わが国では、今般のコロナ禍によりデジタル化の遅れが浮き彫りになる一方、テレワークなどにより、デジタルの長所が浸透しつつある。日本経済が危機的な状況に陥る中、最優先すべきは生産性の向上であり、そのためにはデジタル化が必要である。そこで、日本商工会議所では、政府が2020年12月中にデジタル改革の基本方針を示すとしていることから、事業者にとって負担軽減となる行政のデジタル化と、コロナ禍で深刻な影響を受けている中小企業・地域のデジタル化の推進に必要な事項を盛り込んだ意見・要望を取りまとめ、政府など関係各所へ提出し、実現に向けた働き掛けを行っていく。特集では、同意見・要望の概要を紹介する。
基本的考え方
〇コロナ禍でデジタル化の遅れが浮き彫りになる一方、テレワークなどによりデジタルの長所が浸透しつつある
〇日本経済が危機的な状況の中、最優先すべきは生産性向上。そのためにデジタル化が必要である。
○国、地方公共団体は、デジタル庁を司令塔とし、「デジタル化3原則」を徹底して取り組みを推進すべき。
○社会全般のデジタル化を進めるためには、デジタル実装の遅れている中小企業と地域に対する支援が必要。
Ⅰ.行政のデジタル化の実現
【総論】
〇デジタル実装が進み、行政手続きのデジタル化が進めば、事業者にとって「手続きが一度に済む」「行政機関に出向かなくてよい」など、負担軽減効果が大きい。
〇行政のデジタル化を推進するために、阻害要因となる規制制度の改革をスピード感を持って実現すべき。
〇デジタル庁に監督権限を付与し、「デジタル手続法」に盛り込まれた「3原則」の「デジタルで完結」「再提出不要」「手続きのワンストップ化」を徹底されたい。
〇行政デジタル化実現のため、行政手続き窓口への来訪者数削減目標など結果重視のKPIを設定すべき。併せて、個別目標の達成時期を公表されたい。
1.オンライン化を促進する法人共通認証基盤の普及推進
〇事業者が、一つのID、パスワードで各種行政サービスをオンラインで利用できるGビズID(法人共通認証基盤)について、全省庁および各地方公共団体の手続きでも活用できるよう、デジタル庁が普及推進していただきたい。
〇補助金の申請・報告・請求におけるJグランツの活用を促進し、対象を国・地方公共団体の補助金全般に拡大すべき。
2.オンライン利用率向上に向けた取り組みの強化
〇国・地方公共団体の行政手続き5万5765件(2018年度)のうち、オンラインで実施できる手続きは種類数ベースで12%であり、オンラインでの手続きを原則とする取り組みを一層推進すべき。
〇「オンラインで実施できる」手続きでも、社会保険・労働保険(22%)のように低利用率にとどまるものがあり、一層の周知と利用率向上の取り組みを推進すべき。(図)
3.デジタル化3原則の具体例
〇行政手続きにおいて同じ書類を何度も提出することは事業者の負担になっているため、一度提出すれば再提出不要となるよう、デジタル化を推進すべき。
(例)ベンチャーなどの法人設立の必要な手続きにおいて、複数の行政庁に対して登記事項証明書を最大6回程度提出する必要がある。
〇行政手続きをデジタルで完結できるよう、国だけでなく手続きの全ての関係先のデジタル化を推進すべき。
(例)第3号被保険者関係届など、企業が年金事務所に健康保険組合の書類を提出する際、健康保険組合で書面の電子化に対応していないことから、結果的に年金事務所に提出する書面は全て紙となっている。
〇地方公共団体ごとに書式がさまざまに異なるものについては、国が簡素化・標準化し、オンライン化を推進することにより、事業者の事務負担を軽減すべき。
4.マイナンバーの機能拡充とマイナンバーカードの普及
〇大規模災害時などに、真に救済が必要な者を迅速かつ確実に支援する基盤としてマイナンバーが活用できるよう整備するとともに、運転免許証など、既存の公的身分証とのワンカード化を推進すべき。
〇マイナンバーカード受け取りは、地方公共団体窓口に限られており、受け取りにかかる個人の負担が大きいため、カードの取得促進に向けて、郵送交付など、他の方法も検討すべき。
