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テーマ別誌上セミナー コロナ禍における 社員の心の健康を考える

長引く新型コロナウイルスの影響は、従業員にも予想以上に広がっている。テレワークをはじめとする就業形態の変化や業績の悪化、将来への不安など、感染そのものよりも従業員の心の健康を脅かすリスクが高まっており、終息後も人事労務管理面で、企業経営に大きな影響を及ぼす可能性もある。今こそ考えておきたい従業員の心のケアについてメンタルヘルス・マネジメント検定広報大使を務める東京海上日動火災保険の横山昌彦さんに話を聞いた。

横山 昌彦

東京海上日動火災保険 広域法人部部長 兼 営業開発部参与

横山 昌彦(よこやま・まさひこ) 1983年早稲田大学政治経済学部卒業後、東京海上火災保険入社。商工3団体プロモーターとして、中小企業のリスクの分析、リスクヘッジ策の開発、普及推進を担当。セミナー講師やメディア出演も多く、1300回を超える講習を行い、講演の平均満足度は95%と高い。ハラスメント防止コンサルタント、メンタルヘルス・マネジメント検定広報大使、健康マスター検定推進リーダーなども務める

軽視できない、職場の精神障害

―新型コロナウイルスの影響で、心の健康を害する人が増えていると聞きます。どのような背景がありますか。

横山昌彦さん(以下、横山) 新型コロナはその感染リスクにとどまらず、経済面および心の健康にも多大な影響を及ぼしています。全国的な感染拡大に伴う外出自粛、出社制限、業務上の制約、慣れない在宅勤務や新しい生活様式などにより、誰もがストレスのたまりやすい状況にあります。メンタルヘルス不調者が増えているのは、そうした要因が大きいと考えられます。

―そもそもストレスとは何ですか。

横山 ストレスとは、もとは物理学用語で‶ゆがみ〟のことです。頬を指で押すと、へこんでゆがみます。これがストレスの生じた状態でストレス反応といい、反応を引き起こした原因の指をストレッサーといいます。今回のコロナ禍では、外出自粛や出社制限、新しい生活様式など、従来になかった外的刺激がストレッサーであり、これによって引き起こされた不安や怒り、うんざりした感情がストレス反応といえます。

―ストレスが高いと心身にどのような影響を及ぼしますか。

横山 急性の強いストレスや慢性的なストレスは、脳の神経伝達物質の働きをアンバランスにします。その結果、うつ病、心身症、脳・心臓疾患、高血圧などの健康障害を引き起こします。職場の精神障害の例として、うつ病、躁うつ病、統合失調症、適応障害などが挙げられます。

―コロナ禍との関連で、新たに留意しなければならない症例はありますか。

横山 もともと職場で起こりやすい精神障害は、今後さらに増えていく可能性がありますが、今回の新型コロナは未知のウイルスであることや先行きの見えない状況から、パニック障害や不安障害なども増えてきています。また、在宅勤務やステイホームにより、アルコール、ギャンブル、ゲームなどの依存症にも留意が必要です。

従業員の精神的不調に企業はどう対応する? 

―自分のストレスの状態を知る手立てはありますか。また、企業が取るべき対策は?

横山 2014年に労働安全衛生法が改正され、翌年12月からストレスチェック制度がスタートしました。企業には、年1回以上実施することが義務付けられている(従業員数50人未満の事業所は努力義務)ので、それを活用するといいでしょう。また、会社とは別に、個人で行うストレスチェックもあります。私も受検していますが、コロナ禍の前と今では結果が大きく異なっています。企業は従業員の、個人は自分自身のストレス状態に気付く意味でも、是非、定期的な受検をお勧めします。

