2022年に入って、世界的に物価上昇の圧力が一段と高まっている。米国では、消費者物価指数が約39年ぶりの高水準となり、連邦準備制度理事会(FRB)は、これまでの超低金利・潤沢な流動性供給の方針を変更する可能性を示唆し始めている。今後、米国を中心に金融緩和から金融正常化へとパラダイムがシフトすることが現実味を帯びてきた。
物価の状況を示す経済指標には、卸売物価指数(生産者物価指数(PPI、わが国では企業物価指数として日本銀行が公表)と消費者物価指数(CPI)の二つがある。世界経済全体で卸売物価の上昇は鮮明だ。わが国の企業物価指数の上昇率は41年ぶりの高さだ。
その背景要因として、コロナ禍の再拡大がある。各国で動線が寸断され、工場などの生産や物流が停滞し、サプライチェーン(供給網)の混乱が深刻化した。世界全体で労働力不足も進展し、脱炭素や地政学リスクの高まりを背景とするエネルギー資源の需給もひっ迫した。加えて、異常気象を背景とする穀物の育成不順などもあり、当面の間、世界的に卸売物価は上昇基調で推移するだろう。
今年1月11日に日銀が発表した「『生活意識に関するアンケート調査』(第88回〈21年12月調査〉)の結果」によると、1年前と比べて物価が「少し上がった」との回答が60・8%(21年9月時点で52・6%)、「かなり上がった」が16・6%(同8・9%)と実感としての物価上昇圧力は高まっている。さらに4月には昨春の携帯電話料金引き下げの影響がなくなる(ゲタが外れる)ことによって消費者物価指数は1・5ポイント程度押し上げられる。国内外でインフレ圧力の高まりは一段と鮮明化するだろう。
昨年11月、米国FRBのパウエル議長は、「物価上昇は一時的」としてきた認識の誤りを認め、利上げ開始後に流動性供給のために購入してきた米国債や住宅ローン担保証券(MBS)の売却を急ぐ考えも示した。それは、〝超低金利・流動性供給〟から〝利上げ・流動性吸収〟へ世界の金融市場のパラダイムシフトを意味する。
近年、低金利環境とカネ余りが続くことを当然のことと考える個人、投資家、企業、政府は世界全体で増えた。短中期から超長期までの金利上昇の負の影響は大きくなるだろう。
米国経済の専門家の間では年間4回の利上げを想定するものが増えている。現在FRBは政策金利を0・00~0・25%に誘導している。
一つのシナリオとして、22年3、6、9、12月に0・25ポイントずつ利上げが実行されると仮定すると、12月のFFレートは1・00~1・25%に達する。加えて、6月か7月にFRBはバランスシートの縮小を開始するとの予想が増えている。利上げ・流動性吸収を実行してインフレ上昇リスクを抑制するために、FRBは状況に応じて早期に利上げとバランスシート縮小を進める考えを、より強く表明せざるを得なくなるだろう。
これからの重要な課題は、楽観的な見方に慣れてしまった投資家が、物価上昇圧力や金融当局の政策変更に柔軟に対応できるか否かだ。わが国の投資家の中で、成長期待の高い米国株投資に積極的な心理が目立つとの指摘もある。世界的な物価上昇圧力の高まりを背景に、FRBをはじめ世界の主要金融当局が利上げと流動性吸収を急ぐ姿勢をより鮮明にすると、米国をはじめ世界の株式や債券などの金融市場が不安定化する懸念が高まる。
世界的な物価のさらなる上昇を理由に、金利上昇や株価の下落リスクが急速に高まる可能性もある。金利上昇が本格化すれば、米国などのIT先端銘柄を中心に株価は下落し、世界の金融市場全体でリスクオフが加速することが想定される。それによって、新興国の金融市場から資金が流出し、世界経済の先行き懸念が高まることも考えられる。今後、世界的な物価上昇圧力と、主要国の金融当局の金融政策変更の動向には十分な注意が必要だ。 (1月15日執筆)
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