Ⅱ.中小企業の生産性向上に資するデジタル実装の後押し
【総論】
〇中小企業のデジタル化が進まない主な原因は「コストが負担できない」「効果が分からない」「専門人材がいない」の三つである。また、セキュリティーも大きな課題である。
〇コロナ禍は中小企業の経営に深刻な影響を与えているが、他方でテレワークやECの活用に取り組む中小企業も増加しつつある。
〇政府においては、この機会を捉え、中小企業のデジタル化を一気に進めるための特段の支援策を講じるべきである。また、サプライチェーン全体の観点から中小企業のセキュリティー対策への支援も必要である。
1.デジタル人材の育成
〇中小企業のデジタル実装を図るにはデジタルの専門人材が不可欠である。「経営」と「デジタル技術」の両方に通じる外部専門家の確保、および専門家と協働できる社内人材の育成について支援策を講じられたい。
〇デジタル技術を持つ人材が副業として中小企業を支援できるよう、大企業に特段の働き掛けをしていただきたい。
2.生産性向上に資するデジタル活用
(1)「付加価値の向上」に向けた取り組み支援
〇市場開拓や新製品開発に資する、ECサイト構築、オンライン予約システム整備、イベントライブ配信などへの支援を拡充されたい。
〇安価で使いやすいIoT・AI・ロボットを普及させるため、体験スペース整備、導入テストなどに必要な費用を補助されたい。
(2)「効率の向上」に向けた取り組み支援
〇クラウドサービス活用推進のために、補助率の引き上げなど、IT導入補助金の要件を緩和されたい。
〇決済端末にかかる費用の軽減などにより、キャッシュレス決済のさらなる推進を支援されたい。
3.大企業による中小企業のデジタル活用支援
〇大企業と中小企業の受発注業務は、「電子化(EDI)されていても発注者ごとにシステムが異なる多画面問題」「紙・FAX・手書きにとどまっている」などの課題がある。そのため、中小企業が簡単・低コストで利用できる中小企業共通EDIについて、制度の普及、および既存EDIとの接続対応を後押しされたい。
4.セキュリティー対策
〇サイバー攻撃は、当該企業のみならず、サプライチェーン全体に影響が及ぶ危険性があるため、中小企業のセキュリティー対策を支援されたい。
Ⅲ.地域の活力を引き出すデジタル活用支援
【総論】
〇コロナ禍を契機として「テレワーク」が急速に普及し、都市圏から地方への移住や、一時滞在型のワーケーションなど、「場所を選ばない働き方」への関心が高まっている。
〇全国の商工会議所は、コロナ禍を契機に、経営相談のオンライン化をはじめ、既存事業におけるデジタル活用の取り組みを始めており、これらを支援していただきたい。
1.地方移住や地方への企業誘致に資するテレワーク、ワーケーションなどの取り組みに対する支援
〇テレワークは、地方や中小企業においては、大都市圏の企業ほど普及していない。しかし、地方においてテレワークが可能となれば、大都市からの移住増加や企業の移転などが進展すると考えられる。地方におけるデジタル技術の利用環境の整備、またテレワークの普及に必要な就業規則ガイドラインの整備などについて政府の後押しが必要である。
〇また、ワーケーションは、地方において都会での仕事と余暇の両方を達成する試みであり、企業にとっても地方にとっても大きなメリットがある。他方、ワーケーションもまたテレワーク同様、地方におけるデジタル環境の整備が課題であり、各地におけるワーケーション事業のPRなども必要であって、こうした課題について政府の後押しが必要である。
〇先般成立したスーパーシティ法の構想について全国に広く情報提供し、同構想により、多くの地方や企業が参加するよう支援されたい。
2.コロナ禍での各地商工会議所の取り組みに対する支援
〇新型コロナウイルス感染症が拡大する中で、全国515の商工会議所はデジタルを活用してコロナ禍を克服するために、さまざまな事業に取り組んでいる。しかし、会員企業のすう勢的減少など、地方経済は疲弊しており、人材や資金の面での制約は大きく、このため国からの後押しが必要である。
最新号を紙面で読める!