「日本のカッコイイを集めたお土産屋さん」をコンセプトとするセレクトショップ「カタカナ」には、文具、書籍、玩具、食器、衣料品、服飾雑貨、食品などさまざまな商品が並ぶ。一見すると雑多だが、品ぞろえには一本の太い芯が通っている。全て店主の河野純一さんが日本各地を回って出会い、ほれたメード・イン・ジャパンの品々だ。
人には人柄があるように、店には〝店柄〟がある。そして店柄は店主の人柄を色濃く映す鏡でもある。河野さんはどんな商人なのだろうか。
日本製の価値に気付いた一言
父はアパレル製品をデザインから型紙に起こすパタンナー、母は縫製の仕事と、洋服に囲まれて河野さんは幼少期を過ごした。たまに父と出掛けるとき、行くのは決まって百貨店などの婦人服売り場。自然と興味は服飾業界へと向いていった。
大学卒業後、当時の日本ファッション界をリードしていた婦人服専門店チェーンに入社。いつか自分で商売がしたいという夢を持ちつつも、河野さんは接客と売場づくりの面白さを学ぶ。
「お客さまとの会話の中から気付きを得て売り場を変えると、お客さまに喜ばれ、売り上げにつながる。今も私が接客を大切にするのは、この時の経験に原点があるからです」
その後、本部で発注や商品開発を歴任し、商売の仕組みと面白さを学んでいた矢先、勤務先が経営不振から和議を申請。多くの社員が去っていった。
しかし、河野さんは立て直しの柱と目される新規事業の担当に抜てきされ、国内外を飛び回った。そこで出会ったのが、日本各地で注目を集めていたセレクトショップの店主たちだった。彼らはいずれも自分と同じ世代。彼らに出会い、あらためて店をやりたいという思いが強くなっていく。
また、ニューヨーク出張でファッションの最先端で働く人たちと仕事をしている時のこと。その1人が、河野さんが使っていた日本製シャープペンシルのデザイン性と機能性を激賞。日本製の中にも世界に誇るべきカッコイイものがあると実感した瞬間だった。これをきっかけに河野さんは日本製の良品に魅了され、40歳で退社、東京・自由が丘に13坪の店を開いた。
良品を通じて笑顔をつくる
カタカナの品ぞろえには、三つの基準がある。
第一に日本の良品であること。大手メーカーが大量の広告費を注ぎ込んで宣伝しているものより、長く愛用でき、つくり手の思いや人柄がこもったものだ。
第二は適正価格。同店には数十円から数万円の商品がそろう。機能だけを考えるなら100円ショップでも買えるものであっても、消費者として納得できる理由があれば、価値を伝えることこそ伝え手である商人の役割と河野さんは考えている。
そして第三はカタカナらしさ。見た目だけの表面的なデザイン性だけではなく、内面から感じられる面白さや懐かしさ、そして新しさを大切にしている。
「たとえば、カタログは後ろから見ます。前の方には新商品や売れ筋が載っていますが、後ろにはメーカーやつくり手がどうしても伝え続けたい愛着ある商品が載っているもの。そんな良品にこそ、カタカナの世界観と共通するものがあります」
そんな河野さんが笑顔を失っていた時期があった。それはもう一店を出店し、売り上げも順調に伸びていたときのこと。
「競合店に品ぞろえがパクられたといら立ったり、日々の売り上げに一喜一憂したり。いつも売り上げと競合店ばかり気にしていました」
自分が商売を始めたのは、関わる人たちを笑顔にするためだったと思い直し、2店舗目を撤退。「もう一度、この小さな店を輝かせることに集中したい」と、「素直な心で笑顔を追い求め続ける」という理念を立てた。
いま、カタカナには多くの笑顔があふれている。共に働く従業員の笑顔、「この店は私のお店」とリピートしてくれるお客の笑顔、そして河野さん自身の笑顔。物を通じて人を笑顔にするという思いを胸に、河野さんの日本全国を回る「さがしモノの旅」はこれからも続いていく。 (商い未来研究所・笹井清範)
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