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テーマ別企業事例 特集2 人が人を呼び、まちがもっと楽しくなる! コミック・アニメでまちを活性化せよ!

かつては、オタクなどマイナスイメージを持たれがちだったが、マンガやアニメに代表されるポップカルチャーは、いまや「クールジャパン」の代表格として世界中から注目されている。これらを活用することにより、まちの魅力を発信し、人を呼び込むことに成功している事例を紹介する。

グルメと観光スポットを地域密着型マンガで紹介

マンガ冊子「札幌乙女ごはん」 札幌商工会議所 北海道札幌市

現在、全3巻発行。第4巻は11月11日に発売予定だ。年4回発行で定価100円(税別)。札幌市内書店のほか、新千歳空港などでも販売されている

札幌商工会議所は平成25年11月、観光客の誘致と札幌の魅力アップを目的にマンガ冊子「札幌乙女ごはん」を発行した。29歳の独身女性を主人公にした物語の中には、市民に人気のお店や観光スポット情報が満載だ。これが大好評で第1巻は初版3000部が1カ月で完売となり、3000部を増刷したほど。ここではコミックで〝楽しく〟まちの活性化を図る札幌商工会議所の取り組みをレポートする。

マンガ×観光でオリジナル情報を発信

札幌市といえば、全国でも有数の観光スポットで、多くの人が訪れる。事実、昨年の観光客数は1355万9000人(札幌市観光企画課調べ)にのぼる。これは、前年比4%増で、外国人宿泊数に限ると105万5000人で、こちらはなんと前年比54・9%も増加したのである。

ただ、観光客が増えるのは「さっぽろ雪まつり」や「YOSAKOIソーラン祭り」など、大きなイベントが開催される時期に偏っている。「毎年オフシーズンになるとガクッと減ってしまい、まち全体も静かになってしまうというのが現状です」と、札幌商工会議所国際・観光部の木戸徳秋さんは言う。

「何とかイベントに頼らず、1年を通じて安定した集客を狙うにはどうすればいいのか。そこで考え出したのが〝マンガ〟と〝観光〟の掛け合わせでした。ちょうど22年ごろなのですが、鳥取県境港市の〝鬼太郎のまち〟など、マンガを地域振興に結び付ける取り組み事例がいくつかあったので、札幌でもそれができたらいいなと思いました」

木戸さんたちは早速、市内にある団体「北海道マンガ研究会」に協力を仰ぎ、札幌出身の漫画家や、市内の風景やお店が登場するマンガを調べてもらった。

「札幌に関係のある漫画家だと『キャンディキャンディ』で有名ないがらしゆみこ先生とか、映画化された『潔く淡く』のいくえみ綾先生とか結構いらっしゃるんです。でも、実際にはみなさん、当時は東京在住だったりですぐには依頼できませんでした」(木戸さん)

そこで23年「地域力活用新事業∞全国展開プロジェクト」を活用。最初に作成したのが「札幌のマンガ舞台を旅しよう!マンタビ~札幌まんがMAP」だった。

「タイトルどおり、漫画に登場した観光スポットを地図にしたものです。掲載された場所を訪ね歩くモニターツアーを実施したところ、好評でした。ただ、やはりどの作品も東京の出版社が版権を持っていたので、一つひとつ許可をもらうのは大変でしたね。これを続けるのは難しいと判断しました。その後、試行錯誤した結果、どうせなら地元の漫画家さんにお願いし、地域密着型のマンガを自分たちでつくろうじゃないかということになったわけです。それが『札幌乙女ごはん』の始まりでした」(木戸さん)

札幌商工会議所につくった「マンガコンテンツ活用委員会」が企画し、マンガは市内在住の漫画家、松本あやかさんが手掛けた。編集は道内で唯一のマンガ出版社エアーダイブに依頼。実際に完成した冊子は商工会議所が直接、書店などに売り込むことにした。一つの地方都市で企画編集から書店の取次まで一貫して行うケースは全国的にも珍しいという。「前例がないからこそやる意義があると感じました」と木戸さんは振り返る。

