世界、そして日本も脱炭素化に向けて動き出した。中小企業にとって、脱炭素化はハードルが高いと考えられているが、この流れをチャンスと受け止めて、再生可能でクリーンな新エネルギーのビジネス化に取り組む地域の企業や商工会議所を紹介する。
地域密着の企業だからできる廃食用油リサイクル燃料で広がる事業
資源循環型社会やカーボンニュートラルなど、環境に関することは手間が掛かるというイメージがある。宮城県大崎市にある千田清掃では、廃食用油から燃料をつくり、自社車両や自家発電に活用し、さらに販売も行う。経費や手間が掛かっても地球のために行動し続ける同社の取り組みは、地域の連携を生んでまちづくりへと広がり、行政や大手企業からも注目されている。
廃食用油リサイクル燃料を自社車両や自家発電に
大崎市の幹線道路沿いにある千田清掃の入り口には大きなSDGsの看板が、建物には「ダメだっちゃ温暖化」と掲げられている。「私のモットーは『世のため、人のため、地球のため』です。やり抜くぞ、と覚悟を決めているんです」という同社代表の千田信良さんの決意の表れである。
同社は、し尿や浄化槽の汚泥収集運搬、浄化槽工事などが主な事業で、1952年に千田さんの祖父が創業し、千田さんが三代目となる。
現在は主力事業のほかに廃食用油リサイクル事業を行っている。飲食店や食品工場から出る廃食用油を使い、自社製造プラントで高品質のバイオディーゼル燃料(BDF)を製造販売する事業で、BDFは植物由来のため、二酸化炭素の排出量がプラスマイナスゼロになるカーボンニュートラルの軽油代替燃料である。
同社ではBDFを、し尿・浄化槽汚泥収集のバキュームカーや廃食用油の回収車など約40台に給油して活用している。また、電気も環境に負荷をかけない燃料であるBDFと廃食用油で発電機3台を稼働させ、日中燃料製造プラントや事務所で使う電力を全てまかない、RE100を実現している。千田さんはこの取り組みを地産地消ならぬ「自産自活」と呼んでいる。
こうした設備は災害時にも活躍している。2011年の東日本大震災時、BDFと軽油の備蓄と自家発電設備があったため、燃料供給基地として行政などへ燃料を供給した。現在はNTT東日本やネクスコ東日本と災害協定を締結し、高所作業車に燃料を供給するなど、地域の災害対策にも貢献している。
自治体と協力し家庭や飲食店から回収して燃料へ
同社がBDF製造を始めたのは05年で、社員から提案があったのがきっかけだった。当時、滋賀県で琵琶湖の水質を守るため、廃食用油から環境に優しい石けんをつくる運動が盛り上がった。それが燃料製造に発展した事例を社員から聞き、小型プラントを購入した。社内外から批判の声もあったが、徐々に地元の飲食店から協力を得られるようになった。
現在は、宮城県内の飲食店900軒や大崎市内の一般家庭、仙台市に支社がある大手企業の社員食堂など合わせて毎月3万ℓの廃食用油を回収する。飲食店や社員食堂へは自社の回収車が訪問し、家庭ではペットボトルに廃油を入れてもらい、自治体と協力してスーパーなどに設置した回収ボックスで収集する。
「手間は掛かりますが、地球環境を守らなければという使命感があります。この事業のおかげで人脈が広がったり会社のイメージアップにつながったり、社内には若い人が増えました。し尿や浄化槽の仕事だけでは、会社は事業の縮小を余儀なくされていたかもしれません」
BDF事業による波及効果は大きく、宮城県ストップ温暖化賞、みやぎ優れMONO認定など多数表彰された。宮城県内の小中学校で環境に関する講演を行ったり、燃料製造プラントを見学に来たりする大手企業もある。製造した燃料は、大手建設会社の重機に使われることもあり、同社の取り組みが広がっている。
商工会議所だからできる地域連携で新会社設立
今では「千田清掃ではなく、まちづくり会社」といわれるほどの同社だが、地域とのつながりは古川商工会議所の会員になっているおかげだと千田さんは語る。
「千田清掃という立場では民間業者ですが、商工会議所という立場なら市の担当者とも対等に話ができます。だから、私は市の環境審議委員などの委員になって、まちづくりには常に関わっているんです。BDF事業によって、市ともさらに密接に関わるようになりました」
千田さんは、商工会議所の仲間とともに新たなチャレンジを行っている。千田清掃をはじめ市内4社で「おおさき未来エネルギー株式会社」を設立し、14年に大規模太陽光発電事業所「さくらソーラーパーク」を建設した。大崎市市有地約2・2haに4880枚の太陽光パネルを設置し、年間予定発電量は120万kWhを見込む。発電した電力は東北電力に売電し、災害時は隣接する温泉施設に供給する。
新会社は当初、再生可能エネルギーについての勉強会だったが、会社を立ち上げて本格的に取り組もうということになった。大崎市も市内にある土地や温泉熱を再生可能エネルギーに活用したいという考えを持っていたため、両者の思いが合致した。
机上論よりも行動しまちづくりを進める
エネルギー問題は地球全体の問題だが、「地域にあるエネルギーを活用して、お金もうけではなく、自治体と一緒にまちをつくりあげる気持ちがないと続かない」と千田さんは実感を込めて言う。時代の流れで一見入りやすい事業に見えるが、始めても続かずにやめていく会社や団体も多いそうだ。
「机上でいくら考えても、行動しなければ意味がない。1社ではムリなら、商工会議所が音頭をとったり大手企業と協力したりするなど、地域の企業で連携する方法はたくさんあります。誰かがやってくれるだろうではなく、トップが行動しなければダメ。そこに若い人がついてきてくれると思います」
今後、千田さんは自社のガソリン車を電気自動車に代えていく予定である。「会社全体を環境エネルギーのテーマパークにして、見学に来てもらいたいですね」。千田さんは地域とともに、地球環境を守る取り組みを続けている。
会社データ
社名:有限会社千田清掃(ちだせいそう)
所在地:宮城県大崎市古川狐塚字西田77番地
電話:0229-27-3151
代表者:千田信良 代表取締役
従業員:50人
【古川商工会議所】
※月刊石垣2022年1月号に掲載された記事です。
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