千葉県の最東端・銚子市に本社がある銚子電気鉄道。鉄道事業の赤字を補うために食品製造販売事業をスタートし、たい焼き、ぬれ煎餅などを世に送り出してきた。経営難打開への努力は続く。2018年にスナック菓子「まずい棒」の販売を開始するや大好評。現在までに累計300万本を売り上げ、赤字削減のみならず会社の知名度アップにも貢献している。
鉄道会社なのに食品事業が全体の8割!?
食品でありながら、「まずい」を冠した商品がある。銚子電気鉄道が2018年に発売した「まずい棒」だ。サクサクした軽い食感のスナック菓子だが、味は正直、おいしい。「コーンポタージュ味」を皮切りに、チーズ味、ぬれ煎餅味……と次々にシリーズ商品を増やし、現在までに8種類の味をプロデュース。累計販売数300万本を突破するヒット商品となっている。
「ご存じとは思いますが、市場には『うまい棒』という人気のロングセラー商品があり、中身の菓子もけっこう似ています。しかし、単に奇をてらって『まずい棒』としたわけではなく、当社の経営状況が本当にまずいことにちなんで付けたネーミング。『まずい……もう1本!』とたくさん買ってほしいという思いを込めた商品です」と同社社長の竹本勝紀さんは大真面目に説明してくれた。
今では食品製造販売事業が全体の8割を占めるという同社だが、来年設立100年を迎える鉄道会社だ。銚子駅から外川駅を結ぶ全長6・4㎞のローカル線で、かつては地元住民の足として1日の利用客数は150万人を数えた。しかし、平成に入ると100万人を大きく割り込み、その後も減少の一途をたどる。それに伴い、厳しい経営状況が続き、数度にわたり廃線の危機にも直面した。その都度、奇跡の復活を遂げてきたが、その救世主となったのが食品事業だ。
その第1弾は、1976年に観音駅に設置された直営売店で販売をスタートした「たい焼き」だ。銚子漁港から水揚げされ、県のブランド水産物に認定されているキンメダイと、流行していた大ヒットソング「およげ!たいやきくん」から着想したそうだ。当時はまだたい焼きの販売店が少なかったこともあり、年間2000万円を売り上げる人気を博す。しかし、徐々に売れ行きは鈍くなっていった。
自虐的な商品名と販促手法が消費者に刺さる
「平成を迎えたころ、親会社が建設会社に変わり、各駅の改修工事や電車の塗装変更などが行われ、観光路線化が進められました。しかし、経営状況は思わしくなく、第2弾の商品として『銚子電鉄のぬれ煎餅』の販売を開始しました。前商品は甘いたい焼きだったので、次は銚子名産のしょうゆを使った煎餅にしたようです」
売れ行きはそこそこ良かったが、数年後に親会社が倒産してしまう。同社の経営も悪化していき、電車のメンテナンスもできない状況に陥った。それを打開するため、2006年、同社公式サイトに「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです。」と掲載し、商品購入と電車利用を訴えた。それが巨大掲示板「2ちゃんねる」で拡散し、「銚子電鉄を救うために『ぬれ煎餅』を買おう」という運動がネット上で展開され注文が殺到。副業の売り上げが本業を大きく上回る形で、危機を乗り切った。
ところが、東日本大震災と原発事故による風評被害で、銚子を訪れる観光客が激減し、またもや鉄道存続の危機を迎える。
「普通に考えれば、赤字部門の縮小・撤退は企業経営の鉄則です。しかし、鉄道というのは社会的な存在ですし、銚子電鉄は地元の小学生から高校生の通学の足としても機能しています。それに鉄道事業なくして、関連商品をつくっても売れません。鉄道の存続こそが当社の至上命題なんです」
応援してくれている地域住民やファンの思いを背中に受けながら、同社が18年に世に送り出したのが「まずい棒」だ。「破産(83)の日」にちなんで、あえて8月3日に開始したところ、初回製造分はあっという間に完売、好調な売れ行きを示す。その後に発売したシリーズ商品も話題を集め、9番目となる「チキンカレー味」も近日発売予定だ。ちなみに、チキンカレー味は「資金枯れ」と掛けているのだという。こうしてとことん自虐に走っているのは、話題性を狙ってのことだが、「笑えない経営状況でも、真剣にふざけて皆で笑おう」という思いが込められている。
何でもありの生存戦略で日本一のエンタメ鉄道に
同社はその後も、新たな商品開発とともにさまざまな話題を提供している。例えば、経営がサバイバルだから「鯖威張るカレー」や「銚子電鉄 再建最中(もなか・オリジナル1日乗車券付)」、グッズでは線路の石が入った缶詰、社員をキャラクターに見立てた銚電マンシールや缶バッジ、シールの入ったカプセルトイ(ガチャガチャ)、携帯電話の着信音に使える着銚電音(ちゃくちょうでんおん)などだ。
売れるものは何でも売ろうという何でもありの生存戦略を図っているが、毎年のように見舞われる台風被害や昨年来続くコロナ禍などで苦難は続いている。そこで今年は、クラウドファンディングで資金を調達し、「電車を止めるな! のろいの6・4㎞」という映画を制作した。また、銚子電鉄という会社を広く知ってもらおうと、竹本さん自らYouTuberとなって動画配信も始めた。
「当社の経営の安定化がもちろん第一ですが、電車は地域の広告塔という役割も担っています。コロナ禍で先行きは不透明ですが、持ち前の〝オヤ自虐(オヤジギャグ)〟を駆使して、日本一のエンターテインメント鉄道を目指します」
竹本さんは、厳しい経営状況を感じさせない前向きな言葉で締めくくった。
会社データ
社名:銚子電気鉄道株式会社(ちょうしでんきてつどう)
所在地:千葉県銚子市新生町2-297
電話:0479-22-0316
HP:https://www.choshi-dentetsu.jp/
代表者:竹本勝紀 代表取締役社長
設立:1922年
従業員:63人(パート含む)
【銚子商工会議所】
※月刊石垣2021年11月号に掲載された記事です。
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