製品開発や新規事業の開拓などは、新たな投資に注げる人材や資金力に乏しい中小企業がチャレンジするにはハードルが高い部分も多い。そこで、現状を打破するために1社で取り組むのではなく、地域にある企業や大学、公的機関などとの産学官連携が注目されている。
“サポイン”を活用して産学連携しながら異分野の市場ニーズにも対応
1931年に有機顔料の開発・製造で設立した有機化学メーカー・山陽色素。ものづくりに欠かせない「色」という要素において、「合成」「分散」「微粒子化」という三つの技術を強みに、多様化する市場ニーズに対応してきた。その陰には、大学や研究機関と連携しながら技術力を高め、製品開発してきた道のりがある。
高度・多様化する市場ニーズに対応するには
液晶テレビ、インクジェットインキ、自動車用塗料、食品包装パッケージ……。日常生活に密着したさまざまなものには「色」が使われている。そうした色の素を、合成、分散、微粒子化という三つの技術によって製品開発してきたのが山陽色素だ。
着色剤には大きく分けて染料と顔料がある。染料は、水や油に溶ける性質のある粉末で、複数の色を混ぜ合わせることで比較的容易に新しい色を生み出すことができ、主に繊維製品に使われている。ただ、光に長時間当たると色があせてくる弱点がある。一方、顔料は水や油に溶けない粉末で、溶剤の中で均一に混ざった状態を保てることから、インクや塗料、筆記用具などに用いられている。同社が主に扱ってきたのは顔料だ。
「創業した1931年ごろ、日本の顔料は全てドイツからの輸入品でした。塗料メーカー向けに国内で最初に有機顔料をつくったのが当社で、当時、郵便ポストや消防車などの塗装に使われました」と同社社長の齋木俊治郎さんは説明する。
高度な化学技術を要する分野だけに、古くから大学や研究機関とのつながりはあったという同社だが、より高度・多様化する市場ニーズに対応するため、産学連携に乗り出したのは2000年代半ばごろからだという。
きっかけはカラーフィルターだ。カラーフィルターは、画像や映像の色をつくり出す役割を担うもので、薄型テレビやカーナビ、パソコンやスマートフォンなどの液晶ディスプレーに用いられている。その画質を向上させるために、フィルターに使われる色素の波長特性や耐熱・耐光性などの機能を高める必要性が出てきたのだ。
「また、市場が変わってきたことも大きな理由です。国内の経済が鈍化するに伴い、海外展開が求められるようになりました。しかし、アジア各国でも色はつくっており、激化する競争に勝つには、やはり産学連携が必要でした」
国の補助事業を活用して数々の技術開発を実用化
具体的に同社が活用したのは戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン※)だ。サポインとは、中小企業の研究開発・試作品開発などを支援する事業で、企業が大学や研究機関、他企業などと共同でものづくり技術の向上に向けた取り組みを行うと、国から補助金を受けることができる仕組みだ。08年に初めて申請を出し、高機能化学合成技術の開発に取り組んだ。さらにその翌年には、耐性に優れた新しい色素の開発をスタートし、有害な近赤外線をカットしたり、光波長を選択吸収したりするなど、カラーフィルターにも通じる技術の実用化に成功する。知的財産として特許も取得した。
「光波長の選択に関連して、農業分野に応用する研究も大学と共同で行いました。植物は太陽光によって成長しますが、その中には不要な光も存在します。そこで植物の生育に必要な光だけを通す黄色い袋をつくり、お茶の木で実証実験を行って効果を確認しました。その後、取引先企業が当社の色素を使って、実際に茶畑にかぶせるシートを開発し、製品化を果たしました」
12年には、環境保護の観点から顔料を溶剤系から水性へと変換するとともに、粒子をナノレベルまで小さくすることで、主に自動車用塗料の色特性(彩度)を向上させる研究に着手し、開発に成功している。
「当社の役割は色素という素材をつくることで、それを使って製品化するのは取引先企業です。そのため、当社が開発してきた技術を当社の最終製品では評価することができないので、取引先企業との間ですり合わせを繰り返しながら、最終品質に仕上げていくという作業を積み上げています」
※サポイン事業は2022年度より成長型中小企業等研究開発支援事業に変更となる予定
10年20年先を見越して高付加価値製品を追求
同社はサポイン以外にも、大学や産業技術総合研究所と連携した共同研究を行っている。その一例として、リチウムイオン電池などの二次電池への応用がある。
リチウムイオン電池は、正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行うが、その働きを助ける「導電助剤」が電極中でどのような状態にあるかで、電子伝導性が大きく変わってくる。同社は長年培ってきた分散技術を活用して、その導電助剤となる高濃度カーボンナノチューブ導電ペーストを開発した。リチウムイオン電池自体、1990年代に商品化され、すでにノートパソコンやスマートフォン、電気自動車など幅広い機器に採用されているが、同社が目指しているのは電気自動車の普及に欠かせない「全個体電池」への活用だという。
「10年20年先にどんな技術が求められるのか、すでに経済産業省からさまざまなデータが出ています。それに沿って、当社に何ができるのか、この市場はどんな動きが出てくるのか、他社の動向など、大学や研究機関とつながっていると明確に分かってくるのが大きなメリット。今後も合成、分散、微粒子化の技術を先行させ、市場ニーズに合った付加価値の高い製品開発をしていきます」と長期的な展望を語った。
会社データ
社名:山陽色素株式会社(さんようしきそ)
所在地:兵庫県姫路市延末81
電話:079-292-3366
代表者:齋木俊治郎 取締役会長兼社長
従業員:377人
【姫路商工会議所】
※月刊石垣2022年2月号に掲載された記事です。
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