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真壁昭夫の経済底流を読み解く 金融政策に対する政治介入のリスク

最近、トランプ米大統領は、さかんに金融当局である連邦準備制度理事会(FRB)に対して金利引き下げの要請を行っている。昨年末のFRBの利上げは誤りで、それを是正するために金利を引き下げるべきとのロジックを展開している。そうした動きは、金融市場参加者のマインドにも影響し始めた。大統領選挙が近づくにつれ、トランプ氏はFRBにさまざまな要請を突き付けるだろう。トランプ氏の考えが、米国の金融政策にどう影響するかは無視できない問題である。

今年4月に入って、いっとき、米国を中心に長期金利(10年国債の流通利回り)が上昇した。中国の1~3月期GDP成長率が予想を上回ったことを受け、「金利が一段と上昇する」と身構えた投資家は少なくなかっただろう。しかし、金利上昇は長くは続かず、金利水準はむしろ低位で安定した展開になっている。金利が上がりづらい要因の一つは、トランプ氏がFRBに低金利環境を実現するよう強力に要請していることである。すでにFRBはハト派姿勢を明確に示しているが、トランプ氏は、その姿勢すら十分ではないと主張している。今後、トランプ氏のFRB批判や金融緩和への要請は、さらに勢いを増すだろう。

トランプ氏が最も重視しているのは株価動向だろう。株価の推移は、そのときの政権に対する社会心理を大きく左右する。株価が上昇すると、政権への信頼は高まりやすい。その意味では、株価はその国のトップの通知表であり、大統領支持率のバロメーターだ。また、足元で米国の株価が安定していることもあり、トランプ氏はこれまで注力してきた対中交渉にゆとりを感じ始めているように見える。また、トランプ氏は中国との貿易交渉を持久戦に持ち込み、できるだけ有利な条件を中国サイドから引き出そうという戦術を取っている。ここへ来て、中国は国内の経済対策を優先せざるを得なくなっている。この状況はトランプ氏にとって、景気対策を進め、支持を取り込む絶好のチャンスになることが想定される。

昨年来、トランプ氏はFRBに対する批判を続けており、いっとき、自らの考えをくみ取った人物をFRBの理事候補に推挙していたほどだ。「昨年のFRBの利上げがなければ、米国経済は3~4%の成長率を実現できた」と主張するほど低金利環境を求めている。ただ、逆の見方をすれば、これまで独立性を確保・維持して金融政策を運営してきたFRBは、トランプ氏の考え(政治)に影響されやすくなっているとも言える。政治家の発想では、できるだけ低金利環境が続いたほうが良い。米国では資産価格の変化に対する消費者心理の感応度が高い。低金利を好感して株価などが上昇すれば、資産効果が高まり、家計の消費意欲は一段と増す。その結果、高額商品の売れ行きが良くなり、景気にも押し上げ効果が働きやすい。現在の米国の賃金上昇率や個人消費を考えると、当面、経済は相応の好調さを維持することが想定され、企業業績は想定より良い状況が続きそうだ。それは、株価上昇の支援材料になる。現在の世界経済の状況を考えると、米国は、ほとんど独り勝ちと言ってよい。そうなると、投資資金は期待収益率が相対的に高い米国に向かいやすい。この状況が続くと、予想以上に米国の資産価格が上昇し、過熱感を帯び始める可能性もある。

仮に、今後も株式や不動産などの資産価格の上昇が続きバブルと言える状況になると、バブル崩壊による経済への下押し圧力が大きなリスクとなることは明らかだ。トランプ氏とすれば、短期的に米国経済が好調を維持し、資産価格の上昇で支持率が上がることは重要だろうが、それが中長期的に米国経済に大きなリスクをもたらすことは、米国にとって決して好ましいことではない。その意味では、金融政策に政治が介入して、政策運営の独自性を損なうことは、大きなリスクをはらんでいることが分かる。政治家が支持率引き上げのために低金利環境を重視すればするほど、金融政策をゆがめることが懸念される。それは、間違いなく大きなリスクだ。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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