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テーマ別企業事例 特集1 現状を打破する〝コラボレーション〟とは 〜その先は連携から生まれる〜

一社だけでは解決できないことも、異業種や違った視点を持った協力者と力を合わせることで思わぬ解決の糸口が見つかることがある。今号では「連携」によって現状を打破した事例を紹介する。

大学と連携して路線バス事業の業績回復

イーグルバス 埼玉県川越市

川越の観光名所を結ぶ、同社の「小江戸巡回バス」。レトロなボンネットバスが人気だ 路線バスの乗降口に設置された乗降センサー。カウントされた数値は車載CPUとWi-Fiアンテナによって、随時会社に転送される

埼玉県西部地域を中心に総合バス事業を展開するイーグルバスは、平成12年から埼玉大学と連携し、路線バス事業の改善に取り組んでいる。バスに乗降センサーを設置して多角的にデータを収集。運行状況や顧客ニーズ、コストを「見える化」したことで、収益の改善に結びつけた。

「見える化」で赤字路線改善へ

かつて城下町として栄え、今も「小江戸」の別名を持つ川越市は、歴史の風情が漂うまちである。その地で昭和55年に創業したイーグルバスは、観光バスや高速バスを主体に事業を展開してきたが、平成14年の改正道路運送法の施行により、乗り合いバスの規制が緩和されたのを機に、路線バス事業に参入。業績は順調に推移していた。

転機が訪れたのは18年のこと。同市が隣接する日高市からの要請で、大手バス会社が撤退した路線を引き受けることになったのだ。

「まさに絵にかいたような赤字路線で、会社の存続にも関わると危機感を持ちました。これを立て直すには、まず問題点を洗い出さなければなりません。ところが、バスはいったん車庫を出ると誰も運行状況を把握できません。すべて運転士の勘と経験に委ねられてきたわけです。これは真っ先に運行状況を『見える化』する必要があると思いました」と同社社長の谷島賢さんは説明する。

そのため、同社は埼玉大学に協力を求めた。もともと同大とは、12年から全国に先駆けてバスロケーションシステム(バス現在位置情報検索)の導入・実用化を共に取り組んできたという経緯があり、引き続き連携を図って路線バス事業の改善に乗り出したのだ。

運行ダイヤの最適化実現後も改善努力は続く

見える化の大きなテーマは、「運行状況」「顧客ニーズ」「コスト」を数値化することだった。そこでまず、バスにGPS(全地球測位システム)と乗降センサーを設置。停留所別の乗降客数や停留所間の乗車人数(混み具合)、路線上での位置や運行にかかった時間、鉄道との接続状況などを徹底的に調査。それらのデータから乗客が誰も利用していない区間や遅延状況などをグラフ化した。また、埼玉大学大学院研究室の学生の協力を得て、路線沿線の全戸にアンケート用紙を配布。利用者のニーズを拾い集めた。

さらに、コストを判断する単位を「1台」「1ダイヤ(運行)」ではなく「1分」「1㎞」の走行あたりに変えた。こうすることにより同じ路線内であっても、どの区間が赤字なのかが浮き彫りとなる。これをグラフ化し、運行とコストの均衡点が分かるようにした。これらの取り組みすべてに関わった同大大学院の非常勤講師で、同社顧問も務める坂本邦弘さんはこう振り返る。

「当時、車内にセンサーを設置しているバス会社はほかにもありましたが、集積したデータを活用して何かをしようとしていたのは、イーグルバスが初めてなのではないでしょうか。私は交通づくりが専門です。プログラミングも得意だったので、このプロジェクトに参加しました。ところが、いざやってみると、センサーで集めたデータをグラフに変換して、問題点を抽出するシステムを開発するのは思った以上に大変でした。現場を知っている谷島社長が求めるものを私がプログラムに落とし込み、大学OBのSEがそれをシステム化するわけですが、前例がないのでゼロからのスタートでした」

試行錯誤の末、バス停別の平均乗車人数、バスの遅延時間、利用者ゼロの運行区間、収支バランスなどの「見える化」を実現。アンケート結果と合わせて問題点を洗い出し、利用者の少ない区間の運行を最小限に減らしたり、逆に多い区間や時間帯には増便したり、鉄道との接続時間を実情に合わせるなど、運行ダイヤの最適化を図った。これにより開始4年目にあたる21年、利用者が初めて増加に転じ、収支も改善した。

