日本商工会議所は15日、「最低賃金に関する要望~コロナ禍の厳しい情勢を踏まえ、『現行水準の維持』を~」を決議、機関決定するとともに、全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会との中小企業3団体連名による要望書を取りまとめ、その実現に向け、3団体長による共同記者会見を東京商工会議所で開いた。記者会見で日商の三村明夫会頭は、事業の存続と雇用の維持が最優先という認識を示し、危機的な経済状況にある今年度の最低賃金について、「現行水準を維持すべき」と強調した。3団体では、今後、政府など関係各方面に要望の実現を強力に働き掛ける。
共同記者会見には、日商の三村会頭のほか、全国商工会連合会の森義久会長、全国中小企業団体中央会の平栄三副会長も同席。それぞれの会員中小企業から寄せられている厳しい声を踏まえ、最低賃金の現状維持を強く求めている。
会見の冒頭に、日商の塚本隆史労働委員長が3団体による要望内容を説明。菅義偉首相が3月の経済財政諮問会議で、「最低賃金をより早期に全国平均1000円とすることを目指す」との方針を示したことに触れ、現下の危機的な経済情勢や賃上げの実態を反映した新たな政府方針の設定が必要であるとの考えを示した。また、今年度は、現行水準を維持すること、賃上げの前提となる生産性向上や取引適正化への支援などにより中小企業が自発的に賃上げできる環境を整備することなどの要望内容の実現を訴えた。
会見で、日商の三村会頭は、「日商の調査では、現在の最低賃金額が『負担になっている』と回答した中小企業は55%に上る」と指摘。「特に、コロナ禍で深刻な影響が出ている宿泊・飲食業に至っては82%が負担に感じている」と述べ、「最低賃金は労働者の最低限の生活を保障するセーフティーネットであり、赤字企業にも強制力があるため、明確な根拠を下に納得感のある水準の設定が必要」と強調した。
また、三村会頭は、これまでの最低賃金の決定プロセスについて、GDPや中小企業の賃上げ状況を上回る引き上げが行われた2016年から19年の例に触れ、「政府の方針に引っ張られて最賃は約3%ずつ引き上げられた。政府方針が中央最低賃金審議会や地方の審議会の議論を決定付けたことに強い危機感を持っている」と指摘。「われわれは水準をネゴしているわけではない。政府には、雇用の維持の方向で議論が進むようサポートしてほしい」と述べた。
日商・東商が共同でまとめた要望では、今年度の審議に対する要望として、「危機的な経済情勢を反映した新たな政府方針の設定」「コロナ禍の危機的な経済情勢を踏まえた現行水準の維持」「地域の経済実態に基づいたランク制の堅持」「各種支援策の強化・拡充」「改定後の最低賃金に対応するための十分な準備期間の確保」「特定最低賃金の廃止に向けた検討」の6点を提示した。
最低賃金に関する主な論調については、引き上げのメリットとして、「生産性が向上」「経済の好循環の拡大に寄与」「全国一元化は地方創生につながる」「雇用情勢に影響がない」などの誤った見方があることを指摘。問題点を分かりやすく解説した見解を示し、理解を広めることにしている。
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