新年特別対談 松山良一日本政府観光局理事長×三村明夫会頭
インバウンド 相互理解でファン増 三村会頭
三村 地方創生、地域の活性化には観光が一つの目玉となります。インバウンドには日本経済を刺激する大きな役割があります。全国各地域で、ものすごく大きな経済効果を与えることができ、日本を救う大きな産業になるのではないかということをこの数年間で学んだのだと思います。
円高になっても、中国の訪日観光客数は全然落ちていない。中産階級の所得が上がれば観光客数は増えていく。これはもう必然です。
松山 日本への観光客は今後も大幅に増えます。現在8割が中国、韓国など近隣諸国から来ています。もっと分散を図らなければならないという議論もありますが、欧米諸国でも近隣諸国からの観光客が多数を占めています。
三村 そのためにも、いかに気持ち良く日本で過ごしてもらうかが重要となります。日本にとって一番大事なことは、受け入れを万全にしてストレスなく楽しんでもらい、日本を好きになってもらうことです。リピーターをいかに増やすか、ということが日本にとって非常に大事な仕掛けになります。
訪日客の60%が三大都市に来ていますが、空港などの受け入れがどうなのか。東京でも多くの宿泊施設が必要になるでしょう。全国各地への分散、あるいは民泊を増やすことも課題となるでしょう。
中国人が日本に来て一番感心したことは、空気がきれいで、食べものがおいしくて、人々は親切だという点。この三つに感激して、帰国したら中国版のツイッターやブログに書いて、それに対するフォロワーがたくさんできます。訪日中国人の数倍の宣伝効果があります。
しかしいつまでもそれだけではいけないと思います。日本を知らない方々にとっては非常に大きな魅力だけれども、リピーターをさらに多く増やすために工夫する必要があると思います。
消費とか買い物だけではなくて、日本人の生活が知りたい、体験したい、日本の文化や歴史に触れ合いたいというのが、彼らの一番やりたいことですから、そうすることで日本人と外国人との相互理解が進み日本のファンになる。こういうことも大事ではないでしょうか。
先日、明治神宮に行ってきましたが、外国人がたくさん来ています。ところが、例えば境内で地面に座ってしまう。トイレの問題もあると聞きます。あまりにも急激に増え過ぎたが故に、自分たちの習慣をそのまま持ち込むことによって、日本の伝統的な文化や既存の風習などと摩擦が生じるようなことも起こっているようです。
松山 日本人の海外旅行も30年前はそうでした。マナーの問題は、日本のマナーを知らないというところが主な原因ですから、日中の観光当局者間で力を合わせて教えようということになっています。
おもてなし 「心のバリアフリー」 三村会頭
松山 「爆買い」のあとは「コト消費」の時代になっています。イベントや観光地域、観光拠点づくりなど官民が協力し、推進すべきです。
日本人の定住人口1人当たりの1年間の消費額が125万円です。外国人客は1人当たり18万円消費しますから、約7人の外国人が来ると、ほぼ同額です。滞在期間が延びれば消費額が大きくなりますし、伸びしろが大きいです。
三村 少子化・人口減少という非常に深刻な状況にあえいでいる日本にとっては、2020年に4000万人(訪日客数目標値)が日本に存在するということは大きなことです。 観光のもう一つの役割というのは「相互理解」です。日本が大好きな中国人が訪日によってたくさん出現しています。「日本はいいところ」と発信する効果は、ものすごく大きい。自分の体験したことというのは一番力強いです。
松山 訪日した中国人が異口同音に言うのは、今まで聞いていた日本と全然違うということ。日本人は非常に親切だということですね。口コミというのはものすごく大きな影響を持っています。
三村 日本に来た外国人に日本を好きになってもらうためには、どうしたらよいでしょうか。
松山 それは、やはり「ウエルカム」の気持ちだと思います。まずは笑顔でいいのです。そこが一番大事ですから。「声かけ・サポート運動」は非常に良いと思います。
三村 ハンディキャップのある人々が今度はパラリンピック大会でも来るでしょうし、障がい者、外国人など困っている人を見たら、一声掛ける勇気を持とうじゃないかと。元々は鉄道事業者が駅員に対して徹底している運動だったのです。これを商工会議所の運動としてやったらどうかと「心のバリアフリー」というキャッチフレーズでスタートさせたわけです。
商工会議所の役割 地域で核となる存在 松山理事長
三村 構造的な人手不足などで他の産業と比べ著しく生産性が低いのが宿泊業です。客数が増えて、箱物だけつくっても働き手がいない。そして、新たな人手も来ない。そうなると対応の唯一の答えは、いわゆるIT化となります。具体的な成功事例はたくさんあります。
松山 商工会議所は全国に515あり、全商工会議所に観光担当が配置され、非常に感謝しています。とにかく各地では、核となるのはやはり商工会議所であり、その力が非常に大きいと思います。地域で力を合わせるには、中心になるリーダー、旗振り役が必要です。商工会議所でリーダーの発掘ができるということが一つです。それに地域のプレーヤーは、ほとんど商工会議所のメンバーだと思います。
商工会議所が515あるということは、都道府県以上に細分化されている。この個をそれぞれ強くすることが非常に効果的です。先日、東北復興支援で、「東北六県見るもの・食べもの・買いもの100選」を実施しました。商工会議所の皆さまが集まって、良いものができましたし、さらに広域で力を合わせてやらないといけないと思います。
三村 自治体の枠を超えて広域的に協力すれば、もっと良い観光資源があるじゃないかということになるかと思います。これは商工会議所の役割でしょうね。
松山 それは商工会議所の力だと思います。ビジネスは、利があったら広域で連携できるわけですから、それをぜひやっていただきたい。
あと期待としては、若者がいろいろアイデアを持ち寄ってやっているわけですが、その中で地域の名士の集まりである商工会議所は、今後はそういった若者の熱意、活力を取り込んでいただきたい。
三村 商工会議所には青年部があって、全国のメンバー3万3000人が熱心に活動しています。
また、商工会議所の取り組みとして重要なことの一つは、広域で地方の持っている文化についていかにストーリー性をもってつくり上げるのかであり、そのために、それぞれの商工会議所に観光担当を配置しています。
生産性向上 IT化が企業を救う 三村会頭
三村 成功を収めている観光業者の売上高に占める設備投資やIT化投資を調べてみると、総じて高い。われわれはここに一つの解があると思っています。この理由を徹底的に調べて、横に展開するにはどうしたらいいのか。IT化が所得増加につながり、企業を救うことになると考えます。
では、経営者がこれに気付いて、その決心をしたかどうかといったら、していないという問題が一つあります。そして、やはりお金がかかる。
しかし、昔のコンピューターのように自分で全部買わなくても、今はクラウドサービスというのがあってシェアできる。ITのパッケージ化や標準化を行ってこれを気軽に組み合わせて使えるようになれば非常に良いと思います。
いまだにITが分かる人が少ないので、国は中小企業に対してIT関連の専門家を2年間で1万社に派遣することにしています。そういうことも含めて旅館、宿泊、観光だけではなく中小企業全体に対し、商工会議所の大きな活動の柱として、生産性向上、IT化を掲げ取り組もうとしています。
松山 ITはものすごく進んでいますから、その辺の意識をいかに変えていただくかですね。
三村 観光に関する需要があるということは、対策をする強いインセンティブが生まれると思います。しかも技術の発達というのはものすごく速いし、可能性は十分にあります。人手不足を克服するために、ITなどを活用して生産性を大きく伸ばす時代がきっと来ると思います。
本日は長時間有益なお話を、ありがとうございました。 (聞き手=八牧浩行)
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