一見問題が解決したように見えるが、これで終わりではないと谷島さんはいう。「センサーで測って、データを見て、解決策を考える、この『測る・見る・考える』までが導入段階。これをもとに改善計画を立て、実行し、評価して、また改善するというPDCAサイクルを1年単位で繰り返しています。ですから毎年運行ダイヤを改訂し、アンケートを実施して利用者の声を聞いて、つねに最適化に努めていますよ。実際、少子高齢化によって年々利用者は減っていますから、期間を決めてそのときの実情に合った改善をしなければ結果は出ないし、利用者の満足にもつながりません」。

ハブ&スポーク化で利用者が増加

こうした独自の「路線バスPDCA改善モデル」により見えてきた新たな課題から、現在同社は過疎地域における路線再編にも取り組んでいる。過疎地域での路線バスの問題は、運行本数が少なくて不便なため、利用者の満足度が低いこと。とはいえ、運行を増やせばコストも増加するため、赤字路線での増便は実質不可能だ。

その改善策として考えたのが、「ハブ&スポーク化」構想だ。これは中心地にハブとなる停留所(バスセンター)をつくり、そこを乗り換えの拠点とするもの。各地からハブ停留所までの距離が短くなり、車両を増やさずに運行本数を増やせるため、輸送を効率化できる。反面、乗り換えなしで行くことができた地域に乗り換えが必要になったり、移動時間が長くなる場合もある。しかし、すでに導入されている埼玉県ときがわ町では、運行本数が倍増。利用者も2割増加している。

「現在、取り組みは一定の成果を上げていますが、地域だけで利用者を増やすには限界があります。やはり交通インフラを整備しながら、外から人を呼べる仕組みをつくることが欠かせないでしょう。今ちょうど東秩父村の再生計画が進んでいます。『和紙の里』という観光施設をハブ停留所として、その中にコンビニや飲食店などを設置することで、地域住民の生活利便性を高めながら観光客も呼び込もうとしています。もはや交通づくりはまちづくりだと考えています」と谷島さんは熱く語る。

こうした一連の取り組みと実績が評価され、谷島さんは23年に国土交通省関東運輸局から初代「地域公共交通マイスター」に認定された。同社のノウハウは今、国内のみならず東南アジアにも輸出されようとしている。同社の進化は、長年にわたる大学との連携なくしては実現しなかった。何ごとも継続することの重要性を再確認する事例といえるだろう。

会社データ

社名 イーグルバス株式会社

住所 埼玉県川越市中原町2丁目8番地2

電話 049-226-0111

代表者 谷島 賢 代表取締役

従業員 180人

工業技術が農業分野で実を結ぶ

やまと興業 静岡県浜松市

「連携を通じて、自社にはないノウハウを直接教えてもらったりして、勉強になりました」と語る藤安健太郎さん

自社が得意とする技術を生かしながら、他業種などとの連携で新しい道を探り、実績を上げていく。言うことは簡単だが、なかなか実現できるものではない。ここに、自動車部品の製造を核にした企業が連携を通じて、農業分野での挑戦に成功した事例がある。経済産業省の「農商工連携88選」にも選ばれた、「高輝度LEDによる花菜類の花芽誘導装置の開発及び花芽の普及」という取り組みだ。それは一体、どういうものなのだろうか。

自社にある技術を生かす

もともとは、農機具メーカーとして出発したやまと興業が、地元のヤマハ発動機と組んでコントロールケーブルやパイプ加工に取り組むようになったのは、ある意味自然な流れだった。何といっても、浜松はスズキや本田技研工業などの創業の地であり、オートバイ産業の聖地なのだから。そんなやまと興業が、LEDを使った花菜類の花芽誘導装置に取り組んだのにも、同様に必然性があった。責任者の商品開発課課長の藤安健太郎さんはこう説明する。

「当社はケーブルやパイプだけでなく、樹脂の成型も行っています。この技術を生かして何かできないかと考えていたのが、創業50周年を迎えた平成6年のころです。社長の小杉は、明るく楽しく地域に貢献できることがしたいと考えていたようです。そんなときに、地元警察署から、交通事故防止につながるような製品をつくれないか、という話があり、LEDを使ったプラスチックの腕輪を開発しました。これはファンタジックライトと名付けました。ここから私たちのLED事業は始まったのです」

同社はコンサート会場などで使われるペンライトなどの商品も開発。当時、まだ珍しかった青色LEDをどこよりも早く取り入れた。また、イルミネーション関連商品なども先駆的に手掛けると同時に、LEDの波長が動植物などに与える影響も研究していた。

