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テーマ別企業事例 特集1 復興に民間の力を

126万会員企業を代表して被災地へ

東日本大震災で被災した自治体は、現在でも恒常的な人手不足に悩んでいる。大震災からの復旧・復興を一層円滑に進めるためには、幅広い職種での人材の確保が必要だ。政府はこの状況を緩和するため、民間企業の社員をこれら被災地の自治体に派遣する復興人材プラットフォーム事業を進めている。日本商工会議所では、政府からの協力要請を踏まえ、各地商工会議所会員企業の社員を復興庁、被災地などに派遣している。また、この事業は派遣先だけでなく、派遣元の企業にとっても自社の社員が復興業務を通じて成長するなどのメリットも大きいという。今回は、最前線で復興業務に取り組む商工会議所会員企業社員の活躍を紹介する。

問題が起きたら迅速に対応したい

株式会社IHI(東京商工会議所会員) 恒岡 聡さん(派遣先=復興庁)

「国の政策決定に間接的にでも携われることは良い経験です」と恒岡聡さん

IHIから復興庁へ昨年6月から出向している恒岡聡さんは鋼製橋梁の設計部門をはじめ、調達や生産管理業務などを経験した土木工学のエンジニア。現在は政策調査官としてインフラ構築班に所属し、「住宅再建・復興まちづくり」を担当している。IHIにおける工程管理などの経験を生かしながら日常は「住宅再建・復興まちづくり」の加速化のためのタスクフォースの会議資料のとりまとめや人員・資材不足に対応する復興庁側の窓口として活躍している。

「最初に被災地に入ったのは昨年9月のことです。宮城県南部の名取市、岩沼市周辺を中心に見て回りました。震災から2年が経過していたので、がれきは撤去されていましたが、想像以上に何もない広大な土地が広がっていました。あらためて被災した方々の無念を感じるとともに、復興は大変な作業になると覚悟しました」

官庁へ派遣されると決まったとき、仕事の進め方に大きな違いがあるのではないかと危惧したという。しかしそれは杞憂だった。

「業務にはPDCAサイクル(管理業務を円滑に進める手法)の考え方が採用されていて入りやすかったです。また復興庁は大臣までの距離が近く、意思決定のスピードが速いという点にも驚かされました。そして自分の仕事が復興に貢献していると実感できるところにもやりがいを感じますね」

そんな恒岡さんの上司である参事官の笹森秀樹さんは「役所は物事を決めることが難しい組織ですが、彼は率直に意見を述べて意思決定に参加するとともに、綿密な情報共有を図ってくれています。組織の中でも物おじせずに横にずばっと走って決めてきてくれるのはありがたい」と評価、「この仕事は社会貢献になることはもちろん、複雑な交渉術も身に付けることができる。その経験は会社に戻ったときに役立つはずです」とアドバイスする。

復興のステージは現在、「住宅再建・復興まちづくりの計画策定」から「工事着工の段階」へ進んでいる。恒岡さんは「復興が停滞しないように問題が起こったときはすぐに会議を開いて対策を打ちたい。微力ながら全力で復興に尽くします」と気を引き締めている。

行政マンにない考え方で海のまちの復興に貢献

名港海運株式会社(名古屋商工会議所会員) 増子 久志さん(派遣先=石巻市)

「増子さんは周りにいい刺激を与えてくれています」と語る吉本貴徳課長

名港海運で国際航空物流の最前線で働いていた増子久志さんは、昨年11月から宮城県石巻市役所に駐在している。現在の担当業務は、企業誘致、新産業の育成、創業支援などだ。「名港海運での業務知識がそのまま生かせる、ということではありませんが、物流会社でたくさんの企業を見てきたことはここでも役に立っていると思います」。

駐在先の産業部産業推進課長の吉本貴徳さんは、「市の業務の関係もあり、現在の担当業務は増子さんの専門性を直接生かせるという仕事ではありません。でも、彼にはわれわれにはない民間の感覚があります。周りにもいい刺激を与えてもらっています」と語る。

石巻の現状については「震災から3年半が経過しましたので、必要とされる支援は変わってきています。今は復興の準備がようやく整い、これから自立に向けた取り組みを模索している段階です」と増子さんは語る。「実際、復興事業に関しては、これからが最盛期です。正直まだ人は足りていない状況ですので、人材の支援はまだまだ必要ですね」。

企業に関しては、生産に関する施設などはかなり回復してきているという。しかし、震災後に失われて、まだ回復していないものがある。それは「販路」だ。

「モノはつくれるけれども、売る先がないという状況です。何十年もかけて築き上げてきたものが、出荷できなかった間に無くなってしまったわけです。販売先の企業も被災地の企業が出荷できない間は、他の地域から仕入れていました。つくれるようになったからすぐに元に戻すというわけにもいきませんよね」(吉本課長)

石巻市での仕事に関して増子さんは、「被災地の現状はマイナスをゼロに戻す段階です。でも、空いた穴に詰め物をして、ただ単に元に戻すのでは駄目だと思います。より良い状況をつくり出すために力を尽くしたいですね。その過程で企業出身者である私の力を生かせればと思います」と力を込める。

