事例1 「縄文文化」の世界遺産登録を目指し行政と地域の懸け橋として取り組む
函館商工会議所(北海道函館市)
2021年のユネスコの世界文化遺産登録を目指している「北海道・北東北の縄文遺跡群」の北海道側の活動拠点として、積極的に取り組んでいるのが函館商工会議所だ。今年7月に文化庁の文化審議会から推薦を得るまでの商工会議所の活動とその狙いを担当者に聞いた。
世界遺産登録に向けて地域の関心が薄かった理由
「函館は、函館山から見下ろす夜景が有名ですが、私たちが世界遺産への登録を目指している『北海道・北東北の縄文遺跡群』を構成している大船遺跡、垣ノ島遺跡から見上げる星空も素晴らしいですよ。そこには、縄文時代から変わらない星空が広がっています。それは、間違いなく新しい函館観光の目玉になると確信しています」と熱く語るのは、函館商工会議所事務局長で道南縄文推進文化協議会の事務局長も兼務している竹内正幸さんだ。
「北海道・北東北の縄文遺跡群」は、2021年7月のユネスコの世界遺産登録を目指し、政府も20年2月までに正式に推薦する方針だ。こうした流れを受け、函館駅前のビルには「函館から縄文文化を世界へ発信!」の大きな横断幕が掲げられ、市民の関心も大いに高まっている。
とはいえ、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。国内外に知られる三内丸山遺跡を抱える青森県が中心となって「北海道・北東北の縄文遺跡群」を世界遺産に登録するための推進本部が設立されたのは09年のことだったが、当時の函館市民の関心は薄かったという。「大船遺跡、垣ノ島遺跡は、04年に函館と合併した南茅部町にあり、函館市民には縄文遺跡はほとんど知られておらず関心は低いものでした。行政は申請の書類作成に忙しく、市民への周知・啓蒙活動にまで手が回らなかった面もありました」(竹内さん)。結局、13年の文化庁の文化審議会では、世界遺産の推薦を見送られてしまう。
そこで同年、遺跡群を構成する函館商工会議所、函館市亀田商工会、函館東商工会、北斗市商工会、七飯町商工会を中心に道南縄文推進文化協議会が設立された。
「このままでは、なかなか世界遺産登録への機運が高まらないため、地域の経済界が協力連携して行政の手が回らない部分をバックアップしていこう、ということです。具体的には、当所が設立に関わった『一般財団法人 道南歴史文化振興財団』が普及活動に取り組んでいます。函館市や渡島総合振興局といった行政機関と密接に連携しながら、旗振り役となって、市民の皆さんにご理解をいただき、応援していただけるよう活動しています」(竹内さん)
実は、函館地域の縄文遺跡の研究は古く、市立函館博物館の前身で明治12(1897)年に開館した日本最古の地方博物館である「開拓使函館支庁仮博物場」には、縄文時代の遺物を含めた考古資料も展示されていたという。
構成資産の大船遺跡と垣ノ島遺跡を含む市内(旧南茅部町)の南茅部遺跡群では、1963年から始まった発掘調査が現在も続いており、多くの学術的成果を上げている。2007年に発掘され、北海道唯一の国宝に指定された「中空土偶」も、その一つである。
北海道新幹線開通で東北各地との連携が進む
世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」は、国内にある過去の世界遺産とは異なり、津軽海峡を挟み広範囲に広がっているだけに、連携するにしても難しい面があった。それが一変したのが16年に新青森駅〜新函館北斗駅間で開業した北海道新幹線だった。
「縄文遺跡群の中心は、やはり三内丸山遺跡のある青森県だと思いますが、新幹線開通によって北東北各地の人的交流にも弾みがついたことは間違いありません。青森商工会議所さんとは、2年前に青函両所青年部の交流事業を通じて連携も進んでいます。世界遺産登録後の活動に関しても三内丸山遺跡を中心として、各地の構成遺産をつなぐ観光ルートの開発や、各地域の特色や魅力を生かせるように、連携しながら取り組んでいく必要があると考えています」(竹内さん)
遺跡が函館活性化の新たな核になる
函館は日本有数の観光地で年間約526万人(2018年)が訪れるが、縄文遺跡群の世界遺産登録には、地域振興や観光客誘致という面から見てどのような効果があるのだろうか。
「北海道・北東北の縄文時代と西日本の縄文時代には大きな違いがあるといわれています。西日本の縄文時代は、米作が始まる弥生時代の前の時代と位置付けられていますが、北海道・北東北の縄文時代は弥生時代を目指していなかったという点です。人々が1万年以上も平和な社会を形成し、多様な自然と共生しながら長期間の定住を実現した縄文時代は世界的にも稀有な文化とされ、高い評価を受けています。こうした遺跡や文化が現在私たちの住んでいるこの地域にあったということが大きな誇りだと思います」
また、竹内さんは、世界遺産に登録された後が、より重要になってくると考えている。
「一時的ではなく、縄文文化を持続的な観光の促進につなげていくための方策が必要です。幸い函館には、観光先進地として集積しているさまざまなノウハウがあります。これを活用し、縄文遺跡を巡る『スコーレ・ツーリズム(学び観光)』や遺跡の近くに張ったテントに泊まる『アドベンチャー・トラベル』などは、インバウンドにも十分に受け入れられると思います。まちの美しさや豊富な食材に加えて、古代の遺跡もある。観光客の多様なニーズに応えることができ、地域の皆さんにも新たな魅力に誇りを持っていただくことで、さらに活性化につながっていくのではないでしょうか」
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