規制・制度改革 便益と費用の見える化を 日商・東商 影響評価の改善求める 2021年度規制・制度改革に関する意見(抜粋) 2021年10月21日 日本商工会議所 東京商工会議所

日本・東京商工会議所は10月21日、「2021年度規制・制度改革に関する意見」を取りまとめ、政府や関係各方面に提出した。意見書では、規制が社会経済に与える便益と費用を見える化・評価することの必要性を強調し、その定量評価を活用して、不断に規制を見直せる仕組みを構築することを要望。加えて、中小企業の生産性向上を図るための規制・制度改革や、行政手続きのデジタル化の一層の推進に関する個別事項などについても改善を強く求めている。今後、規制改革推進会議などに実現を働き掛けていく。

Ⅰ 基本的考え方

現状認識

昨年来の新型コロナウイルス感染症の影響により、経済活動のみならず、人々の意識、行動が大きく変化し、また、デジタル化の遅れ、少子高齢化、東京一極集中などの課題が改めて浮き彫りとなった。コロナ禍を乗り越え、わが国の潜在成長率を引き上げ、自律的な経済成長を実現するためには、官民が共に時代や社会環境の変化に適切に対応していくことが必要であり、規制についても同様のことが当てはまる。

もとより規制は、「社会の秩序の維持、生命の安全、環境の保全、消費者の保護などの行政目的のため、国民の権利や自由を制限し、または国民に義務を課すもの」であり、あくまで目的を達成するための「手段」である。

規制導入に当たっては、それによる経済社会の影響が想定されているはず(べき)であるが、現状を見ると、費用と便益という形での定量化が必ずしも進んでおらず、その定量評価を基にしたチェック・審査も行われているとは言い難い。

また、規制導入後の時代の変化に合わなくなった規制が放置されれば、ビジネス・事業の非効率や暮らしにマイナスの影響がもたらされかねない。そうした状況を踏まえて、以下のとおり意見する。

意見のポイント

規制を遵守するための費用(設備費用、行政手続きの手間など)は、国民や事業者などが負担するコストであるとの認識に立ち戻り、規制の影響の定量的評価による「見える化」を推進すべきである。

また、事後的には、そうした事前評価と時代の趨勢(すうせい)・変化を基に規制を見直す仕組みを再構築することが重要である。特に、デジタル化が急速に進展する中、変化し続ける環境や技術の発展、場合によっては政策目標も変化する状況を踏まえ、規制についても、迅速に見直し、より良い形に更新していく「アジャイル」の手法を取り入れることも必要である。

こうした取り組みは、国だけでなく地方自治体においても行われるべきであり、改めて「地方版規制改革会議」の設置促進を図られたい。

行政のデジタル化については、9月に発足したデジタル庁を司令塔とし、「デジタル化3原則」を徹底し、マイナンバーカードの普及・多面的な活用も含め、各省庁や地方自治体と連携して一層強力に推し進めることを期待する。

Ⅱ 規制の導入と見直しが連動する仕組みの再構築に向けて

1.規制導入に当たっての見える化促進

(1)事前評価制度(規制遵守費用の算出)の徹底

(2)導入規制予定の事前公表

2.規制影響評価の実施プロセスの改善

(1)事前評価の実施環境の改善

(2)「影響評価書」の活用拡大と審議会などの役割・機能の向上

3.事業規模への配慮、継続的に規制を見直す仕組みの導入

(1)事業規模が考慮されない画一的な規制などの見直し

◆画一的な規制が影響している例

(例1)建設業許可を受けた事業者が建設工事を施工する場合は、請負金額にかかわらず(建設業法における)主任技術者を現場に常駐することが定められている。そのため同時に複数の工事を行いたくとも、人材確保が難しい中小企業では受注を見送らざるを得ないことがある。規模の小さい工事はICTの活用で対応できると考えられるケースも多いが、常駐規制がネックとなっている。

◆海外における中小企業に配慮した規制の例

(例1)バイオ工学食品情報開示基準の策定に当たり、パブリックコメントを経て、零細食品製造業者(年間収益250万ドル未満)は情報開示義務を免除、中小食品製造業者(年間収益250万ドル以上1000万ドル未満)はパッケージ上にウェブサイトのアドレスあるいは電話番号を示すのみで情報開示要件を満たすとする特例措置が認められている(米国のケース)。

(例2)大豆油糧(ゆりょう)種子および飼料の登録規定を見直すに当たり、ヒアリングなどを踏まえた検討を行い、中小企業に対して、記録・報告書の作成、データのレビューといった作業を免除している(カナダのケース)。

(2)不要な規制が放置されない仕組みの導入

Ⅲ 規制・制度の見直しに関する個別意見

意見の概要

長引くコロナ禍で飲食・宿泊業をはじめ多くの事業者、地域経済が疲弊し、特に中小企業は一層厳しい状況に追い込まれている。地域の経済循環を高める地方創生、事業者の新たな挑戦やイノベーション、多様な人材の活躍を支援するための規制・制度改革を進めることが重要である。

政府が開設している「規制改革・行政改革ホットライン(縦割り110番)」に多くの声が寄せられており、こうした国民・事業者の声に迅速な対応をお願いしたい。この点、引き続き規制改革推進会議の取り組みに期待している。