―従業員に「ストレスが高い」という結果が出たら、どう対応すればいいですか。

横山 本人からの申し出に基づいて産業医や人事労務担当者が、じっくりと本人の話を聞いてあげることが基本です。職場のどんなことにストレスを感じているのか、何かつらいことがあるのかなどです。ただ、不調や疾病に関することは医者につながなければなりません。この場合は基本的に産業医ですが、産業医の設置義務のない50人未満の事業所は地域の産業保健総合支援センターに連絡すると、無料で派遣してもらえます。現在、産業医も新型コロナの対応で実務が逼迫(ひっぱく)しており、すぐに対応してもらえない場合は、近くの心療内科の受診を促すといいでしょう。

―従業員のメンタルヘルスを管理する上で、上長や経営者が日ごろから心掛けておくことは何ですか。

横山 やはり、従業員の変化に気付くことが大切です。その指標として、「いつもと違うAさん」というのがあります。急に遅刻や欠勤が増えた、ミスや苦情が増えた、元気がない、顔色が悪いなど、本来のAさんと比べて違う点に着目するのです。違う点があるということは、そこに何らかの要因があるはずなので、状態を悪化させないためにも、小さな変化を見逃さないことが早期発見につながります。

―メンタルヘルス不調を訴える従業員の多い業種はありますか。

横山 現代のストレス社会を考えると、ほぼ全業種で発生しています。ただ、長時間労働やハラスメントなど、過度のストレスがある職場ほどメンタルヘルス不調を招きやすいといえます。従って、精神障害の労災認定が多い業種として、病院と介護社会福祉法人が常に上位にあります。特に、今回の新型コロナの影響で従来にも増して、過重労働や高ストレスになっており、一層の注意が必要でしょう。また、現在繁忙度が増している運送業界も、もともと不規則な過重労働により、精神障害や脳・心臓疾患の労災認定が多く、留意が必要です。

従業員のメンタルヘルス不調を予防するには

―ストレスに上手に対処していくにはどんな方法がありますか。

横山 ストレスに対処する方法を「ストレスコーピング」といい、いくつか種類があります。

①問題焦点型コーピング……ストレスの原因になっていることに焦点を当てて、それを取り除いていく方法。

②情動焦点型コーピング……対面で悩みや愚痴を聞いてもらう、怒りを発散するなど、コミュニケーションを通じて内側の感情を出すことでストレスを緩和する方法。

③認知再評価型コーピング……ストレスの原因となっていることばかりに惑わされず、考え方や見方を少し変えることで、気持ちを楽にする方法。

④社会的支援型コーピング……さまざまな人に助けの手を差し伸べてもらう方法。

⑤気晴らし型コーピング……リラクゼーションやマッサージ、旅行などでストレスを発散する方法。

以上のようなものがありますが、今は新型コロナのためにできることとできないことがあるので、できることを組み合わせながらやっていくといいでしょう。

―ストレスのたまりにくい環境を整えていくためのポイントは?

横山 先ほどお話ししたストレスチェック制度の集団分析を活用するのも一つの方法です。長時間労働やハラスメントも含めて、職場の何を整えるとよいのか、ポイントがつかみやすくなります。改善に当たっては、「仕事の質」「職場環境(作業環境も含む)」「企業の文化・風土・慣行」の三つの観点から検証することが必要です。

―三つの観点について具体的に教えてください。

横山 仕事の質は、仕事のさせ方のことです。たとえ単純作業であっても面白みややりがいを感じられるように、やり方を工夫することが大切です。職場環境のハード面での改善例としては、快適な温度・湿度の管理、明るさ、清潔さなどがそれに当たります。加えて現在では、新型コロナの感染対策が取られているかどうかも欠かせません。そして企業の文化・風土・慣行が、実はメンタルヘルスにおいて最も重要といえます。例えば、新型コロナの影響で落ち込んだ業績を一気にリカバリーしようとしたり、売り上げや成果第一主義のままでは、集団で問題が発生します。また、上意下達の企業風土、特定の個人に権限が集中する形態が根づいているところもリスクが高いので、それを変えていく勇気が必要です。

