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身の丈ITで生き残れ! vol.3

代表取締役の可児力さんは、IoT化により「こういう機能を組み込んでほしいという要望が現場から出てくるようになった」ことを評価している

いい人材が採用できないと嘆いていても仕方ない―岐阜県中津川市のワイ・ケー・ピー工業代表取締役・可児力さんは、人手不足をITで乗り切る覚悟を決めて社内に指示、既製品を使わず自社技術による生産工程のIoT化を実現した。

人手に頼っていた成形機の稼働記録をIoTで自動化

ワイ・ケー・ピー工業は、射出成形(※1)金型の設計・製作→プラスチック射出成形→表面処理→組立加工までの一貫生産体制を備えたプラスチック部品メーカー。顧客は自動車関連メーカーを軸に家電、住宅、OA機器と幅広い。主要製品は自動車のHVAC(空調機能を集約したユニット)部品、テールランプ、コンソールボックス部品といった内外装品で、月産250万個を生産している。 射出成形部品のコスト構造は発注者である大企業も熟知しており、それほどもうかる仕事ではないと、同社代表取締役の可児力さんは言う。 「利益を確保するためには、製品に付加価値を付けなければなりません。まず射出成形に必要な金型の設計・製作を手がけ、製品に加飾塗装をするラインをつくり、組み立てまで手掛けるようになりました。一部の製品は最終品まで手掛け、自動車メーカーへ代行納入しています。そこが当社の特徴であり強みです」 競争の激しい業界ゆえ、他社にはない強みを持っていても、たゆまぬ品質向上とコストダウンの努力が欠かせない。また、厳しい採用環境が続いており、仕事はあっても人手が足りない。そこで可児さんが着目したのが作業工程のIT化だ。これまでは、作業工程は従業員が「成形材料投入記録・乾燥機点検表」や射出成形機ごとの「作業日報」などに手書きで記入していた。時間がかかり、記入ミスも発生していたため、射出成形機をIoTにより管理し、手書き部分を自動化して作業時間とミスの削減を目指すことを決めた。 指名されたのは、社内のIT化を推進する立場にある品質・工程改善BR室長の伊佐次尚之さんだ。当初は、FA(ファクトリー・オートメーション※2)機器メーカーの製品を検討したが「高価であることと、3~5年は活用できるものの改良には追加費用が発生することから、将来に向けての改良改善には不向きと判断しました」。 残る選択肢は自社開発だ。開発資金については「平成27年度ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金」の中の「高度生産性向上型」が活用できた。その上限額は3000万円(補助率3分の2以内)であった。 2017年から始まったIoT化では、やるべきことが大きく3点あった。①IoTで活用できる成形機、取出機からの信号の調査。②人手に頼った管理作業の改善・ポカミスをなくすためのセンサーの追加の検討。③工程改善で使用している汎用のFA機器であるPLC(=シーケンサー。機器を制御するコントローラー)、プログラマブル表示器(※3)、FA無線LANユニットなどの活用の検討。 ①の信号調査では射出成形機24台中10台に接続信号があり、14台も追加改造が可能であることがわかった。②の作業効率の改善やポカミスをなくすために金型流量センサー、金型温度センサーを追加することとした。③PLCにはイーサネット(LANの通信規格)を追加して、社内LANネットワークに接続した。

予知保全により成形機の稼働率向上を目指す

現在は全成形機30台が社内LANに接続されており、運転・停止・異常などの稼働状況やエラー頻度などのデータや生産数・不良数・稼働時間といった生産状況を表す数値をPLCに記録し、記録データをエクセルシート上で可視化し、監視・分析できるシステムに発展している。 伊佐次さんによると、ポカミス低減効果は導入当初の段階で年間240万円、段取り時間の短縮により年間1152時間の削減効果が得られたという。不良率の低減、材料使用量と電気使用量の削減といった効果も高く、可児さんは「工場全体のコストダウンにつながった」と評価している。 19年以降は、ビッグデータ解析による現場力向上、競争力強化を目指している。「IoTの対象を材料乾燥機まで拡大し、故障の前に保全を行う予知保全に取り組み、設備の効率的な稼働を目指したい」と伊佐次さんは意欲を見せる。 同社のIT経営は「中部IT経営力大賞2019」優秀賞を受賞したが、可児さんはIT化の手を緩めない。人材採用が難しい環境で顧客の要求に応え、競争に勝ち抜き、社員の待遇改善を図るには「さらなるIT化を進めるしかない」と信じているからだ。

※1 射出成形…軟化する温度まで加熱したプラスチックを、高圧を加えて金型に流し込んで成形する方法。

※2 FA(ファクトリー・オートメーション)…工場の生産をコンピューターやロボットなどを使って自動化、無人化すること。

※3 プログラマブル表示器(=タッチパネルディスプレー)…主に産業用やFA用の機械製造やプラントなどの生産ラインにおける機械や設備をコントロールするコンピューター機能を有する表示・操作端末。具体的には、タッチパネルで操作・表示を行うパネルマウント型の表示盤のこと。

会社データ

社名:ワイ・ケー・ピー工業株式会社

所在地:岐阜県中津川市千旦林651番地の15

電話:0573-78-0171

代表者:可児力 代表取締役

従業員:107人(正社員54人)

HP:https://ykp-k.co.jp

※月刊石垣2019年7月号に掲載された記事です。

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