真壁昭夫の経済底流を読み解く 不動産企業の破綻懸念で注目されるチャイナリスク

今年9月、中国の大手不動産デベロッパーである恒大集団(エバーグランデ)の破綻懸念が高まった。同社の債務問題は、中国の不動産企業が抱える多額の借り入れの後始末が不可避になりつつあることを示している。同社の混乱が他の企業にも波及すると、中国経済の足を引っ張ることも懸念される。中国経済の減速によって、世界経済にもマイナスの影響が及ぶだろう。それがチャイナリスクの正体といえる。

中国政府は、リーマンショック以降、インフラや不動産への投資に注力してきた結果、ここまで高い成長率を維持してきた。一方、不動産市況の上昇に伴い、不動産価格の上昇や民間デベロッパーの過剰債務問題などの弊害も目立ち始めている。それに歯止めをかけるべく、2020年8月に共産党政権は〝三つのレッドライン〟を設定し、不動産関連の融資を厳格に規制し始めた。①不動産企業の負債の対資産比率を70%以下にする、②自己資本に対する負債比率を100%以下にする、③短期負債を上回る現金を保有するという3条件を設定し、抵触した不動産企業への銀行融資は制限された。背景には、不動産バブルを軟着陸させなければ景気の安定が難しくなるという習政権の危機感があっただろう。

レッドライン導入後、その条件を満たせない企業の資金繰りは急速に悪化した。その一つが、エバーグランデである。

BIS(国際決済銀行)によると、21年3月末時点で中国の民間部門の債務残高はGDPの220・5%に達した。1989年末、資産バブルピーク時のわが国のそれは204・7%だった。わが国の教訓を基にすれば、中国は不動産価格のピークアウトに伴うバランスシート調整と不良債権処理が必要になるだろう。共産党政権は公的資金の注入など本格的な救済を行いつつ、秩序だった債務再編を進めるだろう。現在、共産党政権は貧富の格差解消に神経を使っている。78年の改革開放以降、経済特区を設けて外資を誘致し、在来分野の国営・国有企業への技術移転を進めた。

一方で、ITなどの分野で民間企業の設立を認めた。その結果、アリババなどのIT先端企業が誕生し急成長を遂げた。それが90年代以降の中国経済の成長を支えた主たる要因だ。結果、中国では民間企業の創業経営者などに富が集中し、貧富の格差が拡大している。

人々が所得の増加を実感しづらくなると、社会心理は不安定化する。それは長期の支配体制の実現を目指す共産党政権にとって大きなマイナスで、それを阻止するために〝共同富裕〟を重視し始めた。人々の生活水準を向上させて求心力を維持・強化しようとしているのだ。そのため、民間企業や著名芸能人への締め付けが強化され、多くの企業や富裕層が寄付を表明している。

今後、中国企業の債務問題は深刻化し、エバーグランデへの本格的な救済がなされるだろう。同社の過剰債務は中国が抱える問題の一部に過ぎず、地方政府傘下の投資会社である〝融資平台(LGFV)〟や、鉄鋼や石炭などの在来産業分野でも債務問題は深刻化している。共産党政権は不良債権処理による雇用の喪失を恐れ、インフラ投資などによってその場をしのごうとする展開もあり得る。先行きは楽観できない。

また、格差解消を目指し、経済成長を支えた民間企業への締め付けをさらに強める恐れがあり、2022年の重要な共産党大会で経済と社会への統制を強めることも考えられる。その結果、中国では人々の多様かつ自由な発想が制約され、経済成長に欠かせないアニマルスピリットが減殺される懸念もある。中国経済はこれまで以上に共産党政権に指揮、管理されたものに向かい、経済運営の効率性は低下するだろう。中国から海外へ資金や人材の流出が勢いづき、潜在成長率は低下する恐れがある。共産党政権が経済運営の難局をどう乗り越えることができるか、現時点で不確定要素が多い。それが最大のチャイナリスクだろう。(9月30日執筆)

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。
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