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真壁昭夫の経済底流を読み解く 米中の通商協議に楽観は禁物

5月9日・10日の米中の通商協議は合意に至らなかった。両国の関係者は、協議は建設的だったものの、中国の政府補助金支給などについて合意できなかったとしている。それに伴い、米国は中国からの一部輸入について関税率を25%に引き上げると表明した。それに対して、中国の交渉責任者である劉鶴副首相は「必ず報復する」と明言した。両国間の溝は一段と深まったといえるだろう。

今後、中国からの対抗措置などを受け、米国は一段と対中強硬姿勢を強める可能性がある。中国側も、習近平国家主席の支配基盤強化などを考えると安易な妥協はできない。今後の状況次第では、制裁関税の発動により中国経済が一段と減速することが懸念される。それは、世界経済にとって大きなリスクだ。

米国と中国の貿易戦争は、二つに分けて考えると分かりやすい。一つは、米国は単純に中国との貿易赤字を減らしたいという考えだ。トランプ米大統領は、米国の鉄鋼や石炭、農業などの〝オールドエコノミー〟の復興を重視している。そのためには、輸出額を増やすことが重要だ。2018年の米国のモノ(財)の対中輸出入額をみると、輸出額は約1200億ドルである一方、輸入額は5400億ドルである。米国は、約4200億ドルに上る対中貿易赤字を減らしたいと考えている。

もう一つは、IT先端分野における米中の〝覇権争い〟という面である。中国は、世界第2位の経済大国に成長した。これからもIT先端分野の競争力を高め、同分野で世界のトップに立つことを望んでいる。IT先端分野の技術力向上は、中国の軍事力の強化にも欠かせない。ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、中国を安全保障上の脅威と考えている。同氏は、1980年代の日米半導体協議において、わが国に関税を課すことで〝日の丸半導体〟の躍進を封じ込めた。その成功体験に基づき、第3弾の制裁関税率の引き上げ(10%から25%へ)と第4弾の制裁関税の発動準備を表明し、中国に譲歩を迫った。

一方、中国は共産党主導で経済の改革を進め、IT先端分野を中心に覇権を強化するため、自らを中心とした多国間の経済連携を進めたい考えだ。IT先端技術の高度化は、5G通信網やIoTの導入を通して、需要の取り込みに不可欠である。覇権強化への取り組みを加速させたいが、同時に、経済への影響を抑えるために、米国との全面対立は避けなければならない。そのため、時間をかけて対米交渉を進め、自らに有利な状況を得ようとした。今年2月、知的財産保護と市場開放に関する協定書の作成に応じつつ、「世論対策のために時間がほしい」と米国に訴えたのだ。ところが5月、技術移転と補助金に関する合意の内容を後退させた。習近平氏にとっては、共産党の最高指導者が米国に屈したという見方が広がれば、弱腰と批判され、支配体制の強化にマイナスになるからだ。

中国経済の補助金政策は、国家主導による経済運営=国家資本主義のために欠かせない。補助金の支給は、IT先端企業の研究開発力などを高めて〝中国製造2025※〟を達成する要である。加えて、補助金は国内需要の刺激にも用いられる。米中の貿易戦争は、長期化する可能性が高まった。6月にはG20首脳会議に合わせて米中首脳会談が行われるが、先行きは不透明だ。

米国は、中国からの輸入品の残り全てに対して第4弾の制裁関税発動の準備を始めたが、関税の対象となる中国製品の4割が、スマートフォンなどの消費財だ。制裁関税引き上げは、米国経済を支える個人消費を減少させる恐れがある。

夏場には20年の米大統領選挙が本格化する。トランプ氏としては、それまでに対中交渉にめどを付けたいはずだ。中国は時間をかけて米国がしびれを切らすのを待ち、国家資本主義体制の維持と強化に影響が及ばないようにするだろう。米中の協議の動向によっては、世界的に金融市場が混乱し、実体経済にマイナスの影響が及ぶ可能性は高まるともいえる。(5月21日執筆)

※中国製造2025……国家戦略として2015年4月に発表された、15年から25年の10年間に製造業を発展させ、中国を「世界の製造強国」にする計画

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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