わが社もできるIT化/身の丈ITで生き残れ! vol.4

IoT化を推進する正田勝啓会長。社員向けに「正田IoT物語」というロードマップを公表し、IoT導入のメリットと方向性を平易に解説している

群馬県桐生市に本社工場を置く正田製作所は、自動車用のステアリングシャフトやホイールナットのような足回り部品などを手掛けており、主力のシャフト事業は中国拠点も含めて月産150万本以上。無駄を徹底排除したSPS(Shoda Production System)と生産設備のIoT化によって、高い品質と価格競争力を保っている。

独自のSPSにより効率のいい「1個流し」を実現

正田製作所の生産ラインは知恵と工夫でできている。SPSは1982年、近隣の富士重工(現SUBARU)協力工場との改善競争の結果生まれた。SPSの手本となったのは、TPSと呼ばれる生産ラインの無駄を徹底的に排除することを目的としたトヨタ生産方式。「それを自社に合うようにアレンジしてSPSと名付けました」と、正田勝啓会長は語る。 SPSの完成により、「1個流し」が効率よくできるようになった。具体的にはこうだ。技術者一人が掌握できる範囲に必要な設備を配置する。素材を投入し①洗浄機→②プレス→③NC旋盤→④高周波焼き入れ装置→⑤NC旋盤→⑥洗浄機という工程を経て完成品が搬出されるとすると、①から⑥までの機械を「コ」の字型に配置し、作業員がその中を一周すると完成品が1個出来上がる。この中の④は特殊工程であり、当初は別工程生産か外製を想定していたが、知恵と工夫によってインライン化を実現したことで「コ」の字が完成し、中間在庫ゼロ化、複数工程をこなすことで多能工の育成、作業の単純化によりパート主婦や高齢者の雇用促進など多くのメリットが得られるようになった。 SPSの適用は、「コ」の字型ラインにとどまらない。アルミニウムの溶解から鋳造、加工、組み立てまでができる省エネルギーライン生産システムを完成させたことで、2008年に群馬技術大賞を受賞した。 同社の強みは、独自技術を蓄積しているところにある。例えば製造に不可欠な油圧プレス機を内製化することで、他社では3億円の設備投資が必要になるところをわずか1800万円に抑えて受注を勝ち取ったこともある。そうした例を挙げながら、正田会長は「大型投資は買う技術、ミニマム投資は知恵の絞り出しです。ミニマム投資にすればするほど知恵が働くと従業員には話しています」。

IoTのすごさを耐久レースで実感

正田会長が今、力を入れているのがIoTの導入だ。「IT技術導入に出遅れた」と懸念を感じていた2016年、「IoTによる中堅・中小企業の競争力強化に関する研究会」(経済産業研究所)へ参加して、IoT化へ大きく舵を切った。 まず「正田IoT物語」構想を発表した。内容は物語仕立てで、IoTがどのような場面で役に立つのかが誰でも理解できるようになっている。17年から導入検討が本格化し8月、富士スピードウェイで開催された軽自動車の耐久レース「K4‒GP」に正田製作所自動車部として参戦して、「ラップモニターで収集したデータをクラウドに上げてピットで把握し、指示をドライバーへ出すというIoT技術への気付き」(正田会長)を得たという。F‒1マシンには走行中のマシンデータをピットからモニタリングできるテレメトリーシステムが搭載されているが、それと同じようなシステムをスマートフォンで実現してしまった。まさにミニマム投資によるマシンのIoT化である。 10月、iSTC社の製造ライン遠隔モニタリングサービスのトライアル開始。翌18年7月、製造ライン遠隔モニタリング機器増設、同8月、現場専用のサーバー設置、Wi‒Fi整備、タブレット導入と発展していく。このシステムでは稼働状況、生産実績、時間当たり生産数、稼働時間などがラインごとに把握でき、データはクラウド上に保存される。

IoTにより作業者の出退勤が自由になる

現在、検討を進めているのは、最終検査工程の自動管理である。作業工程に特別なスキルが不要となれば、「作業経験のないパートや高齢者の作業を見守りながら、低コスト高品質の製品がつくれるようになります。そして正社員はより高度な能力や技術が必要になる場所で活躍してもらう」と正田会長。さらに進歩させ、同社に登録したパートや高齢者に「この時間の作業者を募集しています」という情報を送り、応募者が出勤を予約する「自律的出勤型生産システム」の確立も視野に入れている。 データは、生産現場以外の部署にも共有され、例えば営業が取引先で生産余力を確認しながら商談を進めることもできる。 「正田IoT物語」には、国際営業部員がシリコンバレーの電気自動車会社に営業をかけた様子が描かれている。「モーターショーに間に合うように試作部品を作ってほしい」という要望に対し、国際営業部員はパソコンから本社工場のコンピューターにアクセス、最短納期を確認して回答、顧客の要望に応えたという自社のビジネスに即したストーリーだ。 正田流IoTは、自社の生産効率の改善にとどまらず、潜在的労働力の働き方改革を実現する可能性を秘めている。

会社データ

社名:株式会社正田製作所

所在地:本社工場 群馬県桐生市新里町板橋320-1

電話:0277-74-2421

代表者:正田勝啓 代表取締役会長

従業員:213人(国内)

HP:http://www.shodass.com/

※月刊石垣2019年8月号に掲載された記事です。

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