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あの人を訪ねたい 栗山英樹

「人が生きれば組織も生きる。勝敗ではなく、選手に一番いいことは何かをいつも探しています」

北海道日本ハムファイターズの監督就任1年目でリーグ優勝を果たし、2016年には日本一に輝いた栗山英樹さん。現在はメジャーリーグで活躍する大谷翔平選手や清宮幸太郎選手といった注目の若手選手も育てている。今年は監督8年目、3月29日に開幕する新シーズンに向けて、新たなスタートを迎えようとしている。

“勝利か育成か”ではなく勝つことと育成はイコール

ヤクルトスワローズの外野手だった栗山さんは1990年に29歳で現役を引退し、野球解説者やスポーツキャスターとして活躍してきた。そして引退から21年後の2011年に北海道日本ハムファイターズの監督に就任した。

「現役を引退したとき、将来自分が監督になるなど全く予想もしていませんでした。ですので、お話をいただいたとき、自分に監督ができるのだろうか、自分が受けていいのだろうかと、すごく考えました」

これまで選手、解説者、そして監督としてプロ野球に関わってきたが、「今が一番プロ野球っぽくないですね」と栗山さんは笑う。

「プロ野球選手になりたくて飛び込んだ世界で、現役時代は厳しい競争の中でなんとかしなきゃいけないと、もがき苦しみました。その後は取材者としてプロ野球を見続けてきましたが、監督になってからはプロ野球という意識は全くなくなりました。それぞれの選手をどうやって生かすか、一緒に戦ってくれているファンの皆さんにどうやって喜んでもらうかということばかり考えています」

そういった中で栗山さんが最も意識しているのが、選手たちの幸せだという。

「僕は監督として、彼らがうれしそうな顔をしてキラキラ輝いて野球ができるようお手伝いをするだけです。野球を大好きな子たちが一軍の試合で大活躍するために、できる限りのことをやり尽くす。全員が全員そうなるわけではありませんが、同じような分量で一人一人の選手たちのことを考えて一生懸命やらなくてはいけない使命があるので、今はそれだけを考えて必死にもがき続けています」

とはいえプロである以上、チームの勝利を第一に考えなければならないこともある。チームの勝利と各選手の幸福、このバランスをどう取っているのか。

「よく勝利か育成かという話になりますが、それは僕にとって全然関係がなく、勝つことと育成はイコールだと思っています。みんなが勝つことに意識を持って勝ちきっていくことが必ず個人の幸せにつながるし、逆に言うと、勝つために一人一人に一番いい選択肢を与えてあげれば、チームは必ず勝つものだと思っています」

秋季練習で若手選手たちに『論語と算盤』を手渡す

監督2年目に、大谷翔平選手がチームに入団した。“二刀流”に挑戦する大谷選手に対して、日本中から大きな注目が集まった。監督として、このような注目選手を預かることへのプレッシャーはあるのだろうか。

「プレッシャーはかかりまくりですね。例えば翔平を預かったとき、あれだけの才能を持つ野球界の宝をもし壊したらどうしようという怖さはずっとありました。無理のないようにやらせるのなら誰にでもできるが、それでは意味がない。二刀流は誰もやったことがないので、試行錯誤の連続でした。大事な試合に際して自分を試合に出してくれと言う翔平を止める場合もあったし、負担をかけながらも勝負をかけて出していくこともあった。その判断は非常に難しかったですね。そういう意味では、こちらが翔平からいろいろと学ばせてもらったと思っています」

栗山さんは、シーズンオフの11月に行う若手中心の秋季練習で、午後の時間を座学に当て、日本の資本主義の父といわれる渋沢栄一の著書『論語と算盤(そろばん)』を選手たちに手渡している。選手たちに人間的に成長してもらうためだ。

「『論語と算盤』は、お金もうけをするにも道徳が必要で、私心を捨てて人のために尽くすことを説いています。野球も同じで、自分のことだけを考えていたら、その結果など高が知れています。仲間のため、家族のためにやらなければ本物になっていかないし、人間的に成長するというのはそういうことだと思います。野球をやらせてもらっていることへの感謝があれば、例えばファンにどう接すればいいかなど説明されなくても分かるはずだし、そういうことがこのチームが持つ原動力になっていると僕は捉えています。ですから、大事な秋季練習で午後の時間を座学にしているんです」

『論語と算盤』を渡された選手たちが、たとえ今は読まなくても、または読んでよく意味が分からなくても、いつか人生に必要になったら必ず読んでくれると信じていると、栗山さんは言う。

優勝したからこそチームの課題が見えてくる

栗山さんは2016年にチームが日本一に輝いた後、自著で「優勝するとさらに課題が見えてくる」と述べている。実際に優勝後のインタビューでも「日本一にはなりましたけど、まだまだ途中のチーム。明日からしっかりと前に進んでいきます」と答えている。

「優勝したからといって全部がうまくいったわけではありません。優勝したときにこそ足りないものがはっきりと見えてくるんです。昨シーズンのように負けてばかりだと、“あれをこうしていたら”といった“たら”ばかりで、それが本当にそうなのかは分かりません。ところが優勝したときは、明らかにこれはできなかったというものがはっきりと浮き彫りになります。ですから、あの日本一になる瞬間の手前など、“このチームをなんとかしないと来年から勝ちきれないぞ”みたいなことが頭に浮かんできたほどです」

昨シーズンのファイターズはパ・リーグ3位に終わり、クライマックスシリーズでもファーストシリーズで敗退した。今年の新シーズンを迎えるにあたり、今後の意気込みを語っていただいた。

「昨シーズンは本当に悔しい思いをしました。最後の日本シリーズまで野球をやらないと選手も成長しきらない。これで負けたら終わりという状況で野球をやることがどんな練習よりもうまくなる道なので、勝ちきっていけるようにならないといけないというのが一つです」 そしてファイターズは昨年11月、北海道北広島市に新球場「北海道ボールパーク」をつくることを発表した。4年後の23年3月にオープン予定で、日本初の開閉式天然芝球場となる。

「新球場は野球をやっている人間にとって夢のような球場なので、それまでに最低でも一回は優勝して、常勝チームをつくってそれに臨んでいかなければいけないという使命があります。僕がいつまで監督をできるか分かりませんが、そこに向かって無駄のない一歩一歩、一日一日を過ごせるようにしっかりやっていきます。そして、野球の面白さを伝えるためにも、ぜひ皆さんに喜んでいただけるような野球を目指していきます」

栗山 英樹(くりやま・ひでき)

北海道日本ハムファイターズ監督

1961年東京都生まれ。東京学芸大学を卒業後、84年にドラフト外で内野手としてヤクルトスワローズに入団。2年目にはスイッチヒッター、外野手に転向し、89年にはゴールデングラブ賞を獲得した。90年に現役を引退後、野球解説者、スポーツキャスターとして活躍。少年野球の普及にも努め、2004年から白鷗大学で教壇に立つ。12年には北海道日本ハムファイターズの監督に就任し、以来、チームを2回のリーグ優勝、16年には日本一に導いている。

写真・後藤さくら

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