国の新観光ビジョン策定が遅れている。2016年に策定された「明日の日本を支える観光ビジョン」で示された訪日外国人客4000万人目標は、18年には3119万人に達し、目標に大きく近づいていた。
▼しかし、新型コロナウイルスの世界的感染拡大で、インバウンドを中心に、まさに観光客は「蒸発」してしまった。
▼新ビジョンの策定は、本来なら21年には新たな目標が示されるはずであった。しかし、いまだに計画の策定がなされず、目標なき空白は既に1年を過ぎている。国の諸事業はもとより、地域の観光戦略も大きな影響を受けている。
▼そんな中、今年3月末、北海道ニセコ町の新たな観光ビジョンが10年ぶりに改定された。ポストコロナと、2030年度末の北海道新幹線の札幌延伸をにらんだものである。
▼新ビジョンは、観光リスクマネジメントの重要性、観光の在り方そのものの転換という認識が背景にある。持続可能な観光の国際基準「GSTC-D」を基軸に、次世代を見据えた観光地域づくりの方向性が示された。
▼観光消費額や延べ宿泊者数の指標は従来通りだが、観光客満足度やリピーター率が重視され、さらには「宿泊客に起因する環境への負荷量」と「観光で生活が豊かになると思う町民の割合」という新たな指標が示された。特に、観光消費が町民生活に与える直接・間接の効果を「見える化」するだけでなく、町民が観光を前向きにとらえ参加する(楽しむ)という、これまでにはなかった指標が注目される。
▼観光は経済活動であると同時に、地域住民による豊かな地域づくりである。これこそが、まさに「住んでよし訪れてよし」の理念なのであろう。 (観光未来プランナー・日本観光振興協会総合研究所顧問・丁野朗)
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