札幌のアラサー女子を主役にした理由

「札幌乙女ごはん」の主人公は旅行会社に勤務する29歳、独身のアラサー女子だ。彼女は第1巻の冒頭でいきなり失恋する。仕事でも失敗して傷つくが、友人や上司に励まされ、合コンに行き、カラオケで歌い、締めにラーメンを食べる。そんなストーリーを追って読み進めていくと時々ドキッとしたり、キュンと切なくなったりする。さまざまなシーンで読者のハートをがっちりつかみつつ、さりげなく実在のお店が誌面に登場している。そのため、知らないうちに情報がインプットされるのだ。第2巻(26年5月発行)以降も同様。つまり、マンガとして純粋に楽しみながらも観光情報誌にもなっているというわけだ。実際、巻末には、ガイド本としても活用してもらうため、地図と紹介店のお得なクーポンが付いている。冊子は持ち運びやすいA5版で全28ページ、これだけの情報量が入って100円(税別)。かなりお得である。

ところで、なぜ主人公をアラサー女子にしたのか。編集を担当するエアーダイブの三守小百合さんがその理由を教えてくれた。

「私は札幌出身で東京の出版社で働き、数年前にUターンしてきました。戻ってきて驚いたのは30代前後の札幌女性がとにかく元気なこと。恋にも仕事にも遊びにも一生懸命なんです。しかも、そういう人たちに限ってなぜかみんな未婚(笑)。それで、そんな彼女たちの姿を描いたマンガであれば、多くの人たちに元気になってもらえるし、マンガ世代の共感も多く得られるのではないかと考えたんです」

読んで楽しんでもらえるマンガにするため、あくまでストーリーをベースに内容を重視する。その上で、札幌商工会議所推奨店協会が「ここなら大丈夫!」と太鼓判を押すお店やスポットをからめていく。

編集の三守さんは掲載店が決まると、必ず漫画家の松本さんと一緒にそこを訪ねて取材する。もちろん、飲食店であれば、試食もする。

「マンガでは、できるだけ現実の雰囲気やディテールを忠実に再現してもらっています」(三守さん)

実際、第2巻に掲載されているすすきの近くにある「生ラムジンギスカン 山小屋」に行ってみると、「札幌乙女ごはん」に出てくるご主人が登場。しかも「ミニトマトともやしと玉ねぎは食べ放題ですよ」「すりおろし玉ねぎを入れるとタレがマイルドになりますよ」とマンガのセリフどおりにご主人が喋ってくれるではないか。 「訪れた人にも〝あ、マンガどおりだ〟って楽しんでもらいたいのです。特に、松本さんは味の表現にもこだわっていて、ただ〝おいしい〟だけでなく、味わいがちゃんと伝わるマンガとセリフを描いてくれる。それも『札幌乙女ごはん』の大きな魅力につながっていますね」(三守さん)

想像以上の反響に驚き

25年11月発行の第1巻は初版3000部のところ、1カ月で売り切れ、すぐに3000部を増刷した。その後、26年の5月に第2巻を、8月には第3巻をそれぞれ6000部発行している。

「想像以上に反響があり、好評です。マンガで紹介すると親しみを持ちやすいみたいですね。ストーリーにも人気があり、〝次の展開が気になるので早く出してください〟とか〝イケメンを登場させてほしい〟といったコメントをいただくことも多いんです」と木戸さん。最初は観光客をメーンターゲットにしていたが、予想以上にマンガ好きの市民からも問い合わせがあるそうだ。

「しかも、男性が意外に読んでくれています」(木戸さん)

「生ラムジンギスカン 山小屋」の店長、杉目達彦さんは最初、商工会議所から掲載の依頼があったとき、「はたしてマンガに集客効果があるのか」と半信半疑だった。しかし、実際に掲載以降、若い客が増えたという。

