観光土産品の卸と小売りで1939年に設立された新潟交通商事。現在、食品を中心に約5000アイテムの土産物を扱う中、ダントツの人気を誇るのが「バスセンターのカレー」だ。万代シテイバスセンター構内の立ち食いそば店が提供するカレーを忠実に再現したレトルト食品だが、近年右肩上がりに売り上げを伸ばし、関連商品も続々と登場している。
県民に長年愛されてきた「バスセンターのカレー」を商品化
今や、全国各地にご当地カレーが存在する。地元の食材を使い、地域の特徴を際立たせたものが多い中、ある意味異彩を放っているのが新潟県民のソウルフードの一つ、「万代そば」のカレーライスだ。
同店は、万代シテイバスセンター構内にある立ち食いそば店だ。食券を買って注文すると、ものの数秒で出てきたのは、皿いっぱいに盛られた真っ黄色のカレールウに真っ赤な福神漬けが添えられた、どこか懐かしさを感じるカレーだ。豚骨スープをベースにつくられていて、口に入れた瞬間ほのかな甘みが広がるが、後から辛さがやってくる。一度食べたら病みつきになる味わいで、1日平均800食、土日には1000食も出るという。さらに、分量も多く、ミニ、普通、大盛りと3種類あるが、成人男性でも普通サイズで十分満腹になる。
「新潟はもともとカレーの消費量が多く、県民からは『バスセンターのカレー』と親しまれてきましたが、仕事で県外から来たビジネスマンにもファンが多いんです。材料は豚肉、タマネギ、ニンジンと特別なものは入っていないのに、なぜか無性に食べたくなる味だと言われます。遠方でなかなか店には食べに来られない人にも、手軽にこのカレーを味わってもらいたくて、レトルト化を企画した、と聞いています」と新潟交通商事社長の高橋徹さんは説明する。
長年、観光土産品の卸と小売りを営んできた同社は、ついに2006年、カレーのレトルト化に着手した。
3年超の試行錯誤の末に店の味の再現に成功
ところが思いの外、開発には苦労した。万代そば店で、過去に大手メーカーに製造を打診したところ、あっさり「無理です」と断られた経緯もあった。そこで40年来の付き合いのある協力工場に製造を依頼し、引き受けてもらったのはいいが、当時の担当者が店にレシピを聞きに行くと、「ありません」と言われてしまう。
「材料や製法は決まっていても、3人いる調理人は皆、長年身に付けたコツと勘でつくっていたんです。そこで店長にお願いしてレシピを書き出してもらい、それを協力工場に渡して試作をしたら、なんと〝ホワイトカレー〟になってしまったんです」
レシピ通りにつくっても黄色くならなかったため、協力工場の社長自ら万代そばの厨房に入り、つくり方のコツや調味料を入れるタイミングなどを覚えては、何度も何度も試作を繰り返した。そうして3年の月日を経て、ようやく店の味を再現することに成功する。
「店のカレーとレトルト用カレーの食べ比べを行ったんですが、参加した全員から味、風味、食感などがほぼ同じとお墨付きをもらいました。『これ以上おいしくすると、店のカレーが売れなくなるからやめてくれ』という冗談が飛び出すほどの出来栄えとなりました」
万代そばのカレーライスは盛りが良いことも特徴なので、レトルトも通常より多めの220gに設定。パッケージに1・5人前と表示し、09年12月にようやく発売にこぎつけた。当初はどんな店が置いてくれるのか見当がつかず、主に県内の観光施設で土産物として販売し、1カ月3000個程度の売れ行きで推移していた。
思わぬファンやSNSの口コミ効果で売れ行きが急増
動向に変化が表れたのは、17年2月のこと。全国ネットのバラエティー番組「アメトーーク!」の「カレー大好き芸人」のコーナーで「昔よく食べたカレーの味とそっくり」と絶賛されたのだ。さらにその翌月、ロックバンド・GLAYのメンバーが新潟のコンサートで、「バスセンターのカレーがうまい!」と発言し、それがファンクラブ通信で紹介された。その相乗効果で一気に全国各地より注文が急増し、月1万個以上に売り上げを伸ばした。生産をフル稼働で対応していたが、18年に「秘密のケンミンSHOW」で取り上げられた直後、取引先のネットサイトの注文数が1晩で3万個に跳ね上がり、商品搬入完了までかなりの時間を要した。
「つくればつくるだけ売れるので、他の工場を紹介してくれる人もいました。しかし、このカレーは協力工場の社長が苦労してつくってくれたものですし、多くの人の協力で完成した大切な商品ですので、他社での製造は考えられません」
この2~3年、「バスセンターのカレー」はSNSを通じた口コミの効果もあって、年間30万個以上を売り上げ、コロナ禍でも増産が続く同社の売れ筋商品となった。そうした根強い人気と「バスセンターの○○」のブランド力を生かして、関連商品を数多く世に出している。例えば、創業100年近い浪花屋製菓とコラボした「バスセンターのカレー風味柿の種」、「ばかうけ」で有名な栗山米菓とコラボした「バスセンターのカレーせんべい」、変わったところでは燕市の金属加工メーカーとつくったカレースプーンや、オリジナルプリントTシャツなどもある。いずれも土産物として人気があるそうだ。
「このコロナ禍で、来県者は大きく落ち込んでいますが、終息した暁には、1万人収容の朱鷺メッセのコンサートに訪れた人が、路線バスに乗って市内を巡り、バスセンターの万代そばでカレーを食べて、お帰りの際にはお土産をたくさん買って行ってくれたらうれしいですね」と期待を口にした。
会社データ
社名:新潟交通商事株式会社(にいがたこうつうしょうじ)
所在地:新潟県新潟市中央区幸西3-5-3
電話:025-241-7201
代表者:高橋徹 代表取締役社長
設立:1939年
従業員:71人(パート含む)
【新潟商工会議所】
※月刊石垣2021年9月号に掲載された記事です。
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