商いの心と技 vol.17 メード・イン・ジャパンを守る

手づくりの定規で「ここにしかない1本」をつくる

あなたが身に着けている衣料品は、どの国でつくられたものだろうか。「そんなこと気にしたこともない」という回答がほとんどであり、「日本製」と答える人はわずかだろう。今、日本の衣料品が危機にある。

ファスト化が招く未来への禍根

近年の消費経済の歴史とは、「ファスト化」の歴史であった。食品はファストフードを、衣料品はファストファッションを受け入れることで、多くの生活者が低価格という恩恵を受けた。

しかし、ファスト化の裏側には未来に禍根を残す〝不都合な真実〟がある。それは未来への大きな犠牲を伴った現在の刹那的な便利さにすぎない。

一つは大量廃棄だ。気軽に買える商品は気軽に捨てられる運命にある。環境省の調査によると、日本の衣料品の廃棄は年間約140万トン。そのうち80%が埋め立てや焼却によって処分されている。その中には、一度も身に着けられることなく廃棄されるものも少なくない。

もう一つは製造現場の疲弊だ。日本繊維輸入組合が公表した「日本のアパレル市場と輸入品概況2021」によると、2020年の衣類の国内供給量は前年に比べて10・3%減。加えて輸入品の割合(輸入超過率)は97・9%、つまり日本製は2・1%しかない。

あなたの自宅のクローゼットに、仮に下着まで含めて100着の衣料品があるとしよう。メード・イン・ジャパンはわずか2着ということだ。

経済産業省の調査によると、日本の繊維産業の出荷額はピーク時の4分の1以下、事業所数、従業員数は同じく5分の1以下に縮小。それに伴い、従事する人材は高齢化する一方であり、技術の伝承もままならない現実がある。今、かつて日本が誇ったものづくりの技術と担い手が急速に失われているのだ。

「そうしたローテク技術は海外に任せればいい」と考える人もいる。しかし、そうした安い人件費を理由とした海外の製造現場では、劣悪な労働環境の中で低賃金を受け入れて働く人たちがいる。真の商人であるならば、誰かの不幸の上に成り立つ豊かさに加担してはならない。

「できない」とプロは言わない

広島県府中市に、いまや希少種となった良いものをつくる技術を持ったプロフェッショナルがいる。ジーンズ生産地として有名な広島県備後地方でつくり上げたオリジナルのデニム製品の店「ジーンズ企画工房」の安田勝司さん、明雄さん親子である。

紳士服の仕立て職人として、長年にわたり腕を磨いてきた勝司さんが取材時に見せてくれたのは、一つ一つ手づくりされた湾曲した定規の数々。それらを駆使して起こす型紙は、着用する者に最高の着心地と型崩れしない耐久性を約束してくれる。

「お客さまからのご要望に対して、『できない』とは言わないのがプロフェッショナル。それが私の職人としての信念です」と勝司さん。そうした確かな技術を生かし、価値を最大限に発揮すべく、息子の明雄さんが商品開発、売場づくり、オンライン通販のアップデートに取り組んでいる。

「一度身に着けるとその着心地に魅了され、リピートされるお客さまが多いですね」と明雄さんが言うように、その着心地と耐久性から同店は全国にファンを持っている。デニムを生かしたオリジナル商品を丁寧につくる工房には、熟練の職人たちが奏でるミシン音が規則正しく聞こえる。

木工、繊維、金属、機械などさまざまな分野の地場産業で知られ、「ものづくりのまち」といわれている府中。その底力を、同店に見た。 (商い未来研究所・笹井清範)

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