「こんなにも効果があるとは思わなかったですね。マンガに登場したことで敷居が低くなり、一方で、イメージアップもしたって感じです。そうそう、『札幌乙女ごはん』のお陰で地元テレビにも出ました(笑)。近くのスナックのママが〝ここは、マンガに載ってるお店なのよ〟ってお客さんを連れてきてくれたこともありましたね」と杉目さんはうれしそうに語ってくれた。

さらに、JALパックとのコラボツアー企画商品が実現したり、大手旅行ガイドブック「るるぶ」とのコラボで、電子書籍化も実現。『るるぶ 札幌小樽富良野旭山動物園15』の電子書籍版に「札幌乙女ごはん」の全編(現在3巻)がまるごとセットでついてくるというコラボ商品として発売中だ。

「電子書籍化によって、全国各地の方々に読んでもらえるし、これをきっかけに札幌に興味を持っていただけるとも思います。今後は紙媒体としても全国に広め、多くの人に愛される冊子に発展させていきたいです」と木戸さんは意気込む。

この冊子が成功した要因は、ストーリーを楽しみながら違和感なく札幌で親しまれている名店が紹介されていること。しかも、地元の人しか知らない「知る人ぞ知る店」をあえて挙げている点にある。

「新鮮で斬新といった声が多いです。自分たちの取り組みの方向性が間違っていなかったことを確信しています」と木戸さん。今後はさらに多くの声に耳を傾けながら、より面白く、分かりやすいマンガ情報冊子にしていきたいと考えている。

「札幌乙女ごはん」に登場する人たちは元気に満ち溢れている。すべてに全力投球だ。それに札幌を全力で愛していることも伝わってくる。つくり手自身が札幌というまちを愛しているからだろう。マンガはあくまで手段であり、まちの活性化の源泉にあるのは紛れもなく地元の人たちの心意気なのだ。

文化資源の「アニメ&マンガ」でまちのブランドイメージをアップ

吉祥寺アニメワンダーランド 武蔵野商工会議所 東京都武蔵野市

まちに来る人を増やして、地元商工業者のさらなる活性化を目指そうと、毎年秋に開催されている「吉祥寺アニメワンダーランド」。数多くのアニメやマンガ作品を生み出してきた中心地であることを新たな文化資源と捉え、まちのブランドイメージ向上につなげようというものだ。今年で16回目を迎える同イベントは、今や国内外から来場者を集め、まちに活気をもたらしている。

吉祥寺にあってほかにはないものに着目

しばしば「住みたいまちNO.1」に選ばれる吉祥寺(武蔵野市)は、都会と下町の風情が同居する緑豊かな人気スポットである。駅を中心に商店街や大型店舗が集まり、おしゃれな店や話題の飲食店なども充実。平日・休日を問わず幅広い層の人でにぎわっている。

そんな吉祥寺の、知る人ぞ知る特色の1つにアニメとマンガがある。実は、この周辺にはスタジオジブリをはじめ、大きなアニメスタジオが集積。人気マンガ家も数多く在住しているのだ。そうした地域の文化資源に着目し、新たな魅力としてクローズアップすることでまちのブランドイメージを向上させようと企画されたのが「吉祥寺アニメワンダーランド」である。

吉祥寺駅開業100周年記念事業として平成11年にスタートし、今年で16回目を迎える。立ちあげ当時を知り、今では制作統括を担当している星憲一朗さんはこう振り返る。

「吉祥寺駅が大きな節目を迎えるにあたり、『何かお祭りをやりたいね』というのがそもそもの始まりでした。同じ中央線沿線の高円寺では阿波踊り、阿佐ヶ谷では七夕まつりをやっていて、すでに定着していました。『それなら吉祥寺はねぶたをやろう』なんて声もあったようですが、何のゆかりもないものをやっても意味がないということで、吉祥寺にあってほかにはないものを突き詰めていったら、アニメに行きついたんだそうです」

