このコーナーでは、下請取引に関する「かけこみ寺」に相談があった事例を参考に、中小企業の取引上のトラブルや疑問点の解決の基本的な考え方および留意点を解説します。今回は「一般取引関係」の「虚偽の事実を宣伝されて企業の信用を失墜した場合(虚偽告知・流布)」についての相談事例をご紹介します。
虚偽の事実を広められた場合の対応は?
Q.電気工事を行っているA社は、同業者B社から依頼を受けて、B社が請け負った発注者C社の自社ビルの電気設備工事の一部を行いました。しかし、B社の不手際で工事に不備・不具合が発生した際に、B社はC社に対して、本件不具合はA社がB社の指示に従わず、しかもA社の技術不足のために生じたと報告していたことが判明しました。A社は信用を失い、C社から今後の取引の拒絶を宣告されました。このような虚偽の事実を発注者に告知したことに対して、何か責任の追及はできないでしょうか。
A.B社によって虚偽の事実を取引先に通告されたことで、A社の信用が失われてしまった被害をどのように回復するかが問題となります。
A社とB社はもともと同業ということで競争関係にありますが、競争といえども公正=フェアに行われなくてはなりません。このような虚偽の告知の場合に、不正競争防止法は第2条第1項第14号で「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」(信用毀損(きそん)行為)を禁止しています。
他社の商品について、来店した顧客に「品質が悪い」と虚偽の事実を告げたり、「模倣品である」と中傷したり、また「会社が倒産した」と流布することなどがこれに当たります。そのようなB社の行為が依然として続くようであれば、差し止めや損害賠償、新聞などへの謝罪広告掲載などの請求をすることが可能となります。
もちろんあらゆる場合にこのような請求が可能なわけではなく、「虚偽の事実」とは前記の例のとおり、真実に反する具体的事実をいいます。例えば、一般論として「B社の方が社員の熱意がある」「A社のような業態はこれからの世の中厳しい」など主観的な見解、批評をすることは法のいう「虚偽の事実」には該当しません。
また、請求をする側、本件でいえばA社において、相手方であるB社が告知したり広めたりしたことが「虚偽の事実」であることを証明することが必要です。
<留意点>
「虚偽の事実」であることの証明が容易ではない場合も多くあります。「不具合の原因」といった問題では、双方の主張が対立して判然としない場合も出てきます。日頃の作業工程の記録や相手方からの指示の書面、メールのやりとりなど些細(ささい)な資料もきちんと保存することです。また、当事者間の連絡もメールやファクスなどで行い、口頭だけの連絡で「言った、言わない」という問題が起こらないよう記録化することを心掛け、証明手段を残すよう意識する必要があります。
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