新しい生活様式がメンタル面に与える影響

―新型コロナの影響は、人事労務管理の面でどのような変化が出てくるでしょうか。

横山 企業によっても異なるでしょうが、可能な業種や職種を中心に、業務のデジタル化、対面型から非対面のリモート化、オンライン営業といった形態が進展し、テレワークや在宅勤務が増えていくでしょう。一方で、そうした形態が難しい業種もあり、産業構造の変化も進んでくるように思います。

―テレワークと在宅勤務は同じものですか。

横山 テレワークは広い意味で、本来の勤務場所に出社しない働き方のことを指し、在宅勤務、サテライトオフィス、別の拠点での勤務などが含まれます。私は、コロナ禍の前は、毎週全国各地でセミナーや講演をしていたので、毎日がテレワークのような状態でした。一方で、在宅勤務は作業場所が自宅なので、同一の状況とまではいかないでしょう。

―在宅勤務のメリットとデメリットを教えてください。

横山 メリットとしては、通勤時間が節約できる、通勤しないため新型コロナの感染リスクが低下する、環境が整えば自分の業務に集中できるなどが挙げられます。一方課題として、出社しないとできない業務がある、タブレットだとできる業務に制限がある、Webの環境によって通信の速度が遅いケースがある、仕事と生活の境目が曖昧、長時間労働が発生しやすい、机やいすなどが整備されていない、家族のいる中で集中しづらいなどがあります。

―Web会議も増えてきていますが、人事労務管理の観点から留意する点はありますか。

横山 Web会議も、参加場所を選ばず利用できるという利便性はあります。ただ、テレワークで勤務状況が見えないからとひんぱんにWeb会議を開催し、参加を強要されると「監視されているようでストレスがたまる」と言っていた人がいました。自宅でWeb会議に参加する場合は、生活空間なので背景が映らないようにしたり、周囲の生活音にも配慮するなど、けっこう神経を使います。また、容姿や服装に触れる会話は、たとえ雑談であっても対面時以上に注意しないと、個の侵害(プライベートに過度に立ち入る)としてハラスメント問題に発展するリスクがあるので要注意です。

―新しい生活様式の中で心の健康を保つコツは何ですか。

横山 今は、かつてない環境に置かれているため、ストレスがたまりやすくなっています。一人ひとりが日常生活の中で、次のようなことを心掛けるようにお勧めしています。

①在宅勤務でも、食事、仕事時間、睡眠など、できるだけ一定の生活習慣を守る。

②手洗い、うがい、三密回避など、自分でコントロールできるものに焦点を当てて、実行する。

③雑談などコミュニケーションを積極的に取ることで、孤独感を防ぐ。

④退屈や緊張に対処する。

⑤不安をあおるメディアの情報にはまりすぎない。

⑥体を動かす。運動する。

⑦周囲に助けを求め、ストレスや悩みを抱え込まない。

収入減や補償リスクを想定しておく

―メンタル面の不調で休職した場合、収入はどうなりますか。

横山 自営業者など国民健康保険加入者は、休職すると収入喪失につながりますが、サラリーマンなど健康保険加入者は、有給休暇を使っている間は収入は減りません。その後も、健康保険傷病手当金により月給の3分の2は補填(てん)されますが、年間のボーナスは傷病手当金の対象にならない上に、支給期間も最長1年6カ月という制限があります。それ以降は障害年金という制度がありますが、対象となるのは障害等級1~3級の重度後遺障害と限定的です。公的社会保険制度で、一定の給付項目がありますが、従来の生活水準を十分カバーできるものではないので、一定の自助努力は必要です。

―メンタルヘルス不調による休職に対して、企業や従業員個人の休業補償の仕組みはありませんか。

横山 あります。例えば日本商工会議所では、全国の会員企業向けに、収入減少リスクに対して長期間補償する休業補償プランを開発し、案内しています。福利厚生制度の一環として、企業の一括加入もできますし、個人で加入することもできます。商工会議所の規模の強みを生かして、廉価でリスクヘッジ策の構築ができ、多くの方々が利用しています。詳細は、最寄りの商工会議所に問い合わせてみてください。

