政府はこのほど、「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」(議長・安倍晋三首相)を開き、観光を地方創生の切り札としてわが国の基幹産業に成長させるための数値目標や「観光先進国」実現に向けた3つの視点と10の改革を明示した観光ビジョンをとりまとめた。特集では、同ビジョンの概要を紹介する。
視点1 観光資源の魅力を極め、地方創生の礎に
■魅力ある公的施設・インフラの大胆な公開・開放
・赤坂や京都の迎賓館に加え、わが国の歴史や伝統に溢れる公的施設を公開・開放
■文化財の観光資源としての開花
・2020年までに、文化財を核とする観光拠点を全国で200整備。分かりやすい多言語解説など1000事業を展開し、集中的に支援強化
■国立公園の「ナショナルパーク」としてのブランド化
・2020年を目標に、全国5カ所の公園について民間の力も生かし、体験・活用型の空間へと集中改善
■景観の優れた観光資産の保全・活用による観光地の魅力向上
■滞在型農山漁村の確立・形成
・日本ならではの伝統的な生活体験と非農家を含む農村地域の人々との交流を楽しむ「農泊」を推進し、2020年までに全国の農山漁村で50地域創出
■地方の商店街などにおける観光需要の獲得・伝統工芸品などの消費拡大
■広域観光周遊ルートの世界水準への改善
■東北の観光復興
・東北6県の外国人宿泊者数を2020年に150万人泊(2015年の3倍)に
視点2 観光産業を革新し、国際競争力を高め、我が国の基幹産業へ
■観光関係の規制・制度の総合的な見直し
・通訳案内士、ランドオペレーター、宿泊業などの抜本見直し
■民泊サービスへの対応
・現行制度の枠組みにとらわれない宿泊法制度の抜本見直し(本年6月中めどに検討会とりまとめ)
■産業界ニーズを踏まえた観光経営人材の育成強化
■宿泊施設不足の早急な解消および多様なニーズに合わせた宿泊施設の提供
・旅館などにおけるインバウンド投資などを促進
■世界水準のDMOの形成・育成
・2020年までに、世界水準DMO全国で100形成
■「観光地再生・活性化ファンド」の継続的な展開
・観光まちづくりに関する投資や人材支援を安定的継続的に提供できる体制を整備
■次世代の観光立国実現のための財源検討
・観光施策に充てる国の追加的な財源確保策を検討
■訪日プロモーションの戦略的高度化
・海外著名人の日本文化体験映像を海外キー局で配信
■インバウンド観光促進のための多様な魅力の対外発信強化
・在外公館や放送コンテンツなどを活用した情報発信
■MICE誘致の促進
・政府レベルでの誘致支援体制の構築
■ビザの戦略的緩和
・中国、フィリピン、ベトナム、インド、ロシアの5カ国を対象
■訪日教育旅行の活性化
・2020年までに、4万人から5割増の早期実現
■観光教育の充実
・総合的な学習の時間などにおける教材の作成・普及
■若者のアウトバウンド活性化
・若者割引などのサービス開発を通じた海外旅行の推進
視点3 すべての旅行者が、ストレスなく快適に観光を満喫できる環境に
■最先端技術を活用した革新的な出入国審査などの実現
・世界最高水準の顔認証技術の導入などを促進
■民間のまちづくり活動などによる「観光・まち一体再生」の推進
・宿泊施設や観光バス乗降場などの整備促進
■キャッシュレス環境の飛躍的改善
・2020年までに、主要な観光地などにおける「100%のクレジットカード対応化」などを実現
■通信環境の飛躍的向上と誰もが一人歩きできる環境の実現
・無料Wi―Fi環境の整備促進とSIMカードの相互補完の利用促進
■多言語対応による情報発信
■急患などにも十分対応できる外国人患者受け入れ体制の充実
・2020年までに、外国人患者受け入れ体制が整備された医療機関を全国100カ所整備(現在の約5倍)
■「世界一安全な国、日本」の良好な治安などを体感できる環境整備
・外国語対応可能な警察職員の配置などの体制整備
■「地方創生回廊」の完備
■地方空港のゲートウェイ機能強化とLCC就航促進
・複数空港の一体運営の推進
■クルーズ船受け入れのさらなる拡充
■公共交通利用環境の革新
・主要な公共交通機関の海外インターネット予約を可能に
■休暇改革
■オリパラに向けたユニバーサルデザインの推進
・高い水準のユニバーサル化と心のバリアフリーを推進
各視点の詳細(抜粋)
視点1
■景観の優れた観光資産の保全・活用による観光地の魅力向上
○景観の優れた観光資産の保全・活用による観光地の魅力向上のため、以下の取り組みを実施
・2020年をめどに、主要な観光地(原則として全都道府県・全国の半数の市区町村)で、景観計画を策定(2015年9月時点で20都道府県、472市区町村にて策定)
・目に見えるかたちでの景観形成を促進するため、モデル地区を選定し重点支援
◇行政界を超えた景観形成を促し、観光サインなどのデザインの統一化などによる広域的な景観形成を推進
◇広域観光周遊ルート内で「都市周遊ミニルート」を選定し、歴史的道すじの再生、トイレ・休憩施設などの設置、地域のまちづくり団体の活動などをパッケージで重点支援
○観光資源となっている国営公園の魅力的な景観などを活用し、外国人向けガイドツアーの開催やWi―Fi環境の整備などを推進
■地方の商店街などにおける観光需要の獲得・伝統行工芸品などの消費拡大
○地方における消費税免税店数の目標(現行:2020年に2万店規模へと増加)について、2018年での前倒し達成を目指す(地方部免税店数:2015年10月1日時点1万1137店舗)