「LEDの光を当てて、トマトを育てると甘味がどう変わるのか、アコヤガイに当てたら真珠の大きさに違いがでるのかなどいろいろと試していました」(藤安さん) そうした中で、地元の農家、大杉実さんとの出会いがあった。大杉さんは、静岡県に中国野菜「チンゲンサイ」を広めた人物。実は、チンゲンサイは花芽のついたもののほうが、栄養価も味も通常の葉物より良い。しかし、通常の栽培では花芽をつけるのに時間がかかり過ぎる。何とかならないだろうかと考えていた大杉さんは平成13年、LEDを利用した商品を手掛けるやまと興業の協力を仰ぐことにしたのだった。

工業メーカーだけでは普及・販売に限界

こうしてやまと興業と大杉さんはともに、一年に一度しかつくれない花芽の育成を誘導し、通年栽培を可能にする装置の開発に踏み出した。「チンゲンサイは低温感応性で、冬を越さないと花芽が育成されないのです。だから、あまり発熱しないLEDが向くのですが、どのような色がいいのか、どの条件で照射すればいいのか、試行錯誤を繰り返しました」(藤安さん)

LED装置「バーナリくん」の試作品が完成したのは、3年後。浜名湖花博(平成16年4月~10月)でお披露目し、チンゲンサイの花芽を試食してもらったところ、大好評。しかし、もっと単価を下げる必要があった。そのためには装置を小型化し、また、花芽の良さを周知させ、販売ルートを開拓しなければならなかった。

こうなると、やまと興業一社だけでは手に負えない。ここから、異分野連携の新事業開拓が始まった。装置の空調設計を担当する開発業者、栽培の協力を要請する地元農家、それに販売と市場開拓を任せられる農業法人、成分分析などを担う静岡大学などとの連携が始まった。

「ただ、装置はできましたが、花芽そのものを普及させないと、装置も売れません。チンゲンサイの花芽の良さをどうやって伝えていくか、それも課題でした。私も、スーパーの地産地消コーナーに立って、その魅力を伝えました。直接訴えると売れるんですが、何もしないと、主婦の方が葉物野菜で買っていかれるのは、ホウレンソウだったりミズナだったりする。工業では味わえない難しさを経験しましたね」と語る藤安さん。そして、もう一つの壁が立ちはだかる。それは農業独特の価格決定方法と自然を相手にする、というものだ。

「われわれメーカーだと、商品の価格は、原材料費、人件費、それに利益を乗せて上代・下代が決まっていくわけです。でも、農家さんはほとんどが家族経営で、利益を上乗せするという発想がない。売り方も農協を通したり、直接売ったりで価格が違ってくるんです。それに、天候に供給が左右されるということも難しかったですね」

複数農家と契約することなどで、供給量は確保できたが、メーカーであるやまと興業が野菜を普及・販売することには限界がある。そこで、JA遠州中央の協力を得ることにした。ここはもともと、中国野菜などの新たな野菜の導入に力を入れている。チンゲンサイの花芽を「磐生福立菜(バンセイフクタチナ)」の名前で紹介してもらい、LEDを使った育苗装置も扱ってもらった。

さらに新分野へ進出

LED花芽誘導装置の経験は、効率の良い成育や防虫に効果のある「植物育成ロープライト」や光合成を促進する「植物育成アームライト」につながった。今では光源を扱うメーカーとして、農作物だけではなく、医療関係、リラクゼーション関連への活用も研究している。

また、LEDとは別に、自社技術を応用して「スーパーミクロン健康緑茶」や「べにふうき超微粒子粉末緑茶」を開発し、販売している。特注の超合金ドリルをつくるとき、超微細に金属を砕くという技術が同社にはある。これを生かすことで、すぐ溶けて飲みやすく、そして体にいい成分が多いというお茶の粉末が誕生。基幹事業の独自技術の活用と連携によって、新分野への進出に成功している。