―従業員がメンタル面の不調の原因として、会社に賠償請求をしてくることはありますか。

横山 労働契約法5条に、安全配慮義務が規定されています。企業の長時間労働やハラスメントによって従業員がメンタルヘルス不調を発症し、企業の安全配慮義務違反を問われて賠償責任を負うケースが増えています。今回のコロナ禍についても、従業員がマスクの着用を希望しているのに、接客業だから認めないといった対応を取るかどうかは、十分注意すべきでしょう。ちなみに日本商工会議所では、こうした賠償リスクに関しても、会員企業向けに業務災害補償プランを用意しています。

今こそ社内規定や制度を見直そう

―従業員が休職する際、企業はどのような対応をしたらいいでしょうか。

横山 私が行っているセミナーのメインテーマは、まさにメンタルヘルス休職復職支援です。メンタルヘルスの観点から企業が一番やってはいけないのは、人手不足を理由に、いかにも調子が悪そうな従業員に対して「ちょっと頑張ってよ」と言ってしまうこと。するとさらに状態が悪化して、結果的にミスやトラブルが増えます。メンタルヘルス不調者が休職した場合よりも、無理して働いた場合の方が企業の損失は大きいという試算もあり、きちんと休ませて、よくなったら活躍してもらおうと考えることが大切です。

―復職する際はどのようなことに留意するといいですか。

横山 休職した従業員は、元にいた部署に復職することが基本です。上司のパワハラが原因で不調を引き起こした場合は、別の部署に異動させる場合もありますが、単に「気まずいから」という理由で部署を変えると、環境の変化でストレスが掛かり、症状が再発する恐れがあります。復職直後は短時間勤務にして、職場に慣れてきたら通常の勤務時間に戻すなどの配慮も必要です。

―メンタルヘルス不調を念頭に、休職や復職に関するルールをきちんとつくっておく必要がありますね。

横山 その通りです。従業員のメンタルヘルス対策は企業の経営上の重要課題であり、経営者が率先して取り組んでいかなければ前に進みません。その第一歩として、休職規定を整備することをお勧めします。すでに規定がある企業は、見直してみるといいでしょう。

―休職規定にはどのようなことを盛り込むといいのでしょうか。

横山 例えば、うつ病を発症した場合は再発のリスクがあります。仮に休職期間が1年間だとしたら、11カ月間調子が悪いからと休んで、権利の切れる直前に復職し、1カ月くらいしたらまた調子が悪いと言って11カ月間休んでしまう人がいます。これをずっと繰り返されたら、ほかの従業員から不平不満が出てきます。こうしたことが起こらないように、休職や復職に関して細かく具体的に決めておくことが望ましいといえます。

―休職規定は法律で決まっていますか。

横山 労働基準法上は何の取り決めもない任意の規定なので、中小企業などでは規定がないまま、これまでも何となくやってきたというところが多いのが現状です。しかし、コロナ禍によって皆が漠然とした不安を抱えている今こそ、心の健康のために休職規定を整備する良い機会ではないでしょうか。休職規定があることは、従業員にとっては安心材料になり、経営者としても従業員のことを考えているという姿勢を示すことができます。

―最後に、企業や従業員個人が自己研鑽(さん)としてできるメンタルヘルス対策があれば教えてください。

横山 今回のテーマであるストレスも含めて、メンタルヘルスの基礎知識、企業や人事労務担当者が身に付けておくべき事項を体系的に学ぶことのできる、メンタルヘルス・マネジメント検定がお勧めです。この検定は、大阪商工会議所が開発・主催し、各地商工会議所と共催、さらに日本商工会議所が後援しているもの。メンタルヘルスの分野で社会的認知度が高く、資格取得者の人気度、満足度が高い試験です。すでに累計で40万人以上が受験しているので、この機会にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

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