IT業界から介護業界へ転身したカラーズ社長の田尻久美子さんは、紙と電話で行っていた業務管理をITの力で変えてしまった。従業員同士の連絡手段をコミュニケーションツールに変え、バックオフィス業務にはクラウド会計などを導入、画期的な成果を挙げた。
電話とFAXの代わりにビジネスチャットを導入
カラーズは在宅介護サービスを中心に福祉用具のレンタル・販売、バリアフリーにする住宅リフォームなども手掛ける。8年前、IT業界から介護業界へ転身した田尻久美子さんがまず驚いたことは「全てのやりとりが紙と電話で行われるということでした」。 例えば、ヘルパーは利用者の自宅に直行し、サービス提供が終われば直帰するということが多く、一般の会社のように朝集合して業務連絡や引き継ぎを行ってから、現場へ向かうという形態ではないので、コーディネーター業務を行うサービス提供責任者(サ責)が情報を集約し、再び必要な情報を個々のヘルパーに伝えなければならない。「そのためサ責は一日中電話に追われていました。電話の中には『○○の置き場を変えました』というようなヘルパーさん同士で話せばいい情報も多く、その非効率を変えたいと思っていました」(田尻さん)。トラブルも起きていた。利用者に関する情報共有が電話やメモ、口頭で行われていたため、伝達の漏れや間違いが起こりやすい。ヘルパーが問題をサ責に伝えても情報が共有されないことがあり、同じ問題が繰り返し起こる。サ責が多忙で連絡が取りにくいため、報告を控えてしまい情報が止まってしまう。 これらの問題を解決するため、田尻さんは2015年6月、NTTテクノクロスのビジネスチャット「TopicRoom(トピックルーム)」を導入した。スマートフォンにインストールするとLINEのように簡単に使え、認証や暗号化などのセキュリティー対策も施されている。やりとりした情報が端末に残らない(クラウド上に残る)ため、万が一紛失しても情報漏えいの心配が無い。導入コストの安さも決め手となった。
税理士が悲鳴を上げた煩雑な処理をクラウド会計で解決
同じ時期、経理の現場でも混乱が起こっていた。 「当社が提供するサービスが多岐にわたっているため支払先も多く、売掛金の管理もかなり煩雑なのです。また介護保険を使うため、国保連(国民健康保険団体連合会)と利用者さんに請求しなければなりませんが、利用者さんに対しては現金払い、振り込み、引き落としというようにいろいろな支払い方法に対応しなければなりません。そのため以前お願いしていた税理士さんから、『もうできません』と断られてしまいました」 SNSで「困った」とつぶやいていたところ、前職の先輩がクラウド会計ソフト「freee(フリー)」の存在を教えてくれた。ただ自分一人で導入する自信が無かったので、「税理士検索freee」を使って検索し「爽やかそうで信頼できそう」(田尻さん)なゼロベースの代表で公認会計士・税理士の渡邊勇教さんを見つけて連絡を取った。 田尻さんの話を聞いた渡邊さんがfreeeを勧めた理由は、「私は、経営者は数字を理解すべきという信念を持っています。理解するためにはある程度は自分で入力する必要がある。ただ入力は簡単であるべきなので、そのツールとして都合が良かった。多くの会計ソフトは複式簿記がベースになっていますが、freeeは見た目が分かりやすいこと、現時点の預金残高が把握できること、入金漏れ、支払い漏れなど債権・債務の管理ができることが特徴です」。 田尻さんはクラウド会計に切り替えたことで経営者としての自信もついたという。 「月々の会計処理が速くなった(2カ月から半月に短縮)だけでなく、経営分析や単年度の事業計画や中期経営計画をつくれるようになりました」 またfreeeを導入したことで年50万円かかっていた会計に関連する費用が削減できたという。このような効果を実感した田尻さんは、クラウド上で顧客管理・営業管理などを行う「Sales Force」を16年1月に福祉用具事業部に導入。これまで担当者がエクセルマクロと“コピペ”を駆使して作成していた帳票類を自動生成し、顧客情報、商品情報、介護保険情報などを一括管理できる仕組みを整えた。続いて従業員の雇用形態がさまざまなことから社会保険労務士が毎月の給与計算だけで手いっぱいという課題を解決するため「人事労務freee」を17年2月に導入した。これには出退勤管理の「ジョブカン」を連携させて、給与データ作成をシームレスに行う環境を整えた。会計freeeとも連携しているので、人件費などもすぐさま会計処理ができる。 田尻さんはバックオフィス業務のIT化を進め、浮いたリソースを介護事業の充実に振り分け、顧客満足の向上に努めている。
会社データ
社名:株式会社カラーズ
所在地:東京都大田区大森西6-2-2 STビル1階
電話:03-5767-5215
代表者:田尻久美子 代表取締役
従業員:45人
※月刊石垣2019年9月号に掲載された記事です。
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