最後に、藤安さんに連携を成功に導く秘訣を聞いてみた。「隠さないということ。現状を正しく伝えること。それが、打破するための連携なのですから」。

会社データ

社名 やまと興業株式会社

住所 静岡県浜松市浜北区横須賀1136

電話 053-586-3111

代表者 小杉 昌弘 代表取締役社長

従業員 300人

「商工会議所×ヤフー」で地元産品を全国へ

おもてなしギフトショップ 神奈川県横須賀市

「おもてなしギフト」トップページには出店者の顔が並ぶ。手に持った黒板の文字には、出店者の思いが詰まっている

横須賀商工会議所が中心となって運営する「おもてなしギフトショップ」が今年4月、ネットショッピングサイト「ヤフー・ショッピング」にオープンした。全国の商工会議所会員企業が扱う地域産品を、ギフトに特化して販売するインターネット専門店で、ヤフーとの連携によって実現したもの。このサイトを活用し、各地の会員企業が精魂込めて生み出した商品を、地域ブランドとして地元はもとより全国へと販路を拡大しようという取り組みだ。

売上を伸ばすためにネットショップを活用する

インターネットで「おもてなしギフトショップ」と検索すると、「ヤフー・ショッピング」がトップに出てくる。クリックすると、「地域を味わい、地域を贈ろう。」のキャッチフレーズとともに、たくさんの顔写真が目に飛び込んでくる。

これは横須賀商工会議所が中心となって運営しているギフト専門のネットショップだ。商工会議所の会員であれば誰でも出店できる。また、店舗の構築や運営、伝票作成や配送の手配、入金管理などは一切不要。出店申し込み費用として年間1万円、販売手数料として商品価格の30%を支払えば、手軽にネットビジネス展開が可能だ。

「おもてなしギフトショップ」を開設したいきさつを、ショップ責任者である同所情報企画課課長の工藤幸久さんはこう説明する。

「私たちは10年ほど前から、会員の皆さんにインターネット活用を通じて経営のIT化を促そうと、セミナーやパソコン教室を開催するなどさまざまな取り組みをしてきました。その場では参加者の反応もよく、興味を持ってもらえるのですが、なかなか実行するまでにいたりません。どうすればやる気になってもらえるのか、日々模索していました」

当時、同じようなジレンマを感じていたのが、ヤフー・ソーシャルアクション室ソーシャル事業企画ビジネスコンサルタントの小澤富士男さんだ。

「私もヤフーの入社前にITコーディネータとして中小事業者の支援を行ってきましたが、『経営改革しましょう』『IT化を促進しましょう』と言ってもまったく響かないんです。中小事業者にとって興味があるのは、売上を伸ばすこと。ならばまず売上を伸ばすためのツールとして、ネットショップを活用したらいいんじゃないかと思ったわけです」と振り返る。

中小事業者のネット活用やネットショップ運営に係る課題は、①時間がない、②投資資金がない、③スキルがない、の三つに集約されると小澤さんは言う。しかし言い換えれば、この三つをクリアすれば実現の可能性は高まる。そこで平成21年から小規模企業のネットショップ活用を推進してきた小澤さんと工藤さんはネットショップの開設に向けて動き出した。

安売りせずに売れる「ギフト」に絞る

ショップのひな形にしたのは、ヤフーが運営する「復興デパートメント」。これは東日本大震災で被災した地域のさまざまな商品を販売するネットショップで、トップページには商品と共に店主や生産者の顔写真が掲載されている。「相手の顔が見えると安心」という利用者の声も多いことから、このスタイルでいこうと決めた。

そしてショップ最大の売りは、商品をギフトに限定したこと。ギフト市場はすでに確立されていることや、近年ではとくに個人需要が伸びていることが主な理由だ。

「中小事業者は自分の店の商品が売れるとの自信がありません。ですから価格を下げたら売れると考えます。でも、たとえ3000円のものを2500円にしても、消費者からすれば同じ商品でなければ安売りが買う動機づけにはならないのです。その点ギフトなら予算に合わせて購入するケースがほとんどなので、3000円に相当する商品をつくって売ればいい。そういう意味からもギフトに絞り込もうと考えました」と小澤さんは説明する。こうして徹底的に中小事業者の目線に立ったネットショップを構築。昨年9月に参加第1号店がプレオープンしてから、徐々にその数を増やし、すでに成果の表れている店がいくつも出ている。

例えば、落花生製造販売の石井商店などもその一つ。同店は小澤さんのアドバイスをもとに、千葉県産の半立という高級落花生を、従来の機械剥きではなく、あえて手剥きにして商品化した。その方が渋皮も破れず、価値が上がるからだ。試しに店頭に並べてみたところ大人気で、わざわざ「手剥き落花生」を目当てに買いに来る客が増えた。機械剥きが535円(130g)なのに対し、手剥きは630円(120g)と割高だが、二つ並べても高い方が売れるという現実に、店主の「安くなければ売れない」という思い込みは払拭され、日々手剥きに精を出している。もちろん、ネットショップでの商品の売れ行きも好調だ。

