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真壁昭夫の経済底流を読み解く わが国でも注目される現代金融理論(MMT)

最近、米国でMMT(現代金融理論:Modern Monetary Theory)と呼ばれる新しい経済理論が急速に注目を集めている。この理論の主な内容は、政府は望ましい経済状況を実現するために、インフレが高進しない限りいくらでも財政支出を増やせばよいというものだ。そのため、MMTは基本的に財政規律を重視しない。この理論が注目されてきた背景には、米国を中心に、財政状況が悪化して国債の発行額が急増しているにもかかわらず、国債の流通利回りが上昇していないため、政府がさらに財政を拡張して景気刺激策を打つことが可能になっていることがある。それは経済運営を担当する政府からすると、都合の良い理論だ。

世界経済の減速懸念が高まる中、世界的にMMTへの関心は高まりやすいだろう。ただ、この理論については専門家の間でも評価が分かれる。MMTに否定的な経済専門家は、長期的に見ると、インフレなどが発生しやすく経済のさまざまな分野に無理が生じやすいため、この理論はかなり危険な要素を含んでいると指摘する。その一方、米国では、MMTを支持し政策運営のための理論として重視する政治家が増えている。

今日、各国政府は徴税権に裏付けられた信用力を基に、財政を運営し、予算を策定する。税収で賄えない政策経費は、政府の借り入れ(国債発行)により確保される。重要なことは、政府が財政規律を維持しつつ、国債発行を行うことだ。財政規律が軽視されると、政府の支払い能力への不安が高まる。その結果、国債の発行額が急増することが想定され、“悪い金利上昇”が起こることが考えられる。それに対し、MMTは、自国通貨を発行できる国は通貨を際限なく発行でき、新しく発行した通貨で国債を買い上げればよいからデフォルト(債務不履行)に陥ることはないと考える。政府債務の増加は問題にはならないとの考えだ。これは、これまでの伝統的な経済理論に基づく経済運営の原理を軽視している。

私たちの日常生活を見ても、信用は決定的に重要だ。多くの国や企業がドル建てで債券を発行するのは、自国通貨で資金を調達するよりも利払いコストを抑えることができるというメリットがあるからだ。米国が財政規律を無視すると、ドルに対する信認は低下し、国際資本市場は混乱する恐れがある。例えば、リスク回避から新興国からは資本が流出し、政府や企業のデフォルト懸念が連鎖的に高まるだろう。債務懸念からドルの減価が進み、世界の貿易取引や海外直接投資にも無視できない影響が起こるだろう。

わが国においても、MMTは今後の経済再生を進めるための重要な理論として注目を集める可能性がある。なぜなら、わが国の金融政策は緩和の限界に直面しているからだ。加えて、財政政策に関しても、支出拡大より規律ある財政運営をいかに確立するかが重視されてきた。

すでに、わが国では日銀の金融政策の限界を打破するために、奇策(従来とは異なる経済理論)への関心が高まった。2016年7月、わが国で“ヘリコプター・マネー”への関心がにわかに高まったのは記憶に新しい。これは、政府と中央銀行を合体させ、政府が発行した国債を中央銀行が引き受けること(財政ファイナンス)を目指す考えだ。

重要なポイントは、経済政策における財政政策への注目が高まっていることだ。MMTを批判しているローレンス・サマーズ教授は、経済の長期的な停滞リスクを抑えるには、財政支出を通した投資を行うことが重要との考えを示している。そのために、政府の信用が維持されなければならないことは言うまでもない。財政支出が威力を発揮するには、政府の新しい発想や取り組みが実現しやすいように、制度を変革しなければならない。口で言うほど容易なことではないが、構造改革を進めることなくして、財政政策が持続的な成長を支えることは難しい。MMTへの関心が高まる中、政府は冷静に構造改革の意義と効果を国民に伝え、より多くの納得を得る必要がある。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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