2021年は倒産の少ない1年だった。
民間企業信用調査会社によると、21年度の倒産件数は前年同期比25・7%減と、55年ぶりの低水準を記録。持続化給付金など政府による資本注入策に加え、各金融機関による無利子・無担保融資、既存融資のモラトリアム対応など、手厚い金融支援が倒産を抑え込んだ。
しかし、モラトリアムはいつか終わる。今後、倒産件数は増加していくことが予想される。パンデミックが収束すれば、業績は回復すると予測するのはあまりに無策であり、楽観的過ぎる。顧客の生活様式、消費意識が大きく変わったからだ。
また、経営者の高齢化が進んでいるという。東京商工リサーチの調査によると、全国の社長の平均年齢は62・49歳に上昇。注目すべきは業績悪化との関連性だ。直近決算で減収企業の社長は60代が48・8%、70代以上が48・1%を占めた。赤字企業は70代以上が22・3%で最多。その背景には、長期的なビジョンを描けず、設備投資や経営改善の遅れが横たわると分析している。
志から発するパーパス経営
本当に、高齢化が理由なのだろうか。そう捉えてしまうと、22年は厳しい年になる。
昨今注目されている経営モデルに「パーパス経営」があるが、パーパスとは「存在意義」をいう。つまり、何のために事業を経営しているかという〝志〟の重要性が説かれている。
これまで企業は経営理念として、ミッション(使命)・ビジョン(構想)・バリュー(価値観)を掲げてきた。それがパーパス(志)・ドリーム(夢)・ビリーフ(信念)にシフトしていくという。前者は外発的、後者は内発的なものである。
では、パーパスを心の内から見つけるためには何が必要か。商業動向は今後さらに不確実性を増す。だからこそ、己の中に揺るがない羅針盤を持たなければならない。
昭和を代表する経営指導者、倉本長治はこんな言葉を遺している。
「商売は今日のものではない。永遠のもの、未来のものと考えていい。それでこそ、本当の商人なのである。人は今日よりも、より良き未来に生きねばいけない」
公益性と時代性革新性を携えよ
こうした「より良き未来」を生きるために重要な基準がある。「公益性」「時代性」「革新性」の3点である。
①公益性
「正しきに 依りて滅ぶる 店あれば 滅びてもよし 断じて滅びず」
倉本の盟友、新保民八は「公益性」について、このような言葉を遺している。
世のため、人のためになる正しさこそ「公益性」の本質。これがなくして、そもそも事業を経営する意味がない。
世のために、人のためになっているか? これが一つ目の羅針盤だ。
②時代性
事業とは、対象顧客の不満、不都合、不便、不利益といった〝不〟を解消する営みである。多くの場合、顧客自身はそうした〝不〟に明確な正解を持てないでいる。
「時代性」とは、その時々の社会や世相を覆う漠然とした〝不〟を見つけ出し、解消策を提示することである。
この瞬間のニーズを捉えているか? これが二つ目の羅針盤だ。
③革新性
世の中に変わらないことはない。変わらないものをあえて挙げるなら、「全ては変わり続ける」という事実のみである。
新保は前述の言葉に続けて次のように述べている。ここに「革新性」の本質がある。
「古くして古きもの滅び 新しくして新しきもまた滅ぶ 古くして新しきもののみ 永遠にして不滅」
古くから続く「在り方」でも「やり方」が時代遅れであったり、「やり方」は新しくても「在り方」が未熟であったりすれば、たやすく滅ぶ。永続できるのは、古くから続く「在り方」を、時代に適応した新しい「やり方」で実践するときのみである。
常に変化に応じて変わり続けているだろうか? これが三つめの羅針盤だ。
2022年の商業動向はどのようなものとなっても、それはコロナ禍前と同じ軌道に戻ることはない。未知の荒海を進む以上、これら三つの羅針盤を携えていたい。
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