発災から10年を迎えた東日本大震災。この10年、被災地の復旧・復興、福島の再生に向けて全国の商工会議所は、そのネットワークを活用してさまざまな取り組みを実施してきた。これまでの年を振り返りつつ、未来に向けた日本商工会議所の三村明夫会頭のメッセージを紹介する。
東日本大震災の発災から10年の節目を迎えました。
10年前の3月11日に起きた地震と津波は、建物などの物質的な被害のみならず人々の暮らしと心に大きな爪痕を残しました。被災地の皆さまは、この10年間、幾多の苦難に立ち向かいながら長い道のりを歩まれ、それを後押しするため、国を挙げた復興の取り組みが続けられました。そうした努力により、土地や住宅といった生活の土台、道路や港湾などインフラの整備に加え、事業再開や暮らしの立て直しは着実に進んだと伺っております。
しかしながら、沿岸部地域では、原魚(げんぎょ)の不漁などにより、再建した水産加工工場を稼働させられず経営難に陥っているといった問題が以前から指摘され、その改善が進んでいないとも聞いております。また近年は、各地で大規模自然災害が頻発し、さらに新型コロナウイルスの感染拡大など、次々に変化する厳しい事業環境下での経営を強いられておられます。
そのような中で、東日本大震災の復興を進める国の司令塔である復興庁が10年間延長され、「復興の総仕上げ」とともに、原子力災害地域の「本格的な復興・再生」に向けた取り組みの再スタートが切られることになっております。
「総仕上げ」の一つは、交通インフラの整備です。道路をはじめとする交通ネットワークの整備が完遂され、人やモノの流れが、より短時間で円滑に進むようになれば、民間の事業や地域活性化計画などが相乗的に効果を上げるものと思います。一方、「総仕上げ」に向けて積み残された課題も少なくありません。例えば、失われた販路およびインバウンドも含めた交流人口の回復・拡大です。現下の状況ではゴールを設定しにくい課題ではありますが、だからこそ、これまで以上にきめ細かい事業者支援を継続的に行っていく必要があります。
また、特に、販路拡大にブレーキとなっているのは風評問題です。科学的な安全は確保されているにもかかわらず、農林水産物や食品に関する風評の影響がまだ国内外に残っています。安心感醸成に向けた情報対策を一層強化するとともに、海外における輸入規制に関し、粘り強くかつ強力な外交努力を求めたいと思います。
そうした「総仕上げ」とは時間軸が少し異なりますが、復興の大きな壁と言ってもいい、原発事故の終息という課題があります。これについては、数十年を要する大プロジェクトである廃炉の着実な実施が不可欠であり、その前提ともなる核廃棄物の中間貯蔵施設の整備が急がれます。
また、目の前には、現在も発生し続けている処理水の処分問題があります。処理水は早期かつ慎重に、適切な処分が求められます。科学的な「安全」の立証・確保を前提に進めなければなりませんが、どうしても残る、人々の「安心感」に対するケアをどうするかが、何より大切です。
同時に、処分に伴い生じるであろう風評の影響を、最小限にとどめるための対策が不可欠です。影響を受ける事業者などへの経済的な補償スキームや事業継続支援などについて、あらかじめ国が明確に示して対応する必要があると思います。既存の原子力損害賠償についても、方法論などに一部不満の声があると伺っており、国の強い指導力と丁寧な対応の必要性を強く感じます。
以上のように課題が山積している一方で、東北に光をもたらすプロジェクトとして、先端技術に関する研究施設の集積などが進められているという明るい話題もあります。「福島イノベーション・コースト構想」を中心に、ドローンやロボット技術の高度化、あるいは水素を含む次世代エネルギーなどに関する実証実験などが順次始まっていると伺っております。関係する企業や人の動きが活発化することなどを通じて、地域経済の再活性化が図られることを大いに期待しております。
この春から、東日本大震災の「第2期復興・創生期間」が幕開けとなります。また3月下旬には、今夏の復興五輪に向けた聖火リレーが福島の沿岸部を出発し、〝復興の火〟が全国を回ります。東北の復興を内外にアピールする機会になるとともに、さまざまな困難を乗り越えようと頑張る人々を大いに勇気づけるものと確信いたします。
日本商工会議所では、今後も東北復興、福島再生に向けて共に歩んでまいりたいと存じます。
最新号を紙面で読める!