また、地方や事業者からは自治体による規制についての意見も多いことから、ぜひ、「地方版規制改革会議」の設置を促進し、地域ごとの規制についての見直しや適切な運用が進むよう取り計られたい。

なお、コロナ禍に苦しむ事業者の前向きなトライアルを後押しすることにもなった「期間限定の規制緩和措置」が有効に機能したケースも多い。地域限定で規制緩和を行う特区制度や新技術などの社会実装を促進するためのサンドボックス制度に加え、期間限定の特例措置の手法も積極的に進めるべきである。

1.民間の創意工夫を生かした地方創生の推進

①公共性の高い設備の道路占用期間の緩和

・商店街アーケードなどの道路占用機関の延長

②再開発組合の総会の簡素化

・市街地再開発組合におけるバーチャルオンリー型総会の開催に向けた規制緩和

③老朽マンション建て替え決議の要件緩和

・区分所有法における老朽マンションの建て替え決議の成立要件の緩和

④スーパーシティ構想実現の強力な推進

・スーパーシティ構想の強力な推進および横展開へ向けた整備

・指定地域外における取得データの活用

2.中小企業の生産性向上、新たな挑戦とイノベーション支援

①建設業における技術者などの常駐・常勤要件の緩和

ア.営業所専任技術者の配置要件の緩和

イ.監理技術者の配置要件の緩和

ウ.主任技術者の配置要件の緩和

エ.経営管理業務責任者の常勤要件の緩和

②建設業の実務経験による各種資格要件・受験要件の見直し

ア.実務経験による主任技術者の資格要件の緩和

イ.実務経験による監理技術者の資格要件の緩和(指定学科の拡大)

ウ.1級施工管理技術検定の受験に要する実務経験の短縮

③介護サービスにおける人員配置基準の緩和

・介護サービスの人員配置基準(生活相談員、看護職員、機能訓練指導員、ケアマネージャーなど)の緩和

④運送業におけるIT点呼制度の要件緩和

・IT点呼の対応可能な事業所の要件緩和

⑤企業による農地の直接所有の要件緩和

・農業の成長産業化に向けた企業による農地の直接所有

⑥飲食店が加工食品を製造販売する際の要件緩和の徹底

・改正食品衛生法の運用の徹底

⑦公的資格の各種講習会のさらなるオンライン化の加速

・食品衛生責任者実務講習会のオンライン化の普及・促進

・消防設備士の法定講習のオンライン化

・排水設備工事責任技術者更新講習のオンライン化

⑧法人設立の際の公証人による定款認証の撤廃

3.多様な人材の活躍推進

①企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大

②労働者派遣制度に係る規制の見直し

・派遣労働者個人単位の派遣期間制度の見直し

・離職後1年以内に元の勤務先への派遣を禁止する規制の見直し

・日雇い派遣の年収要件の見直し

③障害者手帳の所持を要件とする各種制度の改善

・障害者の法定雇用率の算定対象として精神障害について精神障害者保健福祉手帳以外を認めること

・短時間労働者に関する雇用率のカウントの特例措置の維持

④年次有給休暇の取得の緩和

Ⅳ 行政手続きの見直しに関する意見

意見の概要

コロナ禍により改めて明らかになったわが国のデジタル化の遅れを取り戻すべく変革の動きを加速させるため、官民を挙げて社会全体のデジタル化を推進しなければならない。

昨年末には「デジタル・ガバメント実行計画」が改定(2020年12月20日閣議決定)され、すでに行政手続きの押印義務については全体の約97%を廃止するとともに、2025年までに行政手続きの約98%をオンライン化する方針を示している。

9月に発足したデジタル庁を中心に、デジタル化3原則(「デジタルファースト」「ワンスオンリー」「コネクテッド・ワンストップ」)を徹底し、スピード感を持って国・地方行政のデジタル化が力強く進められることを期待する。

一方で、事業者からは、「(実際の現場では)行政手続きがオンライン化されていない」「オンライン化されているが使い勝手が悪い」「ワンストップで手続きができない」などの声が寄せられている。事業者の生産性向上の妨げともなっているこのような問題について、オンラインによる円滑な手続きが進められるよう、早期の改善を図られたい。

1.デジタル化・オンライン化の推進と利便性の向上

①政府電子調達・電子契約の推進

②e-Govの改善

③マイナンバーカードの機能拡充

④警備業に関する各種申請・届け出書類のデジタル化

⑤巡回健診に係る手続きのデジタル化

⑥「中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)」「小規模企業共済」に係る手続きの負担軽減・オンライン化

2.省庁間、国・地方間などの情報連携

①公共入札の申請手続きの簡素化

②道路占用手続きプラットフォーム構築

③電子決済など代行業者の登録制度における提出内容の簡素化

④高圧ガス販売および保安の実績報告提出の簡素化

⑤障害者雇用状況報告書の簡素化

⑥指定給水装置工事事業者の申請内容の簡素化

3.事務手続きや書類の簡素・簡便化

①労働保険・社会保険の添付書類の改善

②労働者災害補償保険手続きの改善

③産業廃棄物のマニュフェスト書式の統一化

④再生可能エネルギー発電事業に係る各種申請の迅速な処理

⑤障害者雇用申告書の簡素化

⑥介護および障害福祉サービス事業者の新規指定申請の簡便化