○地方の商店街などにおける観光需要の獲得・伝統工芸品などの消費拡大に向け、2020年までに以下の取り組みを実施
・2020年までに、計50カ所の商店街・中心市街地・観光地で街並み整備を、計1500カ所の商店街・中心市街地・観光地で外国人受け入れ環境(免税手続きカウンター、Wi―Fi環境、キャッスレス端末、多言語案内表示、観光案内所など)を整備
・市町村が旗振り役となり、地域資源の活用や農商工連携による、訪日外国人向けの新商品
・新サービスの開発(ふるさと名物の開発)を推進し、開発された「ふるさと名物」の応援を市町村が宣言する「ふるさと名物応援宣言」を促進(2020年までに1000件を実施)
・世界に知られていない、日本が誇るべき優れた地方産品を500選定するとともに、海外販路開拓を実施(2020年までに20の国と地域)
・2020年までに、外国人受け入れ可能な伝統的工芸品産地が100カ所以上になることを目指す(現状20カ所程度)
■広域観光周遊ルートの世界水準への改善
○広域観光周遊ルートの世界水準への改善に向け、以下の取り組みを実施・修景、体験プログラムの開発などから専門家チーム(パラシュートチーム)を派遣
・バードウオッチングやホエールウオッチングなどの各地域の観光資源を生かしたエコツーリズムをつなぐルートなど、新たな観光需要を創出できる魅力あるテーマ別観光のルートをコンテスト方式で2016年度早期に選定し、集中支援
・国、地方、民間などが連携した協議会を新たに設置し、道案内の充実など地域固有の魅力のさらなる向上策を展開・広域観光周遊ルート内で「都市周遊ミニルート」を選定し、歴史的道すじの再生、トイレ・休憩施設などの設置、地域のまちづくり団体の活動などをパッケージで重点支援
視点2
■産業界のニーズを踏まえた観光経営人材の育成・強化
○観光産業人材の抜本的育成・強化に向け、以下の取り組みを実施・観光経営を担う人材育成
◇2020年までにトップレベルの経営人材の恒常的な育成拠点を大学院段階(MBAを含む)に形成(新たな実践的・専門的プログラムの開発に着手)
・観光の中核を担う人材育成の強化
◇大学の観光学部のカリキュラム変革による、地域観光の中核を担う人材育成の強化(標準カリキュラムの開発に着手)
◇2019年度開学を目指している実践的職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化の際には、観光分野の人材についても産業界のニーズに対応して育成・即戦力となる地域の実践的な観光人材の育成強化
◇地域の観光分野の専修学校などの活用による人材育成の強化
視点3
■多言語対応による情報発信
○中小企業者がインバウンド需要を取り込めるよう、ウェブサイトの多言語化を中心としたIT化を推進するため、以下の取り組みを実施
・中小企業者の持つウェブサイトの約半分(約76万件)の多言語化や海外ネット広告などの導入を支援・レジアプリなどの導入を支援し、会計処理業務を効率化、マーケティング力を向上
■「地方創生回廊」の完備
○新幹線、高速道路などの高速交通網を活用した「地方創生回廊」の完備に向け、以下の取り組みを実施
・新幹線開業、コンセッション空港の運営開始、交通結節点の機能高度化などと連動し、観光地へのアクセス交通の充実などにより、地方への人の流れを創◇ 出新幹線の開業、空路開設などに合わせた、観光地周辺までの新たなアクセスルート設定と観光地周辺での交通の充実、新たな旅行商品、乗り放題切符などの造成◇新幹線全駅(108駅)の観光拠点としての機能強化
■クルーズ船受け入れのさらなる拡充
○北東アジア海域をカリブ海のような世界的なクルーズ市場に(訪日クルーズ旅客を2020年に500万人、日本の各地をカジュアルからラグジュアリーまで幅広く対応したクルーズデスティネーションに)。
・世界に誇る国際クルーズの拠点形成(旅客ターミナル整備への無利子貸付制度の創設など)
・瀬戸内海や南西諸島など新たな国内クルーズ周遊ルートの開拓、ラグジュアリークルーズ船の就航
・新たなクルーズビジネスの確立(官民の関係者からなる地域協議会や全国クルーズ活性化会議の活用、農水産物の販売環境の改善
・全国クルーズ活性化会議と連携し、寄港地の全国展開に向けたプロモーション
■休暇改革
○2020年までに年次有給休暇の取得率を70%に向上させることや休暇取得の分散化を通じて、休暇の利用による観光の促進を図るため、以下の取り組みを実施・働き方・休み方改革を推進し、年次有給休暇の取得を一層促進
◇5日間の年次有給休暇付与を使用者に義務付け(労働基準法の改正)
◇10月の年次有給休暇取得促進期間に加え、夏季、年末年始、ゴールデンウィークなどの連続休暇を取得しやすい時季に年次有給休暇取得の集中的な広報
◇地域において、関係労使、自治体、NPOなどが協議会を設置し、地域のイベントなどに合わせた計画的な年次有給休暇取得を企業、住民などに働きかけ、地域の休暇取得促進の機運を醸成
・家族が休暇をとりやすい制度の導入、休暇取得の分散化による観光需要の平準化
◇分散化などの学校休業日の柔軟な設定における工夫事例を周知するとともに、経済界と連携し、子どもの休みに合わせて年次有給休暇取得3日増を目指す
◇休暇取得の分散化のため産業界に対し奨励を行うとともに、経済的インセンティブ付与の仕組みの導入を目指す。このため、2016年度中に、休暇分散の地域への経済効果、海外事例などの調査を実施
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