CO2の削減や再生可能エネルギーの活用など林業に対する環境は変わりつつある。世界有数の森林国である日本にとって林業を活性化することは、新たな雇用や産業の創出など、地方創生と地域経済の好循環につながる。林業に関わる大企業と地域企業のそれぞれの取り組みに迫った。
100年育てた創業者の思い受け継ぎまちと人と未来をつくる
東京に木造の高層ビルが建設されるなど、国産材への注目度が高まっている。その資源をつくる林業も若者の就業希望者が増えるなど変化している。岩手県盛岡市にある三田農林は、自社の森林で100年育てた木材を使って住宅や商業施設を建て、雇用とにぎわいをつくり出している。森林所有者としては珍しいこの取り組みは、創業者の思いを具現化したものだった。
20世紀は「山を育てる」 21世紀は「育てて使う」
「林業のサイクルは100年にしています。ぜひ時間の感覚を長く持ってほしいですね。当社は20世紀に山を育て、21世紀に入って初めて、山を育てながら使う事業ができるようになりました」と三田農林の三田林太郎社長は、他業種と違う時間の感覚を強調する。
実際に、ドイツの林業大学と岩手大学が盛岡市北部の社有林で行っている調査では、広葉樹が目標の直径60㎝になるのに108年かかると推定される。同社は産官学連携の取り組みに積極的に協力し、試験地を提供している。
1900年に創業した同社は現在、岩手県に約1000ha、北海道に約900haの森林を所有する。岩手の森林は杉や赤松など林齢80年生以上が42%を占める。北海道では広葉樹が67%で、豊かな美しい自然を残している。同社ではスギの伐採時期を120年として木材にするほか、近年ではCO2排出量を削減したと見なされる権利「CO2排出権」を販売し、その代金を森林の造林や間伐に使い、さらにCO2の削減に貢献している。
同社はこの「森林経営」のほかに「果樹生産」「酪農」「不動産賃貸」も行っている。創業者三田義正の理念である「農林業を通じて岩手を豊かにする」「長期的な視点での人材づくり、街づくり」を大切にして事業を展開し、従兄から三田さんが経営を任されている形である。
三田さんいわく、果樹生産も酪農も「規模は家族経営以上で企業未満」だが、果樹の減農薬栽培や乳牛の昼夜放牧などにより、手間は掛かるが環境への負荷の少ない事業になった。また農場があることで雇用が生まれ、観光などにも役立ち、地域を活性化させている。
不動産事業はマンションや駐車場を所有するほか、2005年からは自社木材を利用した住宅などを建築したり、老朽化した建物を木材でリノベーションしたりしている。09年には盛岡市中心部に商業施設「クロステラス盛岡」を開設した。梁(はり)や柱に自社木材を使用したぬくもりある施設で、年間200回のイベントを行うなど、にぎわいをつくり出している。
「それまでは山を育てることに注力して、出費ばかりでした。数十年で財務状況が良くなり、自社の木材を使えるようになりました」
木材価格の利益配分を調査 立木価格を2倍以上に
三田さんは14年から日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)の「林業復活・地域創生ワーキンググループ」に参加し、森林所有者として「森林資源を大きく減らさないでほしい」「森林が持続可能になるよう、立木価格を上げてほしい」と訴えてきた。
このうち資源については、国産材需要を喚起するのはいいが、木が育つのに100年かかり、短期間で大量に使えば資源が枯渇するので配慮が必要ということだ。
次に価格についてだが、木材価格には三つある。山に立つ木は「立木価格」、伐採後は「丸太価格」、製材して建築材になれば「製材品価格」である。例えば、杉の製材品価格は数十年間下落していたが、19年には1㎥あたり6万1900円と約30年前の水準に回復した。しかし、森林所有者に入る立木価格は1990年に1万4595円で、2019年は3061円と下がり続けている。80年育てた木がこの価格では再造林できないため、利益配分を変えてほしいという訴えである。
三田さんは木材価格の利益配分を変えるため、自社で価格を調査したことがある。05年から自社木材で住宅6棟を建てたが、その際に、岩手大学や森林組合、工務店と協力して木材のコストを調べた。三田さんが地元業者に対し、造林や管理などのコストを提示して理解してもらい、利益配分を見直したところ、立木価格を通常の2倍以上にすることができたのである。「盛岡で立木価格を上げることができたのに、日本全体でできないはずはない」と実感を込めて語っている。
数百年の森林所有者が撤退 林業への就業希望者は増加
三田さんたち森林所有者の会「日本林業経営者協会」は会員300人以上だが、小規模な森林所有者が多い。最近の20~30年間で、数百年続けてきた林業経営者が撤退するなど森林売却が増加し、売り先は大企業だという。
「大企業ばかりが森林所有者になれば、地域で育まれてきた文化がなくなるかもしれない。地域創生は多様性があるから盛り上がるのであって、画一化は逆行ではないでしょうか」と三田さんは危惧する。
森林所有者は減少傾向の一方で、林業を仕事にしたい若者は増えている。受け入れ側の三田さんは「彼らは自分らしく働きたいのであり、大規模に機械化して歯車のように働きたいわけではない」と感じている。このためUターン者やIターン者への林業教育や技能講習の必要性も提言している。
三田さんは創業者から受け継いだ理念の下、人材づくりとまちづくりを続けている。
会社データ
社名:三田農林株式会社(みたのうりん)
所在地:岩手県盛岡市中央通一丁目1番23号
電話:019-624-2120
HP:http://www.mitanorin.co.jp/
代表者:三田林太郎 代表取締役社長
従業員:22人
【盛岡商工会議所】
※月刊石垣2022年2月号に掲載された記事です。
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