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まちの解体新書 交通の要衝として発展を続ける市民に根付く先取り精神

霞ヶ城」とも呼ばれる「苗木城」を北恵那鉄橋から見た様子。多くの写真家が訪れる絶景スポットだ

〝第五の道〟リニアが開業

天照大神が生まれたときに「へその緒=えな」を山頂に納めたことが名前の由来だといわれている「恵那山」は、岐阜県中津川市のシンボル的存在だ。豊かな山々に囲まれた市内には、中津川や木曽川といった川が流れ、市の西部には奇岩が連なる景勝地「恵那峡」がある。 名古屋から特急で約50分とアクセスも良く、平成39年には、ここ中津川に「リニア中央新幹線」が開業予定だ。1県1駅のリニア停車駅が、中津川市西部のJR中央本線美乃坂本駅に近接して設置されるということで、まちを挙げた取り組みが始まっている。

「ほどよい田舎のリニア駅を目指したい」と、中津川商工会議所の丸山輝城会頭は語る。中津川は、古くから交通の要衝として栄えてきたまち。東山道・中山道・JR中央線・中央自動車道が通り、人や情報、文化が集まる場所となった。

丸山会頭は、「リニアは〝第五の道〟と位置付けています」と話す。

リニア駅をどうしていくかが、これからの課題です。住民のためにどうあるべきかを考えていかなければなりません」

その一つとして丸山会頭が打ち出しているのが、「リニアの5本柱」だ。新産業へのチャレンジ、道路のアクセス、医療、企業誘致、教育、といった五つの視点で、リニアを核としたまちの活性化構想を計画している。特に、教育レベルの向上が欠かせないという。

「アクセスの良さから、若い人たちの多くは名古屋に出てしまいます。私は、まちの活性化には移住・定住者を増やすことも大切ですが、交流人口を増やすことも重要だと考えています」

昨年、大学生・院生からなる討論グループ「KIP(一般社団法人KIP知日派国際人育成プログラム)」が中津川を訪れた。岐阜や東京の大学から30人の学生が集まり、リニア開業について白熱した議論を展開。丸山会頭も講演者として参加し、学生たちとディスカッションをしたという。「とても良い取り組みでした」と丸山会頭は振り返る。「交流人口を増やすためには、学生を大事にするまちでないといけません。学生と地域が交わることで、まちの活力が生まれると考えています」。

中津川商工会議所会頭 丸山 輝城氏

鉄道遺産を集約し産業観光の拠点に

リニアの開業に合わせ「リニアの見える丘公園(鉄道記念館)」の設立も目玉事業の一つ。鉄道のまちとして栄華を築いた中津川は、明治時代に中央線が開通すると国鉄マンが集まった。市内には当時の遺品や資料が多く残っている。丸山会頭はそれらを保存し次世代につなげていこうと、展示施設として鉄道記念館を整備し、遺品を集約させていこうと考えている。

公園基金をつくるため、平成25年から、利用者が一本購入するごとに基金として2円を募る自動販売機を市内に107台設置。一年間で60万本を売り上げ、120万円が集まった。「引き続き実施し、数千万円の基金を募れるよう、地域の皆さんに呼び掛けていきたいと思っています」と丸山会頭。3月には、「リニアの見える丘公園設立協議会」を市とともに発足させた。「過去の技術の集積、そして未来の乗り物リニアを体感できる公園にしたいです。また、リニア駅近くの丘陵地には、リニア車両基地ができる予定です。そこに向かうリニアを見ることができるのも一つの魅力。公園を産業観光のメッカとしていきたいと考えています」と丸山会頭は展望を語る。

中津川独自の菓子文化とものづくり力

江戸時代の風情を残す宿場町「馬籠」は木曽11宿の最南端。『夜明け前』などで知られる島崎藤村の記念館(生家跡)やカフェ、土産物屋が点在している

「『何かがあるから来る』ことが観光です」と話すのは、中津川市観光協会副会長の武川典靖さん。武川さんは、中津川を訪れた人に「また来たい」と思ってもらえるよう、お酒も楽しめる「大人の夜ご飯グルメガイド」や中山道の散策マップなど、自ら企画し作成している。「街道の要所『馬籠』があり、古くから中津川は人が集まるまちでした。この馬籠が外国人向けの観光案内本にも掲載され、最近は外国人観光客が目立ちます。特に欧米人は中山道を歩いて楽しむ人が多いですね。これからは外国人の受け入れ態勢もさらに充実させていきたいと考えています」

武川さんが10年ほど前から着目しているのが「栗きんとん」だ。中津川の栗きんとんは、蒸した栗を細かく刻んでつぶし、砂糖を混ぜ茶巾で絞ったもの。中津川が発祥の地といわれ、その由来は諸説あるが、山の恵みで誕生したお菓子だ。

栗きんとんをつくる菓子屋は市内に約60店も存在し、各店、味も食感も異なる。武川さんは「日本一の栗きんとんのまち」としてPRを図ってきた。「収穫時期を迎える9月になると新栗を使った栗きんとんを求めて、大勢の観光客でにぎわいます。10年前からは、観光栗園『いが栗の里』を始めました。9月の一カ月間限定で栗拾いができ、口コミで評判を呼んで3年目には8000人弱、10年目になると1万3000人もが訪れるほど、中津川の一大イベントとなっています」。

