ビジネスの現場では、アフターコロナを見据えた新たな取り組みが始まっている。その前提として、職場を清潔・安心・安全な環境に保ち、社員や顧客の信頼を得ることが欠かせない。果たして、これまで行ってきた社内の清掃や新型コロナウイルス感染予防対策は適切だったのだろうか。レリック社長で一般社団法人日本特殊清掃隊の理事を務める神野敏幸さんに、職場の正しい除菌・掃除のコツを伺った。
事例1 見えないウイルスや雑菌などの除菌には、「一方向」を意識するという基本法則がある
レリック(愛知県東海市)
遺品整理、相続支援整理、特殊清掃などの専門業者として2013年に設立したレリック。その経験と実績が評価されて、昨年3月、ダイヤモンドプリンセス号の除菌作業に参加した。以降、さまざまな機関や企業からの依頼を受けて除菌・掃除を請け負っているほか、そのノウハウを広める活動も展開している。
ダイヤモンドプリンセス号の除菌方法に則って作業を実践
昨年来のコロナ禍により、多くの企業が職場の除菌や清掃に注意を払ってきたことだろう。しかし、ウイルスや雑菌は目に見えないだけに、過信するのは禁物だ。
「良かれと思って日ごろやっていた方法が、そもそも間違っていたり、逆効果だったりするケースが少なくありません」と話すのは、レリック社長の神野敏幸さんだ。
同社は、遺品や空き家の整理、孤独死や事件・事故後の部屋の原状回復、消臭などの特殊清掃を専門に扱ってきた会社だ。その実績とノウハウが買われて、昨年3月にダイヤモンドプリンセス号の除菌作業に携わったのを機に、学校や行政機関、病院やホテル、飲食店など幅広い業種から除菌・掃除の依頼が舞い込むようになり、現在ではそのノウハウを教えるセミナーや講演なども行っている。
同社が普段実践している除菌・掃除術は、世界保健機関(WHO)、米国疾病予防管理センター(CDC)、厚生労働省の3機関が定めた指針にダイヤモンドプリンセス号の除菌作業とこれまでのノウハウを融合させたやり方だ。まずは、オゾンガスを空気中に噴霧してウイルスを不活化させる。次に、除菌効果のある薬剤の入った液体を布巾に染み込ませ、物を一方向に拭き上げていくというものだ。
「一方向というのが鉄則です。例えば、食後にテーブルを拭くときなど、布巾を左右に往復させますが、これだとせっかく拭き取ったウイルスを、また広げてしまいます。念入りにやったつもりが、むしろ逆効果というわけです」
精密機器など薬剤によるダメージが懸念されるものは、それに応じた方法を用いるが、基本はウイルスを拭き取っていくことだ。これにより悪い菌は限りなくゼロに近くなるが、人間の体に必要な善玉菌もなくなってしまうため、最後に善玉菌を含む液体を空気中に噴霧して完了となる。
「コロナ禍で、ウイルス除菌を請け負う業者が急増しています。当社の基本料金は1㎡3000円ですが、業者の中には1㎡200~300円というところもあります。安いところがしっかり除菌できていないとは一概に言えませんが、当社はダイヤモンドプリンセス号の除菌を行った実績と安心があるので、リピートを希望するところも多く、お客さまには満足していただいています」
ニーズの高まりを受けて「感染予防マニュアル」を開発
同社はかねてより、特殊清掃を扱う同業者とともに「日本特殊清掃隊」という団体を立ち上げ、情報共有しながら技術力の向上を図ってきた。しかし、核家族化が進んで遺品や家財整理ができない人が増えるにつれ、新規参入業者も増えている。国家資格もいらないため、業界全体の技術力や料金体系にばらつきが生じ始めていた。
「お客さまが安心して業者を選べるように基準をつくり、正しい情報を発信することを目的とした有志の集まりです。ダイヤモンドプリンセス号の除菌作業に携わった民間業者10社のうち、8社はうちのメンバーです。その後、雑誌やテレビの取材申し込みが全国から来るようになったため、業界団体として昨年4月に法人化しました」
同法人は、ウイルス除菌へのニーズの高まりや、実際に除菌に携わった現場の多くが間違った方法を行っていた実態を受けて、正しい除菌・掃除の方法をまとめたスマートフォン用アプリ「感染予防マニュアル」を開発した。家庭向けと法人向けに分かれており、動画で分かりやすく解説されている。
「法人版は有料ですが、家庭版は無料でダウンロードできます。除菌や掃除に必要な道具、正しい除菌方法、見落としがちな場所などが分かり、職場にも応用できます。外部の業者に頼むとお金も掛かるので、例えば社員全員が家庭版をダウンロードして、清潔への意識付けや職場の掃除に生かすといいでしょう。すでにアプリを活用されている方から、『もっと早くこのアプリと出合いたかった』とありがたい言葉を頂戴しています」
従来の業務にウイルスの除菌・掃除業務や講演活動が加わり、多忙な日々を送る神野さんに、除菌・掃除の基本や業種別のポイントを教えてもらった。次ページ以降を参考に、職場の感染防止対策を改て見直し、実践してみてはいかがだろうか。
「感染予防マニュアル」のダウンロード用URL
Google Playはこちら(app storeは準備中)
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.global.ebookset.app1.kansenyobou&hl=ja&gl=JP
今日から実践! 清潔・安心・安全のための除菌・掃除術[基本編]
職場環境を清潔に保つために、特別な道具はなくても構わない。ただし、用品の取り扱いが普段の掃除とは異なってくる。そこでまずは、プロが教える正しい除菌・掃除の基本を押さえよう。
基本1 除菌・掃除に必要なもの
基本2 洗剤薄め液のつくり方
基本3 正しい拭き方
今日から実践! 清潔・安心・安全のための除菌・掃除術[職場別] 監修/レリック
場所にかかわらず除菌・掃除のやり方は基本的に同じだが、職場環境によってウイルスが付着したり、溜まりやすい場所は異なる。そこで職場に応じたチェックポイントと除菌・掃除のコツをマスターしよう。
飲食店
チェックポイント1 除菌スプレーの使い方
チェックポイント2 靴裏はウイルスが大量に付着
チェックポイント3 テーブルやイスの裏面
オフィス・工場
チェックポイント4 グローブを付けた手指を消毒
チェックポイント5 ドアノブや手すり
チェックポイント6 ほこりがあればウイルスもいる
チェックポイント7 複数の人が使用する電子機器類
会社データ
社名:株式会社レリック
所在地:愛知県東海市名和町一番割上84-4
電話:052-825-4488
HP:https://www.ihinseiri-relic.com/
代表者:神野敏幸 代表取締役
従業員:10人(パート含む)
【東海商工会議所】
※月刊石垣2021年9月号に掲載された記事です。
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