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あの人を訪ねたい 村井 満

「スポーツが健全に機能すれば社会課題の解決につながる。豊かなスポーツ文化としてサッカーを広めたい」

五代目にして初のビジネス界出身者としてJリーグチェアマンとなった村井満さん。企業経営で培った手腕を生かし、経営基盤の拡大、収入増を図ってきた。任期2年の再選を繰り返し、2020年3月で4期目に入った。そんな中で新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)。未曽有の状況下、村井さんの采配がJリーグ、さらにはスポーツ界をひとつにまとめあげる。

Jリーグの財政危機をデジタルメディアで打開

今から6年前の14年1月、第5代Jリーグチェアマンに就任した村井満さんは、20年3月、規定により今回が最後の任期となる4期目を迎えた。ビジネス界出身の異色のチェアマンだが、経営手腕が評価され、初代チェアマンの川淵三郎さん以来の長期体制である。「内情を知っていたら、チェアマンを受けなかったかも」と苦笑しながらも、「怖いもの知らずの楽天家。緊張感ある環境や立場に武者震いするようなところはありました」と就任当初を振り返る。

村井さんは高校時代にサッカー選手として活躍した経験を持ち、地元の浦和レッドダイヤモンズ(通称:浦和レッズ)の熱心なサポーターでもある。大のサッカー好きの企業家、村井さんが、Jリーグと深く関わるようになったのは、前職(リクルート)のCSRの一環で、選手のセカンドキャリアの斡旋(あっせん)をしたことに始まる。その縁で08年より理事に選ばれ、14年チェアマンに抜擢(ばってき)。Jリーグの経営課題に立ち向かった。

「私はJクラブ経営者でもなく、Jリーグの監督や選手の経験もありません。JFA(日本サッカー協会)やJリーグで働いたことすらない。そんな門外漢の考えや人となりを理解してもらうために、全国51(現56)のJクラブに自ら足を運びました。地域ごとにスポーツとの親和性、歴史や風土が異なり、二つとして同じクラブがないことを体感し、Jリーグ経営の難易度の高さを痛感しました」

就任当初のJリーグは観戦者数の減少から、スポンサー、メディアの露出度、入場料や物販収益など全てが減少しており、J1〜J3までどのクラブも負のスパイラルに陥っていた。共通する〝財政の疲弊〟に打ち手がないかに見えた。

「Jリーグの認知度を上げることが必須でした。インターネットやSNSなどのデジタルメディアの活用が必要と仮説を立てましたが、どのクラブにもハイパーなデジタルエンジニアがいません。セキュリティーも脆弱(ぜいじゃく)でテクノロジー格差がある。そこで、Jリーグがプラットフォームになって情報インフラを構築することから始めました」

この取り組みが、Jリーグの歴史にエポックメーキングな展開を呼び込む。それが16年7月、英国に本社を置くDAZN(ダゾーン)グループのスポーツ専用動画配信サービス「DAZN」との放映権契約だ。契約金は17年シリーズから10年間で2100億円。この長期大型契約は、日本のスポーツ界を驚嘆させた。

Jリーグを広く世の中に開いていく

DAZNで、明治安田生命J1、J2、J3の全1000試合の中継動画を、いつでもどこでも観戦できる。この契約を機に財政は安定し、同時にJリーグの注目度は飛躍的に伸びた。

「動画の制作著作権はJリーグが保有していて、試合動画の統一感がとれるようになりました。インフラが整い、魅力あるコンテンツが生まれ、各クラブがクリップ動画をアップするなど、デジタルメディアをファンサービスに活用する流れが一気に生まれました」

改革はオンラインだけではない。Jリーグは誕生当初から地域密着をコンセプトに、ホームタウン活動と呼ぶ地域活動をしてきた。選手は地域の学校や病院を訪ね、祭りなどの地域行事に参加している。その数は1クラブ平均年間400回だが、これを2倍、3倍にするという不可能を可能にする。

「我々が『行く』のではなく『来て』もらう逆転の発想です。『シャレン!』という社会連携の取り組みで、Jリーグのスタジアムなどの施設をソーシャルワーカーやNPO、ボランティア団体に広く活用してもらうようにしました。Jリーグのスポンサーやパートナー、地域の商工会議所などとも連携し、多くの人を巻き込むことで、活動の認知度アップにも貢献できます」

その一例として村井さんが挙げたのが、川崎市と大分市の発達障がい児への取り組みだ。両クラブの対戦を、スタジアムの照明や歓声でもパニックを起こさずに観戦できるように、JTBやANA、富士通などの企業の協力を得て、スタジアムまでの道中の安全確保、音と光をセーブした空間を実現した。

「社会に分散したアセットやノウハウを、Jリーグがハブとなって一つにまとめて、社会問題を解決する成功モデルになりました」

判断基準は初代が掲げたJリーグ理念

選手への給料の未払い、遅配がない世界屈指の健全経営を強固にし、世界に通用する選手の育成などいくつもの課題解決を推し進めてきた村井さん。だが、今年4期目を迎えて間もなく、新型コロナウイルスが立ちはだかった。

「サッカーは1試合12、13㎞は走り、コンタクトプレーも多い激しいスポーツです。選手間の感染拡大の可能性が高く、早急にPCR検査を実施できる体制を整えました。Jリーグ内に検査センターを設置し、2週間に1回のペースで全選手とチームスタッフが検査を受けます。PCR検査が逼迫(ひっぱく)した地域があれば、選手の検査よりも優先して提供することも可能です」

そして、Jリーグのチェアマンとしての役割についてこう続ける。「スポーツを発展させるための裏方です。門外漢の私がプロフェッショナル集団を束ねていくには、揺るぎない哲学や思想が必要でした。それが初代チェアマンの川淵三郎さんが掲げたJリーグの理念です。そのうちの一つ、私が特に大事にしている『豊かなスポーツ文化の振興及び国民の心身の健全な発達への寄与』にとって、新型コロナウイルスは非常に大きな脅威です。試合中止や延期、再開も、この理念に立ち返り、国のガイドラインに準じて判断しています」

さらに、Jリーグ独自の80ページにおよぶ新型コロナウイルス感染症対応ガイドラインを作成する。選手に毎日定時の検温、食事や行動履歴の記録と管理、人数別のトレーニング法などを事細かに示し、スポーツ界に広く開示した。

「コロナ対策はスポーツ界が連携して情報収集、対策を講じた方が効率的だと判断して‶座組み〟をつくりました。情報共有は、東京オリンピック・パラリンピックを控えるJOC(日本オリンピック委員会)や各競技団体にも広げていく予定です。22年にはW杯カタール大会が開催され、Jリーグ選手も招集される可能性があります。スポーツを愛する人を増やすためにもスポーツ界が広く連携し、健康と経済活動の両輪を回していくのが今後の社会テーマです。多角的にJリーグを使ってもらいながら、豊かなスポーツ文化としてサッカーを広めていきたいですね」

村井 満(むらい・みつる)

Jリーグチェアマン

1959年埼玉県生まれ。早稲田大学卒業後、日本リクルートセンター(現リクルートホールディングス)入社。2000年執行役員(人事担当)、04年にリクルートエージェント(現リクルートキャリア)社長に就任。11年、同社の香港法人RGF Hong Kong Limited代表取締役社長、13年より会長を務める。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)の理事を08年より務め、RGF Hong Kong Limited会長退任した翌月14年1月第5代チェアマンに就任。20年3月より4期目を務める

写真提供 ⒸJ.LEAGUE

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