こうしたきっかけにより、武蔵野商工会議所と地元商工業者、そして関連のあるアニメスタジオやマンガ家が主体となって、イベントの開催に向けて動き出した。

ターゲットをファミリー層に設定して成功

初年度のイベント名は「キャラクターワンダーランド」。メーン企画はコスプレだった。アニメやマンガのキャラクターに扮したファンたちによるパレードやコンテストを行い、会場は大いに盛り上がった。しかしそこで完結してしまい、イベントスタッフたちは一様に「これでいいのだろうか」と感じたという。

「秋葉原なら違和感がないのに、吉祥寺だと違和感があるのはなぜか。それは、ここがアニメやマンガを消費するのではなく、生み出すまちだからだと思い至りました。吉祥寺では、アニメの制作者やマンガ家が夜な夜な酒を飲み、そこら中の喫茶店でアイデアを語り合って作品を生み出しています。そうした息吹を来場者に伝えたいと思いました」と星さんは説明する。

そこで2年目以降は吉祥寺らしさを念頭に置き、懐かしのアニメを上映する「森の映画館」、グッズを販売する「おもちゃ市場」、トークショーやチャリティーなどの企画を盛り込んでいった。それにつれて、来場者も変化していく。当初は若者が中心だったが、徐々にファミリー層が増え、孫の手を引いてやってくる高齢者も見られるようになった。

「10月ともなると日が落ちるのも早く、夕方はけっこう肌寒くなります。すると小さな子ども連れは帰り支度を始めますが、子どもが一向に帰りたがらないんです。『仕方ないわねえ』とお母さんが子どもに自分のカーディガンを着せている様子を見たとき、『このやり方でいいんだ』と手ごたえを感じましたね」と星さんは顔をほころばせる。

そこから次第にターゲットをファミリー層に置き、老若男女が楽しめるイベントへと方向性が固まっていった。

量より質の時代に合わせてまちの〝奥行き〟を表現する

回を追うごとに、各方面からの参加が増えていく。かつて吉祥寺にあったスタジオジブリによる三鷹の森ジブリ美術館やアニメイトをはじめ、いったん転出したスタジオがまた市内に戻ってイベントに参加することもあったという。また、アニメ制作者やマンガ家、声優などの本人参加も増えた。野外ステージで踊る楳図かずおショーは毎回イベントの目玉だ。

「もう一つ、ここ5~6年の大きな変化は、カフェや雑貨店などの参加が急増していることです。吉祥寺は駅周辺から少し離れたところにもおしゃれな店が点在しているのが特徴なのですが、そういう店がイベントに参加して、期間限定コラボメニューやグッズを提供するようになったことで、来場者の行動範囲が広がってきました。これは本来なら対立しがちな小規模店舗と大型店舗が、日頃から良好な関係を保ちながら共存しているおかげです。来場者はそういう〝まちを挙げてやっている感〟にも居心地の良さを感じてくれているのではないでしょうか」と主催者の一人である武蔵野商工会議所振興課主任の劔持宏幸さんは分析する。

近年、イベントの制作側として星さんが実感しているのは、時代が明らかに「量から質」へと変わったことだそうだ。もちろん、どの企画に何人来場したか、どれだけ売上が上がったかということも大事である。しかし、それ以上に、どの企画にどんな反響があったか、どんな商品が関心を集めていたかという「質」にフォーカスしなければ、人を呼ぶことはできないと感じているという。

「質を上げていくには、いかに吉祥寺の〝奥行き〟を来場者に感じてもらえるかがカギだと思います。このまちにはまだ何かがある、1度来ただけではとても味わい尽くせないと思わせる仕掛けが重要です。イベントですべてを伝えようとは思っていません。ここではチラっと見せて興味を引きつけ、イベント終了後にまたあらためて行きたいと思ってもらえる企画がやりたいですね。ハードルの高い課題ですが、まちの人がクリエーターとしてそれを追求しなければいけないと思っています。その仕掛けがうまくいけば、おのずと人はやって来て、まちの活性化にもつながっていくのではないでしょうか」と星さんは語る。今後の吉祥寺の底知れない進化が楽しみだ。

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