Q 最近の雇用保険法の改正について、その内容を教えてください。
A 最近の雇用保険法の改正内容は多岐にわたるため、2016年、2017年の改正のうち、企業実務に影響を与えそうなものを中心に、いくつかの内容をピックアップしてご説明いたします。
近年の改正の流れを見ると、雇用保険の分野でも、長時間労働の問題や高齢化社会への対応、いかに出産・育児をしやすい環境を整備するかといったことが、企業にとって大きな課題となっているといえるでしょう。
適用拡大と緩和がポイント(2016年改正)
①65歳以上の者への雇用保険の適用拡大
高齢者雇用などをめぐる状況を踏まえ、新たに65歳以降に新規雇用される者についても雇用保険の適用対象とされることになりました。
なお、従前、64歳以上の者については雇用保険料が免除されていましたが、この免除措置も廃止されることとなります。ただし、経過措置により、64歳以上の被保険者については、実際の保険料徴収は2020年度からになります。
②特定受給資格者の範囲の拡大
2014年の改正において、賃金不払いを理由とする離職について、賃金の3分の1を超える額が支払期日までに支払われなかった月が引き続き2カ月以上あった場合に加え、「離職の直前6カ月の間のいずれか3カ月以上」あった場合にも、特定受給資格者に該当するよう、要件が緩和されていました。2016年改正では、さらにこれを緩和し、賃金の3分の1を超える額が支払期日までに支払われなかった月が1カ月でもあれば、これに該当するものとされました。
また、育児介護休業法で定められた一定の義務違反(例えば、育児休業、介護休業の申し出を拒むことなど)があったことによる離職の場合にも特定受給資格者に該当することが新たに定められました。さらに従前の、いわゆるパワハラ(故意による嫌がらせなど)、セクハラなどを理由とする離職による特定受給資格者認定に、いわゆるマタハラ(妊娠、出産などを理由とする不利益取り扱い)の場合が加えられました。
失業給付や育児休業の見直し(2017年改正)
説明の便宜上、一部、雇用保険法以外の法律の改正についても言及します。
①失業等給付の拡充(雇用保険法。2017年4月1日施行)
雇用情勢が悪い地域に居住する者の給付日数を60日延長する暫定措置が5年間実施されることとなりました。また、災害により離職した者の給付日数が原則60日(最大120日)延長されうることとなりました。
雇い止めされた有期雇用労働者の所定給付日数を、倒産・解雇など並みにする暫定措置が5年間実施されることとなりました。
倒産・解雇などにより離職した30歳~45歳未満の者の所定給付日数が引き上げられました(30歳~35歳未満:90日から120日に引き上げ、35歳~45歳未満:90日から150日に引き上げ)。この年代の所定給付日終了までの就職率が低いために、所定給付日数が引き上げられたものです。
②失業等給付に係る保険料率の時限的引き下げ(雇用保険法、労働保健の保険料の徴収等に関する法律。2017年4月1日施行)
3年間(2017年度~2020年度)、保険料率につき、0・6%に引き下げられました。
③育児休業に係る制度の見直し(雇用保険法、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律。2017年10月1日施行)
原則1歳までである育児休業を6カ月延長しても保育所に入れない場合などに限り、さらに6カ月(2歳まで)の再延長が可能となり、これに伴い、育児休業給付の支給期間も延長されました。
(弁護士・植村 周平)
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