある水準の決定、第三に政府は賃金水準の引き上げに際して、強制力のある最低賃金の引き上げを政策的に用いるべきではなく、中小企業が自発的に賃上げできる環境を整備すること、の3点を強く主張している。
また、日商が実施した景況調査の結果では、要望を策定した4月以降も経済はさらに悪化している。4月の休業者数は前月比で348万人増加し、非正規雇用者数は131万人減少するなど、足元の雇用情勢は急速に悪化。解雇や雇い止め、コロナ関連倒産が日増しに増えている。こうした状況を踏まえ、三村会頭は「緊急事態宣言は解除されたが、感染拡大防止策を徹底しながら経済社会活動を回復させていく必要があることから、経済が直ちに元通りになることは期待できず、長期戦を覚悟しなければならない。現下の情勢は先行きの見通しが立たない、正に100年に一度の危機」との認識を示すとともに、「当面は雇用の維持と事業の継続を最優先に図るべきである」と強調した。
さらに、「中小企業の労働分配率は72%と人件費負担は重く、支払い余力も乏しいのが実態。政府は雇用調整助成金により雇用を下支えしているが、最低賃金は赤字の企業や雇用調整助成金によってギリギリ踏みとどまっている企業を含め、全ての企業に強制力をもって適用される」と述べ、「今年度の最低賃金は、率直には引き上げを凍結すべき」と表明した。
安倍首相は「今は官民を挙げて雇用を守ることが最優先課題」と述べ、加藤勝信厚生労働大臣に新型コロナウイルスの影響を受ける中小企業に配慮するよう指示した。
最低賃金は、昨年6月の骨太方針において「より早期に全国加重平均が1000円になることを目指す」とされている。毎年改定し、労働者、使用者、公益を代表する委員で構成される中央最低賃金審議会で夏に目安を示す。2019年度の全国加重平均は901円だった。
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