地域産品が売れるポータルサイトへ

現在、「おもてなしギフトショップ」に参加する商工会議所は全部で30、出店する事業者は39となった。さらにその数を増やすべく、小澤さんと工藤さんは全国に赴き、セミナーなどの場を通じて同ショップへの参加を呼び掛けている。商工会議所の参加数が50になったら、正式にプレスリリースをして、大々的にプロモーションを開始する予定だ。

「それぞれ考えがあるとは思いますが、『おもてなしギフトショップ』に参加すると、各商工会議所専用のページを作成してリンクを貼り、地域の参加事業者と商品がひと目で分かるようにします。そのページは地域の特徴をアピールする絶好の場になるのではないでしょうか」と工藤さんは商工会議所が参加するメリットを話す。

小澤さんも、「当社にとっては、他のショッピングサイトでは扱っていない商品をどれだけ扱っているかが、強みになります。そういう意味で、商工会議所と連携しなければ、「ヤフー・ショッピング」にこだわりの落花生屋さんやしらす屋さんなどが登場することはなかったでしょう。すでに『おもてなしギフトショップ』の出店者には百貨店などが注目しており、今後新たなビジネスの展開も予想されます。こうしてみると、この取り組みは出店者、商工会議所、当社それぞれにとってWIN-WIN-WINの関係にあるといっていいのではないでしょうか」と自信をのぞかせる。

ネットショップをここまで育てるには、さまざまな取り組みを重ねては、思いが伝わらず、効果も上がらないというトライ&エラーの道のりがあった。そこから得たことは、インターネットのビジネス活用にはノウハウが必要ということだ。

「消費者に見てもらうだけなら、商工会議所がやっているネットショップというネームバリューだけでいいかもしれませんが、実際に買ってもらおうとするなら、素人のノウハウでは通用しません。これは当所が以前『お買い物屋さん.com』というネットショップを立ち上げて苦労した経験があるのでよく分かるんです。でも、『おもてなしギフト』にはヤフーが小澤さんというプロをつけて協力してくれており、さまざまなサポートが得られます。この機会に興味を持ってもらえればうれしいですね」と工藤さんは笑顔で話す。

まだ動き始めたばかりのネットショップだが、今後参加する商工会議所や出店数が増えていけば、とてつもなく大きなギフト専門ショッピングモールに成長するかもしれない。そうなれば商工会議所という信頼のブランドのもと、出店者は全国に向けて販路を開拓したり、商工会議所は広く地域産品をアピールするポータルサイトとして活用することもできる。「おもてなしギフトショップ」は、大いなる可能性を秘めているといっても過言ではないだろう。

URL=http://store.shopping.yahoo.co.jp/omotenashigift/

北欧デザインで復活した萩の竹

TAKE Create Hagi 山口県萩市

精密な曲げの技術で製作された「SEE Shelf」。複数個連結させて使うこともできる

山口県萩市の竹とフィンランドのデザイナー︱︱この意外な連携から、竹を曲げる高度な技術を駆使した高級家具が生まれた。萩市は古くから竹の産地。現在でも高級和すだれなどで活用されているが総需要は激減してしまった。そんな忘れられた存在だった竹が、再び注目を浴びた。

萩が生き残るために地場産業の復活に賭ける

平成13年、萩商工会議所会頭に就任した刀禰勇さんは当時、地方分権一括法が施行されたことで「広域合併が進み、地域間競争が激しくなる」と危惧していた。政府は地方分権を推進するため、自治体に自主的な「平成の大合併」を促し、11年4月時点で3229あった市町村は22年3月末には1730にまで減った。

「萩市が生き残るためには地域資源を生かした地場産業を興し、他地域との差別化を図らなければならない」。そう考えた刀禰さんは竹復活の可能性に賭けた。

山口県は鹿児島、大分に次いで全国で3番目(19年時点)に竹林面積が広く、良質な竹が大量に採れる。しかし当時、竹関連産業は廃れてしまっていた。そのため、放置された竹林は荒れ、竹の地下茎が伸びて森を侵食するようになってしまった。

刀禰さんは就任早々「萩の竹を使った新しい産業を興す」というビジョンを打ち出し、14年、商工会議所が中心となった「萩の竹ブランド化推進協議会」を発足させた。同協議会は竹の可能性を探るため萩市、山口県立大学、山口県産業技術センターなどと連携して商品開発を進めた。竹工芸品や竹細工、竹炭のようなアイデアも出たが、「私たちの生活様式が和から洋へ転換しているので、昔の製品を復活させるつもりはありませんでした。現代の生活にあった製品がつくれないかということを常に考えていました」と刀禰さんは振り返る。  

