大阪市の塗装工事会社「竹延」は、建設業界の生産性向上のため、ITを活用したさまざまな取り組みを行っている。その代表例が職人の勤怠管理や交通費の申請用紙「出面(でづら)」の代わりに導入した、スマートフォンで管理する「コネキャリ」だ。若手には歓迎されたが、ベテランの職人からは困惑の声が挙がった。竹延はどう解決したのだろうか?
出退勤時間や交通費を紙への手書きで管理
「若手が入って来ない」という悩みを抱えている建設業界の中で、「竹延」は、社員職人数をこの5年で10人から90人に増やした。しかし若手職人が増えた結果、今まで表面化しなかった「出面」に対する不満の声が挙がった。「手書きなんてばからしい」「現場名を忘れたから適当に書いた」。だからといって記入に誤りがあると、本来の賃金より安く計算されたり交通費をもらい損ねたりすることにもなりかねない。
事務部門は「出面の文字が汚くて読めない」と嘆きながら、職人数と提出された出面数を突き合わせ、手書きの出退勤の時間や現場名、作業内容などをExcelに入力していた。
また、職人を差配するのは「番頭」と呼ばれる営業担当のため、社長の竹延幸雄さんら経営陣は、「出面が提出されるまで職人の配置状況を把握できませんでした。そのため、腕の良い職人を簡単な作業の現場に配置するといった職人と現場のミスマッチが起こっていました」。
そこで竹延さんは紙の出面をやめ、情報をスマートフォンの専用アプリに入力する「紙からデジタルへの転換」を決断。既製アプリが存在しなかったため、国内大手ソフト会社など数社に声をかけて、後に「コネクテッドキャリア(コネキャリ)」と名付ける独自アプリの開発を依頼した。
「アプリの審査項目は開発期間、開発費用、使いやすさの3点でした。国内大手からは一から開発するため開発期間は1年、費用は2000万円という見積もりが出てきました。一方、(クラウドアプリケーションなどを提供する)米国のセールスフォース・ドットコムは開発2週間で、他より一桁少ない見積もりを出してきました。同社が保有するプラットフォームを改修したものなのではじめから完璧なものにはならないが、現場で使用してみて不都合なところはすぐに直すと言うのです」
わずか5カ月間でデジタル化を達成
竹延さんは、次のような開発・運用スケジュールを考えていた。
2018年6月=開発開始→9月=仮運用開始→11月=本運用開始。本運用開始後職人が使い方を習得して、19年3月に入社する技能実習生に使い方を教える。開発に使える期間が5カ月と限られていたので、費用が圧倒的に安く開発期間が短いセールスフォース・ドットコムを選んだ。毎日のように仕様を打ち合わせして完成形に近づけていき11月、予定通り「コネキャリ」を職人のスマホに導入し、運用を開始した。「コネキャリ」はベトナム語にも対応させたので、日本語の読み書きができない技能実習生でも使いこなせる。
だが、誰からも歓迎されたわけではなかった。一部の職人からは「スマホなんか持っていない」「スマホは通話とメールしか使っていない」という声が挙がった。そこで竹延さんは職人を集めてコネキャリ講習会を開催。スマホを持っていない人には買い替えの資金援助を行い、理解が進まない人にはマン・ツー・マンで教えた。「IT導入には、やり抜くという経営者の強い意志と職人への粘り強い支援が欠かせない」と考えていたからだ。
コネキャリ導入で事務部門の生産性が向上
コネキャリ導入後、事務部門の月間作業時間は37時間20分から24時間40分へと34%削減された。また、建設業退職金共済証紙申請手続きの作業は勤怠情報から書類が自動作成されるため、その時間は34時間から18時間へと47%も削減された。人件費も年間約100万円の削減効果が得られた。さらに経営陣が職人の適正配置や労務管理にも役立てることができ、その成果が他社にも評価されて外販の依頼が増加した。
竹延さんは、業界に資する生産性向上の取り組みを、自身が創業したKMユナイテッド(竹延の関連会社)でも行っている。例えば「建設アシスタント」という派遣業務。ITスキルを持った人材(アシスタント)が書類作成や工事写真整理、CAD(コンピューター支援設計)作業などを代行することで、多忙な現場監督は現場業務に集中できるようになる。
IT化が遅れている業界だからこそ、ITの導入により生産性が飛躍的に向上する余地がある。
会社データ
社名:株式会社竹延(たけのべ)
所在地:大阪府大阪市都島区都島北通1丁目2番12号
電話:06-6921-2692
代表者:竹延幸雄 代表取締役社長
従業員:88人
HP:https://www.takenobe.co.jp/
※月刊石垣2020年8月号に掲載された記事です。
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