100年以上にわたり地域と企業の発展とともに歩んできた、いわば“老舗商工会議所”が抱えている地域の課題と解決へ向けた取り組み、さらに次の100年へ向けた意気込みについて、当該商工会議所の会頭に聞いた。
リニア新幹線の開通に向けた取り組みでまちの新たな発展と活性化を狙う
1920(大正9)年に創立した飯田商工会議所がある飯田市は、長野県の南端部に位置する。ここに2027年開業予定(実際には遅延が予想されている)のリニア中央新幹線の駅が設置されることが決定しており、開通すれば飯田市から東京(品川駅)まで45分、名古屋までは25分でつながることになる。飯田商工会議所ではこれを地域の新たな発展のチャンスと捉え、次の時代に向けたさまざまな取り組みを行っている。
リニア中央新幹線の開通で人の流れが大きく変わる
人口約10万人の飯田市の市街中心部は台地の上にあり、通称「丘の上」と呼ばれている。13世紀初めにはこの台地に飯田城が築かれ、江戸時代は飯田藩の城下町として栄えていた歴史がある。
「ここは城下町をベースとしているので、周辺には商人が多く、それを中心にしてさまざまな地場産業が集積していました。1920年に商工会議所が創設された際も、地域の商人の方々の熱心な活動があったと思います。今は商業を中心に、精密機械工業や農業が主な産業となっています」と、飯田商工会議所の原勉会頭は言う。
飯田商工会議所は、史料によると前身の商法会議所が1880~82(明治13~15)年に設立されたとなっているが、記録が定かでなく、正式には商工会議所が発足した1920年を創立年としている。
江戸時代は交易の拠点だった飯田市だが、現在は東京や名古屋といった大都市圏と直接結ぶ鉄道路線はない。鉄道は東海道新幹線が止まる愛知県の豊橋駅と結ぶ飯田線があるが、特急でも2時間半かかる。そのため、東京・新宿(片道約4時間)や名古屋(同2時間半)と結ぶ高速バスも重要な交通手段となっている。その飯田市に、2027年に開業予定のリニア中央新幹線の駅(仮称「長野県駅」)が設置されることが決定した。
「これまで飯田市は交通の便が非常に厳しい環境にありましたが、リニア中央新幹線が開通すれば、東京まで45分、名古屋まで25分で行けるようになる。これにより自分たちが都市部に行きやすくなるだけでなく、全体的な人の流れが大きく変わり、多くの人を飯田市に呼び込みやすくなります。そのためのさまざまな準備を今進めているところです」
大学の新学部誘致により若者たちをまちに呼び込む
「今、飯田商工会議所が一番力を入れているのが、信州大学の新学部の誘致です。地域の行政や経済界、産業界とともに誘致推進協議会を立ち上げ、誘致活動を進めています。飯田市には大学がなく、これまで地元の若い人たちは大学進学で外に出ると、そのまま帰ってこない一方通行でした。大学ができれば、その流れを変え、外から多くの学生さんを迎え入れることになります。リニア中央新幹線ができれば帰省も楽になるので、進学先として選びやすいでしょう。これにより、まちが活性化し、地方都市の大きな悩みである人口減少を少しでも押しとどめることができるのではと期待しています」と原会頭は目を輝かせる。
大学のキャンパスができて多くの学生がまちに住むようになれば、学生向けアパートが必要になり、飲食店や娯楽施設などの需要も増えてくる。そして彼らはそういった場所でアルバイトもするようになる。まちの経済活動が大きく変化するのは確実である。
「商工会議所の役割として、そういった面でのご提案はできるので、これによって飯田市の皆さんの意識改革を促していきたいと思っています。それと同時に、大学の学生さんたちの活動は大学の中だけではないので、まち全体がキャンパスになるようなことも提案していこうと考えています。信州大学の新学部創設が文部科学省に認可されたので、いま最後の誘致運動を行っているところです」
リニア中央新幹線の新駅も大学も、一度できればそれから何十年と存続していく。これを元にまちづくりをしていくことで、人口動態においても経済においても、長期間にわたりダイナミックな変化が起こることは間違いない。
信州の南の玄関口として非常に重要な存在となる
交通面ではリニア中央新幹線のほかに、全線開通を目指して工事が進められている三遠南信自動車道も、飯田市の産業発展にとっては大きな転機となる。三遠南信自動車道は飯田市と静岡県浜松市を結ぶ全長約100㎞の自動車専用道路で、愛知県東部(東三河)と静岡県西部(遠州)、長野県南部(南信州)地域一帯の総称である三遠南信から名付けられている。
「これまで飯田市の物流は市内を貫く中央自動車道で東京や名古屋に向かっていましたが、三遠南信自動車道が開通すれば、浜松と約1時間で結ばれることになり、三河湾の港湾とも短時間でつながります。そのため、海がない長野県にとって飯田市は信州の南の玄関口として非常に重要な存在になると考えており、飯田商工会議所としてもその点をアピールしています」と原会頭は力を込める。
大都市圏や物流拠点への交通インフラが整うことは、産業にとって大きな起爆剤となる。それを有効に活用するには、市内の交通インフラも整備して人や物の流れをスムーズにし、外から来る人たちの受け入れ態勢や情報通信環境も整える必要がある。これらは行政が中心となって進めていくことだが、同所も積極的に協力して対応していく。
「創立100年となった飯田商工会議所は、次の100年のためにまちを持続可能な地域にしていく必要があります。そのためにはリニア中央新幹線と三遠南信自動車道の開通、そして大学誘致に向けた取り組みが非常に重要になるので、そのための正確な情報発信や提案を行ってまいります」と原会頭は意気込みを語った。
未来に向けた市の発展が期待される中、同所の役割は今後ますます大きくなる。
会社データ
飯田商工会議所
所在地:長野県飯田市常盤町41
電話:0265-24-1234
※月刊石垣2022年6月号に掲載された記事です。
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