世界を見据えフィンランドと連携

そこで交流のあったフィンランドのデザイナーに竹を送って竹製品のデザインや試作を依頼した。

「フィンランドのデザイナーと連携したのは、当初から世界市場に出ることを目標に据えていたからです。寒い北欧にはモウソウチク(孟宗竹)のような太い竹がないので、現地のデザイナーがどう料理して形にするのか、楽しみでした」

16年になり追い風が吹いた。中小企業庁が創設した「JAPANブランド育成支援事業」に申請したプロジェクト「竹が創る21世紀『竹 meets フィンランドデザイン』」が採択されたのだ。プロジェクトの趣旨は「萩地域の豊富な竹を資源とし、環境デザインの先進国であるフィンランドのデザイナーなどと連携し、竹繊維のファッション、竹素材のインテリア用品・テーブルウエア、竹製の家具・寝具など、新しい竹プロダクツの創作および竹空間の創出により、竹のない北欧圏を中心に新市場の開拓を目指す」というもの。この採択で2500万円の支援を受けることができ、本格的な試作品の製作がスタートした。

17年8月にはフィンランドのヘルシンキで「『竹』INSPIRED BY BAMBOO」展を開催。現地の有名家具メーカーのアルテック社が興味を示し、事業化交渉が始まった。

事業化のめどがついたことで、家具製造販売の新会社設立に向けて会員事業所へ事業参画の案内をした。事業説明会も2回開催。14人が参画し、18年に「TAKE Create Hagi」が設立された。翌年には工場が稼働し、この新事業により25人の新規雇用が生まれた。また、モウソウチクを納入する森林組合も安定した販売先を確保できることとなり、荒れた竹林が資源の宝庫に生まれ変わった。そして、竹林が利用されるようになったことで、森林が竹の地下茎によって侵食されることも少なくなった。

独自の曲げ技術を開発

現在では、各種作業が整然と行われている。工程を見てみると、3〜5年程度経過して十分に育った竹を天日干しして乾燥させる。そして、防虫処理を施し、厚さ2㎜程度のシート状にして何層にも張り合わせた素材を、アルミと木材でつくったオリジナルの木枠にはめこむ。こうした作業では、特注の高周波曲面成形プレス機で200tの圧力をかけたり、NCルータで1000分の1単位の精度でパーツを切断して家具の部品をつくっていく。

順調に事業化が進んだように見えるが「何も無いところから竹を曲げる技術をつくり上げるには1年半くらいかかりました」と工場長の木村隆則さんは振り返る。

「フィンランドのデザイナーから届いた家具の図面は合理的でよく考えられていましたが、竹の性質までは考慮されていなかった。そのため加工が難しい部分もありました。それでも何とか対応しようと試行錯誤を繰り返しながら正確な曲げ技術や立体的な加工技術を確立していきました」

工場稼働から7年が経過した今、竹を加工するノウハウは十分に蓄積できた。「どんな難しい注文でも1度の試作でつくれるようになりました。外部の方が見ると竹にプレスをかけて曲げているだけに見えるでしょうが、すべての工程に細かいノウハウがたくさん詰まっています」(木村さん)。

部材への活用で飛躍を目指す

TAKE Create Hagiの売上は25年度に2億円に達した。販路は国内にとどまらず、当初の目標どおり欧米に広がっている。

「ただ高級家具の製造販売だけでは、これより大きく伸びることは難しい。そこで今後は、他社の製品の一部分に使ってもらえるような部材の開発と販売に力を入れていきます」(刀禰さん)

竹素材独特の質感と、高級家具らしい精緻な仕上がり、高度な曲げの技術が評価されて、大手メーカーから新幹線や自動車の内装に使いたいという大口の引き合いが来ているという。契約がまとまれば新工場建設が必要となり、新たな雇用も生まれる。

フィンランドのデザインと萩の竹という素材、そして萩の技術者の連携により生まれた萩市の新しい産業は、部材という方向に向かって、これからも竹のようにすくすくと伸びようとしている。

会社データ

社名 TAKE Create Hagi 株式会社

住所 山口県萩市大字江向451番地

電話 0838-22-0058

代表者 刀禰 勇 運営統括責任者

従業員 25人

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