第1部 中小企業・小規模事業者の動向
総論① 新型コロナウイルス感染症流行の影響
・感染症流行で、多くの中小企業が引き続き厳しい状況にある。
・倒産件数は低水準となっており、金融支援の拡大や持続化給付金などおおむね各種支援策が功を奏しているとみられるが、感染症の影響に引き続き留意することが必要。
総論②③ 感染症流行による事業環境変化への対応
・感染症流行下においても、事業環境の変化に合わせ、新製品の開発や新事業分野への進出など柔軟な対応ができている企業ほど回復が早い。
・今回の変化を転機と捉え、顧客のニーズや自社の強みに着目し、事業を見直すことも重要。
・特に感染症流行の影響を受けた対面サービス関連企業においても、事業見直しの動きがある。
第2部 <テーマ別分析>危機を乗り越える力
1―①②③ 中小企業の財務基盤と感染症の影響を踏まえた経営戦略
・中小企業の財務状況は、自己資本比率は高まりつつある一方、損益分岐点比率が高いため感染症流行のような売上高の急激な変化に弱い。
・感染症流行の影響を踏まえ、まずは自らの財務状況を把握することが必要。財務指標に基づいた経営分析は、財務基盤を含む経営戦略の基礎となる。
・財務状況も踏まえ、今後どのような経営戦略を立てていくかが重要。特に、ビジョンを明確にした経営計画を立て、日ごろから事業環境の変化に合わせた見直しを行っていくことが必要。
・また、事業環境が複雑化する中では、自社のみならず外部の経営資源を活用することも重要。
・中小企業の成長には、海外進出による需要獲得や、環境分野など新たな需要の獲得も重要。
・中小企業においても環境分野への進出意欲は高い。また、感染症流行下において海外需要を獲得するためにはECの利用も有効であり、中小企業においてもECの利用意欲が高まっている。
2―①② 事業継続力と競争力を高めるデジタル化
・感染症流行により、中小企業のデジタル化に対する意識が高まった。働き方改革や効率化の取り組みに加え、テレワークの推進など事業継続力強化の観点でデジタル化に取り組む企業が多く存在。
・他方、デジタル化推進に向けては、アナログな文化・価値観の定着といった組織的な課題や明確な目的・目標が定まっていないといった事業方針上の課題がある。
・中小企業のデジタル化推進に向けては、デジタル化に積極的に取り組む組織文化の醸成や業務プロセスの見直しなど、企業自身の組織改革が必要。
・その際には、経営者が積極的に関与することによって、企業全体のデジタル化に向けた方針を示し、全社的に推進することでより大きな成果を生み出すことができる可能性がある。
3―①② 事業承継を通した企業の成長・発展とM&Aによる経営資源の有効活用
・経営者の高齢化の進展などに加え、感染症の影響もあり、2020年の廃業件数は過去最多。一方、その中には高い利益を生み出す企業も存在。こうした企業の経営資源を生かしていくことが重要。
・事業承継後に販路開拓や経営理念の再構築など新たな取り組みにチャレンジする企業が多く、「新たな日常への対応」を含め企業の成長・発展を促していくためにも事業承継を推進することは重要。
・事業承継策の一つであるM&Aに対するイメージは向上し、件数は増加。売買双方が事業規模拡大を主な目的としている一方、売り手側は雇用維持を目的としている割合が最も高い。
・M&A実施後は多くのケースにおいて譲渡企業の従業員の雇用は維持されており、M&Aは売り手側にとってもメリットがある。
4―①②③ 消費者の意識変化と小規模事業者の底力
・感染症流行により消費者の意識・行動は変化し、地元での消費やオンラインショッピングの利用などが増加。小規模事業者の顧客との関係づくりもオンラインツールを活用した取り組みが増加。
・こうした変化を転機と捉え新たな需要を獲得する地域の小規模な事業者も存在。
・日頃から地域とのつながりを大事にしている小規模事業者は感染症流行下でも地域とのつながりに支えられ、売り上げの維持にもつながっている。
・また、近年の動向としてSDGs(持続可能な開発目標)の重要性の認識も広まりつつある。SDGsの取り組みは持続可能な地域づくりにも関係しており、小規模事業者の持続的な発展にとっても重要な取り組みと捉えられている。
・商工会・商工会議所の利用頻度は増加しており、感染症流行による事業環境の変化の中において、商工会や商工会議所による支援も重要であったことが示唆される。
・テイクアウト・デリバリーの実施やECの導入支援など、事業環境の変化に合わせた支援も実施しており、小規模事業者からの期待は一層高まっている。
今後の中小企業政策の方向性
・感染症流行の影響により大きく変化する事業環境に合わせて、将来に向けた経営戦略を立案し事業を見直していくことは中小企業共通の課題。
・それぞれの中小企業が目指す方向性に合わせたきめ細かな支援とともに、取引の適正化や事業継続力強化など共通基盤の整備を進める。
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