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真壁昭夫の経済底流を読み解く 世界経済の不透明要因=中国経済の“灰色のサイ”

2008年のリーマンショックによる世界的な景気後退の後、主要国はこぞって思い切った金融緩和策を実施し、景気刺激策を取った。その結果、景気は持ち直したものの、欧米など、先進国をはじめ、中国やアジアの新興国など世界的に債務残高の増加が顕著になっている。今のところ、金利水準が低いこともあり、積み上がった債務残高が景気の足を引っ張ることにはなっていない。しかし、債務はいずれかの段階で返済しなければならず、今後、金利の上昇や景気の減速などの要因によって、多額の債務が各国の経済活動にマイナスの影響を及ぼす可能性は否定できない。それは誰もが認識している問題だが、足元でそれが顕在化しないため楽観視する見方が多い。しかし一旦、暴走し始めると、止めることが難しくなる。その意味で、多額の債務問題は“灰色のサイ”とも呼ばれている。

特に、“灰色のサイ”に関しては、中国経済の先行きに懸念を持つ専門家が増えている。その背景には、中国経済全体が抱える債務がGDPの250%を超える水準まで積み上がっていることがある。これまで中国政府は景気が減速すると、インフラ投資などによって需要を創出してきた。ところが、昨年にかけて、政府の景気対策にもかかわらず中国のGDP成長率は右肩下がりになっている。GDPの成長率が低下するということは、基本的に、国内で生み出される付加価値が小さくなることを意味する。中国経済をダムに例えると、政府は経済成長(水面)の引き上げを目指して大量の資金(水)をつぎ込んでいるのだが、経済全体のダイナミズムが低下し付加価値を生まない不良債権(ヘドロ)が累積している。このヘドロの部分、つまり“灰色のサイ”がたまっているという状態だ。短期的に中国経済が持ち直す可能性はあるが、“灰色のサイ”は長期的に中国経済の潜在成長率=経済の実力を低下させることになる。今後、中国経済の低迷懸念が高まることは避けられない。18年、中国における社債のデフォルトは1200億元(1・9兆円)程度に達した。中国企業の業績が急速に悪化する中、19年のデフォルト額は昨年を上回る可能性が高い。

重要なポイントは、名目金利(国債流通利回り)の低下だ。18年年初、3・8%程度で推移していた中国の2年金利は、足元、2・6%まで低下した。中国人民銀行は資金供給を増やし、投資家にリスクテイクを促している。加えて、公的資金を用いた株式購入によって、人為的に株価をつり上げている。この間、人民銀行は利下げ(貸し出しと預金の基準金利引き下げ)を行っていない。人民銀行は利下げを最終手段に位置付け、他の方策によって金融緩和の余地があることを強調している。中国の株式市場は“官製相場”の様相を強めている。中国政府は市場原理を重視する考えを持っていたが、もはやその姿勢は感じられない。

特に、11年後半以降、中国経済の成長率は右肩下がりだ。中国では投資が積み重ねられた結果、付加価値を生み出せる投資案件がかなり少なくなっている。社債デフォルトの急増、固定資産投資の伸び率鈍化はその表れだ。それに呼応して個人消費も弱くなっている。その意味では、中国経済は成長の限界を迎えたといえる。それでも、中国は投資に頼らざるをえない。金融緩和などによって一時的に景気を支えることを優先している。ただ、収益率の低下に歯止めが掛からず投資を続ければ、不良債権が加速度的に増加する。これが、中国経済における“灰色のサイ”だ。中小企業などへの融資に加え、財テク(利ザヤ確保)のためにシャドーバンキングが息を吹き返しつつあるようで、中国が債務膨張を食い止めるのは、かなり難しい。今後、一時的に中国経済は政策期待に支えられ持ち直すものの、長めの目線で考えると不良債権問題は一段と深刻化する可能性が高い。“灰色のサイ”について、現在の中国政府に有効な手立ては見当たらない。いつ中国の債務リスクが急上昇するかは予測できない。“チャイナリスク”が上昇していることは確かだ。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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