武川さんは、JR中津川駅前を中心とするエリアにある14の和菓子屋に声を掛け、詰め合わせセット「栗きんとんめぐり」を開発。「風流」と「ささゆり」の2種類を展開している。駅前の「にぎわい特産館」で限定販売し、平成25年には1万6000セットが売れる大人気商品となった。さらに、その14店の情報と、まちめぐりができる地図も制作。道の駅やホテルなど、市内約40カ所で配布している。

中津川では毎年10月に「菓子まつり」も行われ、市内菓子店が一堂に集結する同まつりには、市内外から多くの人が来場する。毎回和菓子職人がつくり上げる「工芸菓子」の展示も見どころだ。

「栗きんとんをはじめ、中津川の和菓子は、各地から中津川に働きに来た人たちの手土産として広がりを見せていったのです」(武川さん) 中津川は三菱電機、王子エフテックスなど製造業が集まるものづくりのまちでもある。明治時代には、地元の有力者らが、恵那山の豊富な木材と水を利用し製紙工業の誘致活動に注力。当時王子製紙の代表であった渋沢栄一に誘致を懇願した。交通の便がなく一度は断られるも、国鉄中央線が開通して4年後、渋沢氏の後援のもと中央製紙工場が中津川に誕生。こうして、ものづくりのまちとしての基盤がつくられた。

丸山会頭も「中津川市の工業出荷額は約3000億、県内第5位です。三菱電機などがあることで中小企業が集積し、東京で力をつけた企業はいち早く海外へ進出しています」と、ものづくり力について語る。

新たに誕生したグルメが市内外に浸透

とりトマ丼の仕掛け人となった「神戸館」代表取締役の前田僚之さんは、協議会会長として普及に努めている

昔から新しい魅力創出に積極的な中津川の人たち。「中津川にご当地グルメをつくろう」とまちの人が声を上げて誕生した「とりトマ丼」が、近年話題を呼んでいる。とりトマ丼は、中津川産の鶏肉とトマトを使用した丼で、1000円以下で市内の飲食店40店が提供している。中津川商工会議所の旅館飲食部会で結成された「とりトマ丼協議会」の呼び掛けでスタートした。

「商工会議所の協力が大きかったですね」と振り返るのは、同協議会会長の前田僚之さん。前田さんは、自身が営む洋食屋「神戸館」でもとりトマ丼を提供している。SNSの口コミを見てとりトマ丼目当てに訪れるお客が増えたとも語る。

その大きな反響を呼ぶきっかけになったのが、25年に受けたNHKの取材だったという。「『全国ご当地どんぶり選手権』を目指すことになり協議会は一致団結。選手権出場のためのとりトマ丼の開発に力を注ぎました」。

見事書類選考は通過したものの、本選出場には至らなかった。次年度はリベンジをと、市内北部を中心に飼育が盛んな飛騨牛とマツタケを使用し、パワーアップして再挑戦。ついに予選を通過し、本選への出場が決定した。

「入賞はできませんでしたが、強豪が揃う本選にまでたどり着けたことは自信になりました」と前田さんは振り返る。「この2年間、グランプリ出場を目指して走り続けてきました。今後は原点に返り、地域グルメとは何なのかをもう一度考えていきたいと思っています」。

参加店40店で実施しているスタンプラリーも好評だ。8店を巡ると食事券がもらえるもので、26年度は174人が達成。和、洋、中とさまざまなジャンルがあることや、ドライブを兼ねて食べに行けることが人気の秘密だという。「数人で回っていろいろなとりトマ丼を食べて、ラリーそのものを楽しんでもらえることが何よりうれしいです」と前田さん。とりトマ丼は中津川の代表食として、今後さらに浸透していくだろう。

活性化を目指すまちの人の挑戦

昨年11月に発足した女性会の初代会長に就任した吉村和子さん。「親睦を深め、まちを活気づけたい」と意気込む

昨年11月には、女性会が発足。初代会長に就任した吉村和子さんは、「できるところから一つずつ取り組み、まちを活気づけていきたい」と抱負を語る。「約70人のメンバーはこれまでお互い交流が少なかったので、親睦を深めながら意見を出し合って活動していきたいと思っています。まずは知り合うことが大切ですね」。

2月には、丸山会頭が会長を務める中心市街地活性化協議会の働き掛けで、商店街の空き店舗を使い、休憩所施設「まちぴあYOTECO」がオープンした。女性会をはじめ各種団体の活動拠点となることが期待されているほか、1階は気軽に立ち寄れる場となるよう「まちなかステーションねこのて」に運営を委託し、2階にはまちづくり組織「タウンマネージメント中津川」が置かれ、市と商工会議所の職員が常駐。施設全体の管理と中心市街地活性化の拠点としての役割を担っていく。

1階を運営する「まちなかステーションねこのて」は、商店街のにぎわい創出と世代間交流の促進を目的につくられさまざまなイベントを実施している。子育て中の母親を応援する取り組みにも力を入れており、ここに来れば休憩だけでなく気兼ねなく母親同士の交流もでき、ゆっくり買い物もできると、親子連れを中心に連日多くの来街者でにぎわいを見せている。まちなかコンシェルジュの林義文さんは、「情報交換や休める場として、地域のママたちや来街者の喜ぶ場所になれたら」と語る。

丸山会頭が中津川の魅力として最も強調するのは、市民の〝人柄〟。長年ハブとしての役割を担ってきたこともあって、情報を受け入れる吸収力、進取の精神が、中津川に根付いている。地域を思い、行動する市民の勢いが感じられる、パワーあふれるまちが、〝第五の道・リニア〟の開業に向け、さらに人の集まるまちに生まれ変わる。

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