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身の丈ITで生き残れ! vol.2

能登社長と生産本部・管理部社員。コンテンツ作成、動画撮影・編集は現場の社員が行う。能登社長は「教育体制の充実やキャリアアップの明確化は採用や社員の定着・成長に不可欠」と話す

先輩の仕事ぶりを撮影してマニュアル動画として公開し、若手社員のスキルアップを図る―石川県白山市の能登印刷の取り組みだ。背景には集団研修の時間が取りにくいこと、働き方改革により時間外研修が難しくなっている現状がある。

動画のマニュアルでスキルの「見える化」を図る

1913年、活版印刷の博文堂印刷所として創業した能登印刷は現在、書籍や雑誌、パンフレットなどの印刷事業に加え、オウンドメディア(自社所有メディア)を活用した出版やWEBを通じた情報発信、情報発信のプランニングやコンサルティングを行うデジタルソリューション、箱・手提げ袋・包装紙といったパッケージ/サイン・ディスプレーへと、事業領域を拡大している。 各事業で必要となるスキル、ノウハウは多種多様であり、能登印刷では紙ベースのマニュアルの整備、集団研修の実施、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)といった方法で社員教育を行ってきた。しかし、社長の能登健太朗さんは行き詰まりを感じていた。 「集団研修の時間や現場で先輩が後輩を指導する時間が取りにくくなっている上、働き方改革により時間外教育も難しい。紙の業務マニュアルも読まれにくくなっています」 そこで能登さんは業務マニュアルや集団研修の様子、現場作業の手順などを動画化してクラウドに置き、社員はいつでも必要なときに、どこにいても視聴できるシステムづくりに着手した。それが自社業務に特化した動画によるeラーニングシステム「のとイクボスシステム」である。半年間の準備期間を経て、この7月から本格稼働する。 紙のマニュアルは言語に置き換えられた聴覚情報である。であれば、視覚情報をそのまま伝えた方が情報量で勝り、教える側は言語に置き換えたり、言葉で説明したりする手間が省け、内容の追加や変更も容易だ。教えられる側も目で見る方が覚えやすく、何度でも見直すことができるのでスキルが身に付くスピードも速く、成長が実感しやすい。 「新入社員の鬼門は3カ月、3年といわれるように、その間に成長を感じることができないと壁にぶつかり辞めてしまうことが多い。それを防ぐためにも、自分のペースで繰り返し視聴してスキルを身に付けることができる動画によるマニュアルはトレーニングツールとして有効です」 「のとイクボスシステム」の特徴は、すべて内製化しているところにある。動画作成の中心となるのは勤続年数5年から10年ほどの各部門の課長クラスとリーダークラス。彼らを含めた各部門の社員がコンテンツの種類や内容を決め、集団研修の講義、現場での作業手順、パフォーマンス人材(高いスキルを持つ社員)の職人技を撮影する。コンテンツは高度な内容とは限らず、顧客先でのあいさつの仕方といった基本知識も含む。 撮影は専用のカメラ機材を使わず、スマートフォンの動画撮影機能を使う。その方が被写体はカメラを意識せずに普段通りの作業ができるし、カメラマンは撮りたいときにいつでも撮れる。もちろんコストを抑えることにもなる。 「そして最も重要なことは、自分たちがつくっているという意識が持てることです。経営が主導したり、高額な予算を組んだりすると、社員に“やらされ感”が生じるし、こちらも費用対効果を気にしてしまう。最初からきちっとつくらなくていいのです。(正式にリリースする前の)β版の状態で構いません」 撮影した動画は市販の動画編集ソフトを使って編集し、管理部のシステム担当を通じてクラウド上のプラットフォーム「のとイクボスシステム」にアップする。自社サーバーに置くよりも、クラウドを利用した方がセキュリティー面でも安心できるという。

昇級昇格基準の明確化で動画が有効活用される

能登さんは動画の作成と同時並行で、社員から分かりにくいという声が上がっていた昇級昇格基準の『見える化』を行った。 「部門別『実力基準表』を各部門長とともに作成しました。基準表を見れば、例えばクラス6(一般)の人が達成すべきこと、クラス5(リーダー候補)に求められることなどが明確に分かり、基準に到達するために必要なスキルが理解できます。やみくもにスキルを磨けと言っても社員は戸惑うだけなので、スキルアップに役立つ動画を用意したわけです。今後は視聴した社員の声を反映させながらコンテンツを充実させ、いずれは動画の視聴を達成すべき項目に含める予定です」 動画マニュアルに手応えを感じている能登さんは、同じ思いを持つ経営者にシステムを廉価で提供したいと話す。動画マニュアルはナレッジ(有益な情報)の集合体であり、中小企業の技術継承にも役立つと信じているからだ。

会社データ

社名:能登印刷株式会社(のといんさつ)

所在地:石川県白山市番匠町293

電話:076-274-0084

代表者:能登健太朗 代表取締役社長

従業員:161人

HP:https://www.notoinsatu.co.jp/

※月刊石垣2019年6月号に掲載された記事です。

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