足元の世界経済を俯瞰(ふかん)すると、主要国の多くで景気は緩やかに回復している。その背景として、各国でコロナウイルスの感染が徐々に落ち着き始めたことがある。2022年の世界経済も、基本的には経済の正常化が進むとみられる。
ただし、資源価格の高騰など先行きの不確定要素が増えていることは間違いない。資源や穀物の価格上昇で、世界的にインフレリスクが顕在化している。オミクロン株など新型コロナウイルスが世界経済に与える影響も依然として無視できない。
緩やかに持ち直す世界経済
21年夏場、世界各国でデルタ株の感染が再拡大し、経済活動に欠かせない人の移動(動線)が寸断され、主要国の購買担当者景況感指数(PMI)の総合指数は低下した。9月以降はワクチン接種の増加などによって動線が修復され、世界的に景況感は上向いている(図1参照)。特に、自動車部品などの供給地として重要性が高まる東南アジア地域での生産活動の緩やかな持ち直しは〝自動車一本足打法〟と揶揄(やゆ)されるほどに自動車産業に依存するわが国経済の持ち直しを支えた。
22年の世界経済は、全体として緩やかに回復するだろう。不動産市況の悪化や感染再拡大などによって中国経済の減速は鮮明だが、それ以外の国と地域の景気回復ペースは相応にしっかりしている。特に、米国の個人消費は緩やかに増えるだろう。米国では過去に比べて個人の貯蓄率が高い。21年10月の個人貯蓄率は7・3%(出所はセントルイス連銀)だ。それは2000年から19年末までの貯蓄率の平均値(5・9%)を上回る。個人消費の増加余地は大きいと考えられ、労働市場の改善など米国経済は緩やかな回復基調をたどる可能性がある。また、電気自動車(EV)シフトなどを背景に東南アジア地域などでの設備投資が増えていることも世界経済の成長にプラスだ。
世界的な物価上昇懸念の高まり
ただ、世界経済の先行きに関する不確定要素は増えている。その一つが世界的なインフレリスクの高まりだ。
物価には卸売(生産者)物価と消費者物価の二つがある。足元、世界全体でエネルギー資源価格の上昇や供給制約などを背景に、卸売物価の上昇が鮮明だ。21年11月のわが国の企業物価指数は前年同月比で9・0%と、約41年ぶりの上昇率を記録した。
需要の強弱などを背景に消費者物価の上昇率は各国まちまちだが、11月の米消費者物価の総合指数は前年同月比で6・8%上昇した。米国ではガソリンや家賃などの価格に加えて、人手不足を背景に賃金も上昇している。その状況が続くとの見方が増え、消費者のインフレ予想も上昇基調だ。米国以外の国や地域でも消費者物価は徐々に上昇している(図2参照)。
物価上昇を警戒して、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、物価上昇は一時的との認識を改めた。FRBが金融緩和策の縮小を急ぐ可能性は高まっている。今後、世界的に金利が上昇し、株式市場の不安定性が高まる、あるいは新興国から資金が流出するなど、世界経済の先行き懸念が高まる展開は否定できない。
オミクロン株の影響とわが国経済の展開予想
オミクロン株の影響も過小評価できない。ポイントは、感染が人々の恐怖心理にどう影響するかだ。
万が一、世界的に感染が深刻化すれば動線は不安定化、あるいは寸断され、各国で景気減速懸念が高まるだろう。反対に、オミクロン株が人々の恐怖心理を大きく高める展開が避けられれば、世界経済は21年秋口以降の緩やかな回復ペースを維持するだろう。米中対立のリスクも軽視できない。
不確定要素が増加する状況下、わが国経済がコロナ禍以前の経済規模を回復するには時間がかかる。
わが国には自動車産業に代わる経済の大黒柱が見当たらない。新しい産業が見当たらないため、国内経済は海外次第の展開とならざるを得ない。
世界経済が上向けばわが国の景気はそれなりに持ち直す。逆に、海外経済が減速すれば景況感は急速に悪化するだろう。わが国政府の経済政策を考えると、脱炭素やデジタル化の加速に対応するための規制改革の進展は期待しづらい。22年のわが国経済の回復は緩やかなものとなるとみられる。
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