製品開発や新規事業の開拓などは、新たな投資に注げる人材や資金力に乏しい中小企業がチャレンジするにはハードルが高い部分も多い。そこで、現状を打破するために1社で取り組むのではなく、地域にある企業や大学、公的機関などとの産学官連携が注目されている。
業種を超えた連携により枠にとらわれないものづくりを
福島県郡山市のケイ・エス・エムは、家電や電子機器のプラスチック部品を成形する金型の製造を軸とした事業を行っている。また、8年前からは医療機器の分野にも参入し、手術に使う機器なども開発。近年はオープンイノベーションにより新規事業の創出に取り組み、コロナ禍においては他社や医療関連機関との連携により、新たな医療機器も開発している。
医療機器関連にも参入し製品設計や知財開発を提案
1995年に金型メーカとして創業したケイ・エス・エムは、今から16年前に大きな転機を迎えた。それまでは家電やOA機器のサプライチェーンの中で金型を製造していたが、創業者である先代が亡くなったことで、それまでの取引先からの受注が大幅に落ち込んでしまったのだ。先代の長男で、現在は常務取締役を務める佐藤伊知郎さんは、その後の経緯についてこう振り返る。
「そこで、普通の金型製造業者がやらないことを始めました。依頼された金型をつくるだけでなく、メーカーが取り組んでいる製品開発の案件に対して、製品の設計や、複数の部品を一体化することによる部品数の削減などを、金型と一緒に提案するようにしたのです。一種のサービスですが、これにより、ほかの金型業者よりも単価を15%から20%上げることができました。そしてこれが、金属加工を通じてさまざまな分野の開発をする始まりとなりました」
その後、8年前には医療機器の分野にも進出した。これは、福島県が医療機器の開発から事業化までを一体的に支援する、国内初の施設であるふくしま医療機器開発支援センターを郡山市に開設することに合わせたものだった。
「センターの開所は2016年ですが、準備のための協議会がその3、4年前からスタートしていました。私たちは医療機器関連の経験はなかったのですが、そのほかの業界で実績があったので、医療機器メーカーの要望に応える製品設計や知財開発を提案していく形で参加することができました」
そこでは、医療機器の中でも特に手術関連機器の開発が求められており、医療機器メーカーからの要望を受け、同社では手術用器械の部品数削減などを提案していくようになった。
知財を相手企業に提供しものづくり部分は自社に
「ここで私たちがやっているのは、新しいものを生み出すというより、これまでほかの業界でやったものを別の形にして提案する、いわば技術応用です。それが医療機器では新たな開発となる。そのため私たちが提案することは、医療機器メーカーには新規の知的財産(知財)に相当します。そこでは、私たちはその権利を取得せず、メーカーに取得していただきます。知財の提案が私たちのサービスの付加価値につながり、その知財によってメーカーの売り上げが上がれば、その後も私たちに開発の依頼が来る。それが私たちの考え方です」と、佐藤さんは自社のオープンイノベーションにおける営業戦略を説明する。
さらに、たとえ設計図面や知財をメーカー側に渡しても、製品の組み立てや部品の加工は同社が持つノウハウでコストを抑えつつ品質を上げるスキームにしており、結果的にものづくりの部分でも仕事量が増える形になっている。
「中小企業の課題は、新しいものはつくれるけれど売り先がないということ。販路がないのにつくって満足してしまうことが多い。それよりも、オープンイノベーションによりほかの企業が持つ知識や技術を新たに展開して、知財は相手側に持ってもらい、その製品を売ってもらった方がいい。新たな製品の市場開拓は、その企業が持っている市場と、こちらの市場を掛け合わせていくスタンスでやっています」
何年かけても開発できなかったものが、同社と協力したらすぐに形になる。しかも知財まで取得できたという話が業界内に口コミで広がり、それによって新たな取引先も広がっている。
コロナ禍でも他社と共同で新製品やサービスを創出
このコロナ禍においても、他企業とのオープンイノベーションにより新たな製品やサービスを生み出している。その一つが「Iodox(ヨドックス)」で、ヨウ素を原料にした消毒薬を他社と共同で開発し、商品化に成功した。そして同社は、子どもたちの新型コロナウイルス感染予防のために、子どもの身長に合わせ、キリンの形をしたIodoxの噴霧器を開発した。
「元々は原子力関連の事業を行う企業のコア技術に注目し、ウイルスに対して殺菌効果のあるヨウ素の消毒液ができないかと持ち掛けたのが始まりです。それを大型の容器に入れて販売するビジネスを考えていたのですが、子ども向けのニーズが高いことが分かり、キリンの形をした噴霧器を開発しました」
20年秋に製品化されたキリン型噴霧器は、その年の第72回郡山市発明工夫展で「産総研福島再生可能エネルギー研究所長賞」とともに「with CORONA特別賞」を受賞した。また21年6月には、ふくしま医療機器開発支援センターと郡山市の支援、県内の医療機関の協力を得て、飛沫(ひまつ)防止用の内視鏡マウスピースも開発。それ以外にも、AIロボットのソフトウエアを開発している企業との共同開発で、顔画像認証技術を活用した「高速検温機能付き顔画像認証システム」を搭載したAI検温器を開発・販売している。
「今後もオープンイノベーションという、枠にとらわれないものづくりをしながら、既存のものを改良して新しいものをつくっていきたい。そして、次世代の子どもたちにものづくりの面白さを伝えて、次の時代を担う人材を増やしていけたらと思っています」
資本に限りのある中小企業が新たな分野に参入するには、同社のように異業種連携していくことが、今後はさらに必要になってくるだろう。
会社データ
社名:株式会社ケイ・エス・エム
所在地:福島県郡山市横塚2-303-1
電話:024-942-1635
HP:http://www.ksm-japan.co.jp/smarts/index/0/
代表者:佐藤理恵 代表取締役社長
従業員:14人、顧問 34人(非常勤)
【郡山商工会議所】
※月刊石垣2022年2月号に掲載された記事です。
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