吉本課長によると、今後は増子さんの専門性をより生かせる業務も検討しているという。増子さんは、「私の所属している名港海運は、海を使って商売をしている会社です。その一方で津波によって傷つき、復興途上のまちがある、少しでも力になりたいと思ったことが、この派遣に志願したきっかけです。海との付き合い方について自分なりの答えを復興支援のお手伝いをしていく中で、見つけていきたいと思っています」と力強く話してくれた。今後の増子さんのさらなる活躍に期待したい。

専門知識を生かし鉄道会社と折衝

京阪電気鉄道株式会社(大阪商工会議所会員) 高橋 正浩さん 畠中 憲一郎さん(派遣先=宮古市)

三陸鉄道の北リアス線と南リアス線をつなぐJR山田線の宮古―釜石間はまだ復旧できていない

「高橋さん、畠中さんは自治体に欠けている鉄道に関する専門知識を持っています。JRとの協議が円滑に進むよう、力を貸していただけたらと思います」と宮古市の都市整備部都市計画課の中村晃課長は期待を込めて話す。

岩手県宮古市では、公共施設をJR宮古駅南側に集約するなどの中心市街地地区津波復興拠点整備事業や、JR山田線の宮古―釜石間の復旧に関係した法の脇地区の土地利用計画策定調査事業を実施している。これらの事業においては、鉄道会社との協議が必要になるため、その道の専門知識が必要になるという。

その専門性を必要とする業務を現在担当しているのが、京阪電気鉄道から派遣されている高橋正浩さんと畠中憲一郎さんだ。二人はともに、京阪電鉄で土木に関する業務を担当したことがあり、経験・知識ともに豊富だ。中村課長は「専門知識を持った人がいてくれるのは大変心強いですね」と笑顔を見せる。

公共施設を移転、集約する

宮古市の現在の庁舎は、東日本大震災時に発生した津波が直撃。電気、水道、通信などのライフラインが寸断され、災害対策本部であった本庁舎が外部と遮断、また被災前の耐震診断などにより耐震補強が必要であったことなどから庁舎をJR宮古駅南側に移転させるとともに、市内に点在している公共施設を集約。中心市街地に拠点を整備する計画だ。

ただ、その土地の大部分をJRが所有していること、敷地内にある鉄道関係の施設の撤去や鉄道に近接した場所で施設の計画を行う必要があることなどから、JRとの協議が必要となる。そこでは、鉄道会社の社員でないと分からないような会話や専門用語が飛び交うこともあるという。しかし、高橋さん、畠中さんにとっては特別なことではない。

「自治体側にも専門的なことが分かる人間がいれば、協議も一方的なものにはならないと思います。自治体とJR、双方の負担が適正なものとして、早く整備できるように全力でサポートしていきたいですね」(高橋さん)

災害に負けない鉄道をつくる手助けをしたい

JR山田線の不通区間(宮古―釜石間)を復旧するという方針はJRと沿線市町の共通の思いである。しかし、津波で流された線路を元に戻しただけでは、将来大きな津波に襲われた場合、また線路ごと流されて隣接する市街地が浸水してしまう。そのため、土地をかさ上げした上で、線路を敷き直すということになっており、現在はそのための準備が進められている。畠中さんが担当する法の脇地区もそうした地区の一つだ。「地元の方もJR山田線の復旧を心から望んでおられます。これからは地元の方と話す機会も増えてくると思うので、しっかりと話を聞いた上で、津波に流されない、災害に強いものをできるだけ早くつくっていきたいですね」。

一見すると被災地は日常を取り戻したように見えるが、本当の復興はこれからが本番だ。復興の最前線で働く彼らの一層の活躍に期待したい。

復興支援に人的貢献をしていることは誇り

名港海運株式会社 人事部長 三谷 正芳さん

Q

人材派遣を決めた一番の決め手は何ですか?

A

日商を通じ、国から被災自治体への社員派遣要請があったからです。また、社員が被災地を身近に感じることができますし、社会貢献の一環にもなると考えました。

Q

社員はどのように選ばれましたか?

A

当社は名古屋港を中心にした港湾運送を生業としているので、当社のノウハウが自治体業務で十分に生かされるか不安がありました。そのため、全社員に対して公募し、応募者の「やる気」を最優先して決めました。

Q

会社として、どのように関与されていますか?

A

派遣社員には毎月レポートを提出してもらっています。内容は業務だけではなく、観光・グルメなど、多岐にわたるものです。社内グループウェアを通じて全社員に掲示しています。

Q

派遣から間もなく1年になります。人事としてはどのような期待をされていますか?

A

派遣先や復興庁からの要請もあり、派遣期間を1年延長することにしました。復興支援の経験が直接的に生かされることはすぐにはないかもしれませんが、この経験は当社に役立つものと確信しています。また、この取り組みは当社にとっても誇りですし、採用活動などにおいてもアピールポイントになると考えています。

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